89.二人の新しい力

「い~やぁ~!! なんか生えた! 顔が生えたぁ!?」


 子供のバンデージマンの首がリック博士によって落とされたかと思うと、胴体からは頭が生え、頭からは胴体が生えてきた。

 胴体にだけ包帯があるバンデージマンと、顔にだけ包帯のあるバンデージマンが誕生してしまった。


「再生能力が高いですね。細胞の異常活性化を確認しました。ガン細胞に近いようですが、まさかこの世界で細胞を制御できるとは思いませんでした」


「はわわ、はわわわわ! な、何が起きてるんだよ、ダヨ!?」


 冷静に分析するシルバーと怯えるシアン。

 色々な面で対称的すぎる二人だ。


「子供だからって気持ち悪すぎるわ! もう、来ないでー!!」


 胴体に包帯がある方を大剣で頭から真っ二つにするが、地面に倒れたかと思うと半身が生えてきた。

 ぷちん、と何かが切れる音が聞えた。


「ばっ」


「「ば?」」


「バッ!!」


「「バ?」」


『バーニング・ナックル!!』


 ローザの右腕に丸みを帯びた直方体の巨大なガントレットが装着され、バンデージマンに向かって飛び掛かるように拳を食らわせた。

 それと同時に爆発音がすると、ガントレットの先端から炎の竜巻が発生する。


 ガントレットの直撃だけでも体がひしゃげていたのに、炎によって空高くに舞い上げられ、遂には高熱により灰となる。

 流石に灰となっては再生は出来ないようだ。


「いーーーーやーーーー!!」


 左手にもガントレットが装着され、残りの二体も同じように灰となってしまった。


「なるほど、籠手こてに内蔵された魔力を帯びた炸薬により、一瞬にして摂氏せっし五千度を超える高温を発生させているのですね」


「せっしってなんなんだな、ダナ?」


 子供のバンデージマンを倒し終えたローザだが、両手のガントレットを顔に当てて泣いていた。


「ブルーくーん、ブルーくーん気持ち悪いよー! ……あ」


 ブルースのパワードスーツはあちこちが黒く焼け付いており、右肩のガトリングガンの銃身は何本かが溶けていた。


「兄さん……シャル兄さん! どうして兄さんは僕をイジメるの? なんで僕の話を聞いてくれないの!」


 バンデージマンが作り出した炎と氷と雷を纏ったゴーレムは、問答無用でブルースに襲い掛かる。

 左半身の炎であぶり、右半身の氷で動きを制限し、頭の雷で機能を低下させる。


 それだけでも電子機器の搭載されたスーツには致命的だが、バンデージマンも魔法攻撃をしてくる。

 巨石を落とし、空間を破裂させてもてあそび、地面に亀裂を作って落とそうとした。


「お願いだ……兄さん、せめて理由を聞かせてよ……」


 ゴーレムの拳がパワードスーツの胸に命中し、地面を何度も転がる。

 戦えば勝てるはずだが、イジメられ、殺されかけたといっても兄弟、しかもシャルトルゼの前では未だに委縮してしまうようだ。


 ゴーレムが大地に帰った。

 バンデージマンがゆっくりとブルースに近づくと、倒れているブルースに乗りかかり拳を振り上げた。


 甲高い音が何度も鳴り響き、ブルースは腕でガードする事しか出来ていない。


「やめて兄さん、やめてってば!」


 腕を振り払うと、バンデージマンの左ひじが折れたようで、プラプラとぶら下がっている。

 だが骨折は直ぐに治り、元通りに……いや、折れた場所からもう一本腕が生えてきた。


 左腕の肘から先が二本になってしまった。


「んんんん? 再生能力にミスが発生したかな? ふむふむ、再生に関しては四十五号の方が正解だったか」


 リック博士は一人で納得しているが、そんな姿を見てブルースは必死にバンデージマンを振り落とす。


「うわ!? うわああああ!!」


 上に乗っているバンデージマンを振り落とそうと暴れると、今度は右手首が折れてしまった。

 ……折れた右手首は再生され、更にもう一つ手が生えてきた。


「に、にい……さん……」


 バンデージマンは走ってブルースにとりつこうとするが、腕を伸ばして止めようとしたら顔を掴んでしまい、そのまま首が折れた。

 頭が背中側に落ちそうになるが、すぐに骨折は治りそして……顔が生えてきた。


 生えてきた顔はシャルトルゼに似ており薄い緑の髪をしている、いるのだが、その顔は狂ったように口を大きく開いており、白目をむいていた。


「ひっ!?」


 腰が抜けて逃げそうになるブルースに、ローザが声を張り上げた。


「ブルー君しっかりして! そんなのがお兄さんのわけ無いじゃない! 勝手に改造されて、中身なんてもう別なんだから!!」


 その言葉を聞き、ブルースはグッと歯を食いしばる。

 バンデージマンの腹を蹴り飛ばすと背中から倒れるのだが、増えた腕と手首のせいで上手く立ち上がれない。


レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクス! 来い!」


 頭上にレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが現れ、縦に割れるとブルースを挟むように融合していく。

 焼けた装甲が新しく張り替えられ、溶けたガトリングガンは短くなり、大きかったパワードスーツは体に密着するウエットスーツの様になる。


 体から強い光が発せられ、光が収まると黒く体に密着した鎧を纏った姿が現れた。

 顔はマスクのように白いが、口と鼻は無く、目の部分には横一本の細いカメラレンズがあるだけだ。


「兄さん、さようなら」


 両腕を前に突き出すと、腕から四角い銃身がせり上がる。

 銃口が青い光を発すると太い二本のレーザーがバンデージマンの足元から蒸発させ、ゆっくりと、確実に頭までを消滅させた。

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