81.量産型ではなくワンオフ

 王都の城壁が何者かに破壊され、モンスターが王都に向けて侵攻を開始した。

 モンスターは大氾濫ともいえる数で、突如として現れたのだ。


「ば、バカな! おい見張り! 何をしていた!!」


「み、見てました! 見てたけどいきなり現れたんです!!」


 城壁が破壊されただけでも大ごとなのに、畳みかけるようにしてモンスターが現れたものだから、指揮系統はグチャグチャだ。

 城壁を破壊された事への対応と、モンスターへの対応の二つ同時に行ったため、どちらの対応も中途半端となってしまう。


 ブルース達はエメラルダのペガサスとグリフォンに乗り、城壁へと向かっていた。

 レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスは先に破壊された城壁へと向かい、情報収取をしている。


「みんな、地下施設にいたらしい集団を見つけたよ。城壁を更に破壊して、モンスターを呼び寄せてるみたいだ」


 ヘルメットだけをかぶったブルースが、内部モニターに表示された情報を伝える。

 

「それではお兄様、まずはその集団から対処いたしますの?」


「そうだね、僕達でやらないと、あの数はどうしようもない」


「え? 地下施設にいた集団ってなんなのブルー君」


「……バンデージマンの集団」


 破壊された城壁の側で、一人の老人が大声で笑っていた。


「はーっはっはっは! 聖女セイントの結界などボーダーレスとなった我らの前では薄っぺらい紙も同然! さあお前達、このまま城壁を破壊して、モンスターを中に呼び込むのだ!」


 右目は閉じており、右目の上から頭頂部に向けて縫った痕のある長い白髪、白髭の老人が、バンデージマンを操り城壁を破壊させている。

 研究者は満足げにバンデージマンを眺め、うんうんと誇らしげだ。


「博士、三貴族の方々がお見えになりました」


「んんんん? はて、一体何の用かな?」


 部下らしい研究者に案内され、三人の男が現れた。


「何をやっているのだリック博士! なぜこのような事をしたのだ!!」


「これはこれはお久しぶりですねアボット侯爵・・・・・・。なぜと申されても、実験体たちの実地試験ですとも」


「実地試験だと!? そんな事はモンスターでも使えばいいだろう!」


「わかっておりませんねぇ。あなた方のコスト度外視の施術と違い、低コストの量産を目指すのなら、様々な実験が必要なのですよ。もちろん人間相手もね」


「馬鹿者が! その力は国のために使うのだと説明しただろう!」


「ええ国のためですとも。ボーダーレスの量産化が進めば、ゴールドバーク王国の戦力は飛躍的に向上する。これはその為の実験なのですから」


「ならせめて隣国に対して――」


「おっと失礼、先ほどから虫が飛び回っていますね。それと、お客様ですよ」


 リック博士が手で会話を遮ると、別の男性が連れてこられた。


「伯爵!? なぜこのような場所にいるのだ!!」


 しばらくしてブルース達が破壊された城壁に到着すると、すでに貴族や博士たちの姿は無かった。

 すでにどこかへ行ってしまったようだが、伯爵だけが胸から血を流し、すでに息をしていなかった。


「ブルー君あれ! あそこでバンデージマン達が暴れてるわ!」


「よし、みんな行くよ!」


 急降下して城壁を破壊しているバンデージマン達に突っ込んでいく。

 

「くらえ! 『レイジングスイング』!」


 ローザが城壁を破壊しているバンデージマンを壁から引きはがす。

 壁を破壊していたバンデージマンの数は十二体、その全てがローザに襲い掛かる。


「ジョシュ伯爵! ……ダメね、すでにこと切れているわ」


 オレンジーナは倒れているジョシュ伯爵に駆け寄るが、すでに手遅れだったようだ。

 なのでそのまま破壊された結界の修復に取り掛かる。


「さあさあ、こちらですわよ!」


 エメラルダはペガサスをり、城壁の外にいた数体のバンデージマンに斬りかかる。

 どうやら内部と外部の両方から破壊していたようだ。


「あの、えっと、みんなはレジナルド第二王子を案内して欲しいんだな、ダナ」


 シアンは近づくに近づけない兵士達に、レジナルドの誘導を頼んでいる。

 バンデージマンの包帯を溶かす薬は数が少ないので、上の役職の者が持っているのだ。


 そしてブルースは。


「食らえ!」


 パワードスーツを身にまとい、右肩のガトリングガンを連続発射していた。

 どうやら個体によって能力が違うようで、半分以上のバンデージマンが直撃を食らっていた。


「ブルーお兄様! モンスター達がそろそろ城壁に届きそうですわ!」


「くそっ! 姉さん! 結界はまだ!?」


「まだかかるわ! きゃぁ!」


 オレンジーナの個人結界の上にバンデージマンが乗りかかる。

 結界を破壊しようと殴り掛かるが、そこへ誰かが駆け寄り液体をかける。


「シアンちゃん!?」


「こ、怖いんだな! お、おんぶしてて欲しいんだな、ダナ!」


 バンデージマンに包帯溶解液をかけ、そのままオレンジーナの背中に抱き付く。

 

「ええ、しっかり掴まっていてね。『鞭打ちの円柱』!」


 バンデージマンの背後に白い柱が現れ、包帯の溶けたバンデージマンが背中からはりつけにされ、腕と足も柱に沿って折れ曲がる。

 そのまま見えない何かが体を傷つけていくが、ある時を境にバンデージマンの体自体が消滅してしまった。


 その頃レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスはモンスター大氾濫の上空にいた。

 レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスの二辺が光ったかと思うと、大地には大量の砂煙が巻き起こる。


 広範囲の砂埃が晴れた後にはモンスターが倒れており、砂煙は大氾濫の先頭集団を覆い隠す。

 先頭集団の後から後からモンスターが突き進むが、一定のライン、砂煙から先へはモンスターが進む事は無かった。


 気が付けば砂煙は血煙へと変わり、遂にはモンスターが血煙の中から姿を現した。

 いや、姿を現したモンスターはすでに死んでおり、山積みになったモンスターの壁が崩れたのだろう。


 モンスター達は迂回して左右からも進行するが、ただ砂煙と血煙の範囲が増えただけだった。


 「ぶ、ブルー兄様のファランクスは、毎度毎度何をやっているのか理解できませんわね」


 数万のモンスターがたった一機のレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスに足止めされ、バンデージマンは数人により足止めされている。

 それをどこかからか見ていたリック博士は、さらなる戦力を送り込む。


「これでは実験にならないな。仕方がない、お三方、出番ですよ」


 アボット侯爵達に声をかけると、最初はキョトンとしていたが目の色が変わった。

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