92.面倒事は嫌です

☆★???★☆

「命令が下った。『アリアルファ星系にて高水準の技術を確認、確認せよ』との事だ」


 感情の起伏が少なく、表情にも変化のない男がモニターに向かって命令を伝える。

 男の頭には毛が無いが黒く、歳は四十台だろうか。

 よく見ると右目がかすかに光っており、左目とは違うのが分かる。


『ハッ! アリアルファ星系に調査団を向かわせます。調査規模は『一』でよろしいですか?』


「いや『三』で行くのだ。今までは科学のかの字も無かった所に、いきなり反応が出たのだ。我々と同じ事が起きているのかもしれない」


『了解しました。『三』規模の調査を行います』


 モニターが消えて男は後ろで手を握る。

 正面を見ると外の様子が映し出された巨大なモニターがあり、そこには建造中の宇宙船が映されていた。


 命令を受けた兵士十名程が待機所でだらけている。

 隊長らしき人物は待機所の壁にある操作パネルを操作し、『三』規模編成のオーダーを通している。


「たいちょ~、そんなマジになんなくっても大丈夫ですって。どうせ今度も現地調査員の勘違いですってば」


 宇宙服にも見えるが、胸から肩、腹部、腰から太もも、ひざから靴までの強化樹脂の濃い緑色の鎧を着ている。

 腕にも鎧があるが、出撃前なので付けていないようだ。


「そうかもしれないが、本店から説明を求められるんだ。それなりの体裁と形式を整えなきゃいかん」


「成果のない調査でも、ボーナスが出りゃやる気も起きるんですがねぇ」


「それは俺も同感だ」


「じゃあ隊長、偉い人たちに言って下さいよ~」


「言えるか! 出撃手当がもらえるだけマシだと思え」


「へ~い」


「よし、オーダーは通ったな。お前達、今から三十分後に港……おっと、ステーションハーバーに集合だ。遅れるなよ」


 兵士達は思い思いの格好で右手で拳を作り、腕を伸ばしたかと思うと胸の前で肘を曲げた。


 三十分が経過し、ステーションハーバーには兵士が集まっていた。

 どうやら宇宙港のようで、六百メートル級の宇宙船が複数停泊している。


「各自、役割は確認したな? 装備、艦載機のチェックはOKか?」


「チェック完了です!」


「よし、それでは乗り込め!」


 後部のハッチから乗り込み、最後の兵士が乗り込む際にスイッチを押してハッチを閉じた。

 直ぐにコックピットの中に人影が現れ、十三名の兵士が席に着いた。


 宇宙船は縦長の流線形、左右後方に小さな翼らしきものはあるが、少し平らな本体から流れるようなラインで一体化している。

 オレンジ色のボディーに白と赤で炎っぽいマーキングになっている。


 本体後方と翼にあるエンジンが点火し、青い光を放ちながら前進を開始、四角い通路に入って加速すると、出口の隔壁替わりのエネルギーウォールの光を浴びて飛び立っていった。


☆★アリアルファ星系★☆

「お願いしますブルースさん! この依頼を受けてください!!」


 デモンスレイヤーの受付嬢ジョディに、おがまれるように頼まれたブルース。

 モンスター討伐の依頼は、基本的に本人達が受けたい物だけを受ければいい。

 しかし稀に指名を受ける事もある。


「どんな依頼ですか?」


「調査依頼なんですが、マグマ洞窟の中に正体不明の生命体がいるようなので、それを調べて来て欲しいんです」


「え~マグマ洞窟~? 私あそこ嫌いだな、熱いし」


「熱いのは嫌なんだな、ダナ」


「私も熱い所は嫌いだわ」


「まったくですわ、観光出来る場所を案内してくださいまし」


「あのみんな? 熱いのが嫌なのは分かるけど、依頼をそういう理由で断るのはどうなの?」


 ブルースがみんなの意見で困っている。

 ローザはもちろん、シアン、オレンジーナ、エメラルダもみんな嫌がっている。

 シルバーは何も言わない。

 ブルースも熱いのは嫌だが、頼りにされると嬉しいようだ。


「何とかお願いします! 皆さんじゃないとお願いできないような難易度なんです!」


「ブルーを危険な目に会わせようっていうの!?」


「いやいやジーナさん、デモンスレイヤーの仕事は全部危険だから」


「ならローザさんが一人で行かれてはいかがですの?」


「ほっほぉ? エメちゃんは義理姉を危険な目に合わせても平気なのね?」


「誰が義理姉ですか、誰が!」


 自信満々に自分を指さすローザ。

 二人はにらみ合い、頭がぶつかりそうな距離で火花を散らしている。


「それで調査する生命体って、他に情報は無いんですか?」


「今わかっているのは、マグマの近くに巨大な何かがいる、という事だけです」


「じゃあ目的は巨大な何かが、なにであるかが確認できれば良いんですね?」


「そうです。ただ、無理はしないようにお願いします。途中で危険だと思ったら中断してください」


 デモンスレイヤー本部を出て、魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗って移動を開始する。

 ブルースが運転し助手席にはエメラルダ、後部荷台にはローザ、シアン、オレンジーナ、シルバーが乗っている。


「正体不明の生命体って何だろうね~?」


「本当ね。マグマ洞窟には昔から色々な逸話があるけど、まさか行く事になるとは思わなかったわ」


「オレンジーナ、逸話ってどんなのがあるの? ノ?」


「そうね、例えばドラゴンが住んでいて、普段は寝ているけど数百年に一度目が覚めて近くの街を襲うとか、悪魔教の司祭が悪魔を召喚させたとか、神の怒りを買うとマグマが無限にあふれ出て世界を滅ぼす、とかかしら」


「どれも怖い事ばっかりなんだな、ダナ!」


 オレンジーナの腕にしがみ付いて涙を流すシアン。

 一泊した翌日にはマグマ洞窟が見えてきた。

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