14.王都での一幕

「オレンジーナ・フォン・ワイズマン、任務を終えて帰還いたしました」


 ブルースの姉であるオレンジーナが頭を垂れているのは、ゴールドバーグ王国の国王ウォーゼルだ。

 謁見の間の玉座の前で片膝をつき、右手を左胸に当て王の言葉を待っている。


 ウォーゼルは50歳前後だが白髪の多い金髪で、白髪を目立たせたくないのか短く整えられている。

 王としては若いために威厳を保とうと常に厳しい表情をしている。


「よく戻った。滞りなく進んだか?」


「はい。我が弟ブルースの鉄の馬車を、ジャレイ殿下でんかの護衛に使用可能です」


「そうか……だがオレンジーナよ、ブルースはワイズマン家から追放されたのではなかったのか?」


「たとえそうであっても、弟である事に変わりません」


「そうか……まあよい。鉄の馬車は安全なのだな?」


「はい、かなりの強度があるようです。矢や魔法では貫けないでしょう」


「そうか……ジャレイは戦いに向かぬが、王子としての責務は果たさねばならぬ。一体あと何回戦場に送らねばならんのか」


陛下へいか……お任せください、弟ブルースと共に、私が必ず護り通して見せましょう」


☆★ブルースside★☆ 


「お兄様、こちらの準備は終わりました」


「ブルー君! 私の準備も終わったよ!」


 叔父の家で王都へ向かう準備をしているのだが、なぜかエメラルダとローザまで準備をしている。

 そして叔父叔母はニッコニコな笑顔でその様子を見ていた。


「ね、ねぇ? どうしても二人は付いて来るの?」


「「もちろん!」です!」


 声がかぶってエメラルダペガサスナイトはローザを睨むが、ローザはどこ吹く風だ。

 オレンジーナから第三王子の護衛依頼を受けた後、ローザはデモンスレイヤーを脱退し、ブルースと共に行動する事を決めた。


 ブルースは反対したのだが、それ以上に反対しまくったエメラルダの所為せいか、ローザは余計に反発して付いて行く事になってしまったのだ。

 そうなるとエメラルダも付いて行く事になった。


 幸い(?)エメラルダは成人前であり兵役の義務がないため、戦争におもむく必要はない。

 なので家には適当な理由を付けて、帰るのを遅らせているようだ。


「でも王子様が乗るんだから、一緒には乗れないかもしれないよ?」


「私にはペガサスが居るので大丈夫です」


「私は……う、馬を買うもん!」


 王都までは一緒に行くが、それ以降は詳しい依頼内容を聞かないとわからない。

 考えるのはそれからでもいいだろう。


 数日かけて王都へ向かい、途中で盗賊に襲われたりしたが、エメラルダとローザの連携が思った以上にうまくハマり、無傷で賞金が手に入った。


「うわー! 王都ってこんなに大きいんだ!!」


 ローザが驚くのも無理はなく、流石に国の中心なだけあって人・物・建物、全てが桁外れの量と大きさだ。

 以前住んでいた町には低い防壁しかなかったが、王都となると見上げるほどに大きな城壁だ。


「じゃあ今日は宿で休んで、明日の午前中にジーナ姉さんと合流だね」


 手頃な宿を取り、街を散策していると騒ぐ声が聞えて来た。

 声の方を見ると人だかりが出来始め、その中では何やら言い争いをしている様だ。


「なぜこんな事になるんだ! よくも私に恥をかかせてくれたな!!」


「ごめんなさい! ごめんなさい許して!」


 何事かと見にいくと、大人が細い棒で子供を叩いているようだ。

 身なりとしては悪くなく、ある程度裕福な服装に見える。

 それを見たブルースは唇を噛み、強く手を握る。


「木こりだと!? 商人の家に木こりなど要らない! お前など産まれて来なければ良かったんだ!!」


 どうやらスキル判定をした後のようだ。

 周りの人達はそれを気の毒そうに見ているが、こういった風景は珍しくなく、ある意味風物詩になってしまっている。

 

 五歳のスキル判定の儀式。

 こればかりは神からの授かり物なので、本人の意思ではどうしようもないのだから。


 ★☆天界☆★

 それを天から見下ろす二人の神がいた。


「あらあら、あの商人もバカよね~。木こりのスキルを磨けば伐採した木の強度を調整できるのに」


「確かに強度の高い木材は貴重だね。でも一般的に木の強度を変えられるほど鍛えられないからね」


「人間にスキルを突き詰めるって考えは、中々浸透しないわね」


 女神と男神が話しているが、女神が与えたスキルブックには、その時の能力で可能な事しか知る事が出来ない。

 できる事を知りたいのなら、ひたすら鍛錬して能力を向上させなくてはならない。


 本来ならば各スキルの詳細を国なり何なりが記録し、後世に受け継ぐべきなのだ。

 そうする事でこのような悲劇は無くなる……はずだった。


「ブルースが異例過ぎたのかしら。そういえば魔動力機関装甲輸送車ファランクスのレベルはどんな感じかしら?」


「今は68だね」


「高! レイクモンスターを倒したから?」


「そうだね、魔動力機関まどうりょくきかん装甲輸送車そうこうゆそうしゃで応戦したのなら優位属性だから経験値は微々たるものだったけど、最終的には重装歩兵ファランクスで戦ったからね、なんと倍率三十倍だよ」


「あ~……元々高い経験値が三十倍……経験値の獲得条件が緩すぎるわ」


重装歩兵ファランクス魔動力機関まどうりょくきかん装甲輸送車そうこうゆそうしゃのどっちで倒しても、経験値は加算されるからね。でも基本的に不利属性で勝つことは至難なんだよ?」


「わかってるわよ。でもあの亀の経験値三十倍でもこれだけなら、第三ランク世界の武器には行けそうにないわね」


「そうだね。あれ以上の経験値と倍率を得るには、重装歩兵ファランクスで勇者にでも勝たなきゃ無理だね」

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