91.ひと時の平安

 クロスオーバー教の総本山がある洞窟にやって来たオレンジーナとエメラルダ。

 場所が分かりにくくはあったが、入り口に誰もいないのが気になる。


「それではお姉様、行きますわ」


「あ、待ってエメ。これを持っていて」


 オレンジーナが手渡したのは、随分と痛んた木の腕輪。

 もう一つあるようで、オレンジーナは腕にはめず待っている。


「これは?」


「クーダーバハの箱よ。腕にはめると、腕輪をしていない人からは気付かれないようになるの」


 そう言われてエメラルダはオレンジーナを見て腕輪をはめる、それを見てオレンジーナも腕輪を付けるのだが、これで周りからは気付かれないのだろうか。


 洞窟に入るが地面には大小様々な石が転がっており、土も湿っている。

 思うように進めなずゆっくりと移動するが、少し進むと薄暗くて足元が見えにくくなってきた。


「お姉様、ライトの魔法を使っても大丈夫ですの?」


「わからないの。なにぶん初めて使うし、経典にも灯りをともすシーンは無いから」


 魔法を使えばクロスボーダー教に見つかるかもしれない、しかしこのままでは進むこともままならない。

 ここは覚悟を決めてライトの魔法を使った様だ。


 かなり慎重に進むのだが、それは取り越し苦労に終わる。


「誰もいないわね」


「人がいた気配はありますが、しばらくは使われていないようですわね」


 地下洞窟を進むと整備された通路が現れ、その先にはきれいな廊下とあちこちに部屋があった。

 そして今は大聖堂だろうか、洞窟の壁を削って作ったらしい老人の像が見える。


「一体誰ですの? この方は」


「どこかで見たことが……そうだわ! ボーダーレスを予言した学者だわ!」


「え? 数百年前に予言を出した学者さんですの? でもなぜこんな所に?」


 二人で頭を悩ませるが、クロスボーダー教の目的を考えれば自ずと答えが見えてきた。


「クロスボーダー教はボーダーレスこそが至高と考えているわ。ならボーダーレスを予言した学者をあがめている、という事かしらね」


「でもブルーお兄様を襲いましたわ?」


「ボーダーレスを崇めるのは、自分がボーダーレスになりたいからよ。だからそのためには手段を選ばないの」


「自己中な宗教です事」


 その後も地下洞窟を探索したが、人がいなくなってひと月は経っている、という事が分かっただけだった。


「無駄足でしたわね」


「ここを破壊……いえ、残しておいた方がいいかしらね。アジトの場所が分かっているし、ここに戻って来る信者が居るかもしれないわ」


「そうですわね。所在不明になるよりはマシですわ」


 王都に戻ると、ブルース達からシャルトルゼの話を聞いた。

 ブルースは今にも死にそうな顔をしているし、ローザもシアンも不安でいっぱいな顔をしている。


「そう、シャルはバンデージマンになっていたのね……」


「シャル兄さんは故郷を護った際に誘拐され、そのまま改造されてしまったのですわね」


「うん、それでブルー君が会話を試みたんだけど『殺す』しか言わなくって、もう無理だと思って……その、殺したの」


 ローザが上目遣いに説明するが、それを聞いた姉妹は険しい顔をする。

 それもそうだ、多少(?)の異常性はあったが兄妹なのだし、ブルース以外には良い兄、良い弟だったのだ。


「それで、ブルーに怪我はなかったの?」


「ブルー君は軽い怪我をしたけど、もう治ってる」


「良かったですわ。シャル兄さんを無くした上にブルーお兄様に何かあったら、私は自分を許せませんわ」


「ゴメン、二人とも。僕じゃあシャル兄さんを止められなくて……」


 ブルースが、まるで殴ってくれと言わんばかりに歯を食いしばる。

 だがそんな事をするはずもなく、むしろ二人はホッと一息ついていた。


「あなたが無事ならそれでいいわ。大体、シャルに結婚を言い寄られた私の気持ち、知ってるでしょ?」


「だけど……」


「それにお父様たちも気にする事はありませんわ。戦った末に倒したのなら、あの人たちは何も言いませんもの」


「え? でも息子だよ? 捨てられた僕が、父さんが可愛がってる息子を殺したんだよ?」


「ほら、ウチって良くも悪くも武闘派じゃない? 決闘で命を落としても『弱かったから』で終わるわ。悲しみはするだろうけど」


「えっと、そこまでだったの? ウチって」


 オレンジーナとエメラルダが首を縦に振る。

 武で成り上がった貴族なので、武に依存するのは当たり前で、常に強さを追い求めている。


 負けた死んだのならそれまで、しばらくは悲しむだろうが自分達の戒めにもなるだろう。

 王都で方々に説明をして回り、ようやく時間が取れたので実家へと戻る事になった。


「そうか、ブルーとの決闘の末、体が残らない程に焼き尽くしたか」


 それを聞いた兄弟たちは悲しみ、避難所から飛び出して暴れるのだが、父親のブラックリンは思ったよりも冷静だった。

 静かに立ち上がり剣を抜くと、両手で顔の前で構え目をつむる。


「父上、お母様はまだ床にせっておいでですか?」


「いや、今は避難所を回っている。あいつには俺から説明をしておこう」


「お願いします」


 ☆★???★☆

「命令が下った。『アリアルファ星系にて高水準の技術を探知、確認せよ』との事だ」

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