88.一つの完成形

 空間に穴が開いたような黒い何かがブルース達の側で爆発したが、ギリギリで伏せれたためダメーシは最小限に抑えられた。

 だがブルースはその黒さに覚えがあった。


真黒ベンタブラック!?」


「え? それってブルー君のお兄さんが使ってた魔法?」


「うん、闘技場での戦いで、僕が吸い込まれそうになった魔法だよ」


「でも今の魔法は爆発したんだな、ダナ?」


 使われた魔法は真黒ベンタブラックで間違いなかった。

 だが特性を変化させることで爆発を起こさせたようだ。

 魔法使いウィザードでは不可能な事だ。


 湖側から三人の人影が近づいて来る。

 大人と子供のバンデージマン、一人は薄汚れた白衣を着た老人だ。


「初めまして、ワシはリックという研究者だ。君たちは面白そうだね、ぜひお近づきになりたいのだが」


「リック……あなたがバンデージマンを作たんですか?」


「おお! そういえばそんな名前で呼ばれているんだったね。ありがとう、ワシは数字で呼んでいたからね、名前を付けてくれて嬉しいよ」


「ふざけないでよ! 人をそんな風に改造して何が感謝よ!」


「嬉しいに決まっているだろう? 名前みたいな考えるのが面倒な物を付けてくれたのだからね」


 リック博士はとても落ち着いている。

 しかし二体のバンデージマン、特に大人のバンデージマンは興奮しているのか息が荒く、今にもブルースに襲い掛かりそうだ。


「こらこら四十四号、ワシの話が終わっていないだろう? もう少し待つんだ」


 少し後ろに下がるが、やはり息は荒い。


「それで君達に聞きたい事があるのだよ。君たちのスキルはなんだね?」


「そんな事教えるはずないでしょ!」


「いやいや、お嬢さんが剣士ソードマンなのは分かっているが、それだけではないのだろう? ボーダーレスとなり、得た力は何なのかと聞いているのだよ」


 すでにボーダーレスである事がバレているようで、ブルースとローザは無言で睨み返す。


「ん~、らちが明かないな。仕方がない、自分で調べるとしようか。四十四号、四十五号、四人を動けないようにするんだ」


 リック博士の合図とともに二体のバンデージマンが飛び掛かる。

 

「みんな! 薬は持ってるね!?」


「もっちろん!」


「よ、予備もあるんだな、ダナ!」


「一応持っています」


 大きなバンデージマンは迷うことなくブルースへと襲い掛かる。

 子供のバンデージマンはローザへ。

 シアンはシルバーの足にしがみ付き、シルバーは戦闘態勢に入っているが、今はシアンの護衛に専念するようだ。


 バンデージマンの右ストレートがブルースに襲い掛かるも、何度も戦っているためパワードスーツの展開も早く、簡単に左手で掴んだ。

 だがその拳が熱を持ち始め、パワードスーツの左手が赤くなったため慌てて手を離した。


「な、なんだ今の!?」


「ぶ……るーすぅ……こ、ろす」


「しゃ、喋った!? 兄さん、シャル兄さんですよね! 意識をしっかり持ってください!」


 だがバンデージマンは獣の様な唸り声を上げて、ブルースを睨みつける。

 そして詠唱する事なく炎、氷、雷、土の四属性の魔法を同時に使い、一つの術としてまとめ上げた。


 土で巨大な人型を作り、左半身が炎、右半身が氷、そして頭には雷を纏っている。


「に、兄さん!? 魔法使いウィザードにはこんな術は無いはず……!!」


 子供のバンデージマンはローザが相手をしていたが、今のローザならバンデージマンなど敵ではなかった。

 斧を持ってせまるバンデージマンの攻撃を軽くかわし、斧をはたくと足を引っかけて転ばせ、両手両足を後ろに回して掴んでいた。


「ブルー君、本気を出せないよね……」


 子供のバンデージマンは暴れているが、ローザは地面に押さえつけて動けなくする。


「マスターのスーツは以前も見ましたが、データが不足していて能力が把握できていません。負ける事は無いと思いますが、油断が出来る相手でもありません」


「ねぇシルバー、あの鎧はもっと強くならないの?」


「強化は可能です。レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスとの融合が可能と判断します」


「そっか。ならまだまだ大丈夫だね」


 ローザ、シアン、シルバーがブルースの戦いを見守る中、面白くない顔をしているのはリック博士だ。

 大人のバンデージマンはまだしも、子供の方は全く何もできていないのだから。


「くぅ~、全く情けない! いくら相手がボーダーレスだからといって、あれほど簡単に押さえつけられてしまうとは!!」


 右手をひたいに当て、首を横に振って大げさに嘆いている。

 だが額から手を離すと不敵な笑顔をし、指を鳴らした。


 ボン! という音と共に子供のバンデージマンの首が地面を転がった。


「え? ……ええええええええ!?」


 いきなりの事で何が起きたか理解できないローザは、驚いてバンデージマンから離れてしまう。

 するとどうだろう、首のない体は立ち上がり、首からボコボコと肉が盛り上がってきたかと思うと、あっという間に顔が再生した。


 その顔は人間の子供に近く、まぶたも唇もあった。

 そして……転がっている頭の首からも肉が盛り上がり、そろそろ上半身が出来る所だった。

 

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