53.中身の分からない荷物

「ジーナ姉さん? エメ? どうしたの?」


 手紙を読んだ二人がプルプルと震えている。

 涙目になりながら二人が振り向くと、手紙をクシャリと握りつぶす。


「ブルー……しばらくは別行動になっちゃうみたい」


「お兄様、私も離れなくてはなりませんの……」


 どうやらオレンジーナは地方の教会の人出が足りないらしくそちらの応援に、エメラルダは国境沿いの動きが怪しくなったらしく、上空からの索敵が命じられたのだ。

 それぞれが大主教、第十八聖師団長からの手紙だ。


 まぁ断る事が出来ない相手だ。

 エメラルダはまだ成人前だが、空を飛べるという特性上、あちこちから依頼が来るのだ。


「こうなったら大主教様を亡き者に……」


「聖師団長に薬を盛って……」


「ストーップ! 何考えてるの二人とも! そんな事したら国が大混乱しちゃうって!」


 怪しい思考に偏る二人をすんでのところで止め、何とか思いとどまらせる。

 相変わらずブルースと一緒に居るためならば手段を択ばない。


「はぁ、仕方がないわね。どうやら治療だけではなくて、日々の勤めにも支障が出てるみたいだから、嫌だけど行ってくるわ」


「第十八聖師団には鳥使いがいますけど、それでは間に合わない事態なのですわね」


 オレンジーナとエメラルダは顔を合わせてため息をつく。

 久しぶりにブルースと遊べると思ったら、余計な仕事が舞い込んできたのだから落ち込んでいる。


「今すぐに行くんじゃないよね? じゃあ今日はみんなで遊ぼ! お菓子食べて、ケーキ食べて、クッキー食べて!」


「チョコレートも食べたいな、ナ!」


 準備もあるからと適当に理由を考え、その日はみんなで街で遊ぶ事になった。

 そして翌朝になると二人が別行動をしようとするが……フロントで声をかけられる。


「ブルース様、御伝言を預かっております」


「え? 僕ですか?」


「はい。輸送の依頼をしたいので、第三区画の教会に来て欲しいそうです」


「直接教会からですか?」


「ええ、神父様が早い時間にいらっしゃいました」


 輸送業は以前もやっていたが、シャルトルゼとの決闘以降は色々な人物から決闘を申し込まれ、全て断っていた。

 しかし輸送の依頼は初めてなので、余程重要なものを運ぶのかもしれないと思い、話を聞きに行く事にした。


 オレンジーナ、エメラルダと別れて第三区画へ向かい、道を尋ねながら教会へとたどり着く。

 教会は少し寂れた場所に立っており、建物も少し痛んでいる。


「この教会かな?」


「第三区画の教会は一つしかないって言ってたし、ここでいいと思うよ!」


「なんか、ばっちいね、ネ!」


 シアンの素直な感想を聞いて、ブルースもローザも苦笑いをする。

 外が騒がしいので神父が様子を見に来た。


「どなたかな? ん? 君はブルース君かな?」


 髪のない年寄りの神父はブルースを知っているようだ。

 ブルースを知っているから依頼をしたのだろうし、特に気に留める事なく返事をする。


「はい、僕がブルースです。輸送の依頼を受けてまいりました」


「そうかそうか、では中へどうぞ」


 案内されて教会内に入るが、内部はそれほど痛んではいなかった。

 内部の手入れはしっかりしているが、外壁までは手が回らないようだ。


 一室に案内され、薄いお茶を出される。


「運んで欲しい荷物はこれなのだ」


 神父が持ってきたのは三十センチ四方の箱だった。

 恐らくは木製だろうが、黒く塗ってあるためハッキリとは見えない。


「中身を聞いてもよろしいですか?」


「中身はワシも知らんのじゃ。昨晩いきなり上から命令されてのぅ、超高級宿にブルースという運び屋がいるから、その者に三つ先の街まで運ばせろと」


 中身の分からない荷物は基本的に運ばないようにしているが、教会の仕事ならば危険なものを運ばせることは無いだろう、そう思って詳細を確認して荷物を預かった。

 神父は礼を言っているが、神父もいきなり命令されて困っていたようだ。


「ねぇブルー君、私、な~んか嫌な予感がするんだけど」


「嫌な予感っていうか、何か引っかかるよね」


「ジーナさんとエメちゃんと別れるタイミングで依頼が来て、中身もわからない荷物を運ぶんだよ? しかも昨晩いきなり決まったって。絶対なんかあるよ!」


 ブルースも違和感は感じているが、その違和感の正体がわからないでいる。

 シアンはあまり気にしていないのか、魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗れるのが楽しみなようだ。


「きっと急いでるはずだから、準備を急いで荷物を運ぶとしよう」


 数日分の食料などを買い込み、ブルース達は王都を出発する。

 道中は問題なく、三日ほどで目的の街に到着したのだが、どうにも街の様子がおかしい。


「ブルース、変なにおいがする、スル!」


「え? どうしたのシアン」


 あまり大きくない街なので、街に入る手続きが必要ないのだろうか、魔動力機関装甲輸送車ファランクスでそのまま門をくぐり、教会の場所を確認しようと魔動力機関装甲輸送車ファランクスから降りた。


 街には人も行きかい、特におかしな点は見当たらない様だが。

 シアンはクンクンと鼻を鳴らして匂いをかいでいるが、不意にピョンピョンとジャンプしてどこかへ行こうとする。


「シアン? ちょっとシアンどこ行くの!」


 後を追いかけるブルースとローザだが、シアンの進む先の建物の陰に、何者かが潜んでいた。

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