52.呼び出し

 シャルトルゼとの決闘が終わった数日後、ブルース達はローザの要望によりデモンスレイヤーの依頼を受けていた。


「うおおおおおお! ていやぁ!!」


 小柄な自身の身長よりも大きな剣を振り回し、モンスターをなぎ倒すローザ。

 銀色の長髪をなびかせて、軽量な革鎧のみを身に付けて暴れ回る。


「ひっかき回しますわよ! グリフォン!」


 そのフォローにエメラルダがグリフォンに乗り、低空飛行でモンスターの群れを混乱させる。

 緑色の長いポニーテールが風で真後ろに伸びているが、まだまだ本気で飛んでいないようだ。


「がんばれー! そこ! いけいけ! お肉を手に入れるんだよ、ダヨ!」


 戦闘に向かない兎人コニードゥのシアンが声援を送っているが、長い耳が状況によってピコピコ動いている。

 とても小柄で上半身は白い毛が生えた幼女、下半身はウサギの様な足なのでジャンプ力がある。


「私の出番はないわね。お茶の準備でもしようかしら」


 手持無沙汰なオレンジーナは適当な切り株を見つけ、お茶の準備を始める。

 オレンジ色の太陽の様に輝く長い髪、一見おっとりして見えるが敵に回したら恐ろしい。


「僕も手伝うよ」


 ヘルメットのサンバイザーを上げ、ブルースがオレンジーナと共にお茶の準備をする。

 青く雑に切りそろえられた髪だが、今は重装歩兵ファランクスの兜のため目元しか見えない。


 五人で仲良く超高級宿に泊まっているが、ブルースは貧乏性のせいかもう少し節約したいと思っている。

 超高級宿に泊まって二日目に提案したのだが「じゃあ家を買ってブルー君と一緒に住む!」と言われ、結局超高級宿に滞在している。


「これで最後ですわ! はぁ!」


 最後の大型モンスターをグリフォンから飛び降りて、首から背中に向けて剣を突き刺すエメラルダ。

 少しだけ暴れたが、直ぐに動かなくなり倒れていく。


「やっふぅ~! これで依頼は完了だね!」


「やったー! やったね二人とも、カッコよかったよ、ヨ!」


「みんな、お茶の準備が出来たわよ」


 戦闘直後で返り血も浴びているのだが、全く気にする事なくお茶をする面々。

 ここ最近はこんな事が続いており、戦闘を楽しむ……というよりもブルースとシャルトルゼの戦いを見て、自分達ももっと強くなりたいと考えたようだ。


 ★☆天界☆★

「ねぇねぇ、剣闘士グラディエイターの子とグリフォンナイトの子、そろそろランク上がりそうじゃない?」


「ん? ああ本当だね。とは言ってもLV90を超えているから、ここからが大変そうだね」


 天界で女神と男神がのんびりと地上の様子を見ている。

 丸い雲の様なモニターに映る五人を見て、自分達もお茶をしていた。


「それよりもブルースよね~。一人で無茶したせいで、そろそろ第四ランク世界が解放されそう」


「いやいや、まだ時間はかかると思うよ? 今みたいにブルースが直接戦う事は少ないし、聖具保管者サクリスタンの子も次は遠そうだ」


「ねぇ」


「なんだい?」


「なんか私達、ランクアップ前提で話をするようになってない?」


「今頃気が付いたの? ブルースが魔動力機関装甲輸送車ファランクスを出したあたりから、そういう会話になってるよ」


「そ、そうだっけ?」


「ああ。でもそろそろ前に進んで欲しいから、他の人間もランクアップして欲しいものだね」


 ☆★地上★☆

「伯爵は若すぎる。スキルの能力が変わる事の恐ろしさを知らんのだ」


 アボット侯爵と二人の貴族は、伯爵を置いて三人で話し合っていた。

 あまり人に聞かれたくないのか、随分と薄暗い部屋だ。


「予言の通りボーダーレスが現れたら、ゴミスキルの連中が躍起になって努力をしてしまうぞ」


「それはいかん! 我らは高貴なノブレスる者の義務オブリージュの意味をたがえてはダメだ!」


 一体何を恐れているのだろうか。

 それに高貴なノブレスる者の義務オブリージュは貴族が社会的義務・責任を果たすという意味のはずだ。

 何を違えてはいけないのだろうか。


「幸いボーダーレスの詳しい情報は知れ渡ってはいないはずだ。アレのスキルも何とか誤魔化しきるのだ」


 ☆★???★☆

「んで? 捕まえてくりゃいーんか?」


「でもでもでも、どうやって捕まえるの?」


「捕まえてどうする。招待して差し上げろ」


「じゃが招待しても、大人しく来るとは思えんがな」


「しかし我らの役目を果たすため、どうしても接触する必要があるのだよ」


 少し考え込むが、あまりいい案が思い付かないようだ。


「こうなりゃ神頼みでもすっか?」


「バカ者が。神なんぞワシらがもっともきらう事じゃ!」


「いや……意外と良いかもしれないな」


 


「お帰りなさいませ。目標の討伐は完了しましたか?」


「終わったよー! 私達にかかればチョチョイのチョイってもんよ!」


 デモンスレイヤーの本部に戻り、依頼達成の報告を行う。

 受付のジョディはローザとエメラルダから詳細を聞きながら、書類を作成している。


「はい、それでは報酬をお渡しします。お疲れさまでした。次の依頼を受けていきますか?」


「どうしよっかな。最近は連続して受けたから少し休もっか?」


「そうですわね、たまには休んでゆっくりしたいですものね」


「お菓子の食べ歩きをしたいんだよ、ダヨー!」


「それなら大通りにあるお菓子屋さんに行きましょうか」


「「「さんせー!」」」


 などなど、女性陣は息があっている。

 ブルースは大人しく付いて行くだけだが、傍から見たらただのハーレムなので、男連中の嫉妬がスゴイ。


 デモンスレイヤー本部を後にしようとすると、小走りで誰かが駈け込んで来た。


「お手紙でーす。これとこれと、これもね」


「今日は多いですね。お疲れ様です」


「じゃまたよろしく!」


 どうやら手紙の配達人のようだ。

 何枚も手紙をジョディに渡して次の配達先へと向かって行く。


「あら? オレンジーナさん、エメラルダさん、お二人にお手紙が来ています」


 え? と首をかしげながらも手紙を受け取る二人。

 封を開けて紙を取り出すと読み始める。


「地方の教会に出張……?」


「前線での空中哨戒任務……?」

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