9.釣れた獲物はデカかった

「皆さん、食事の用意が出来ました」


 夜になり、ブルースは夕食の準備が出来た事を討伐隊の面々に伝える。

 場所を代えながら釣りをしていたが、レイクモンスターどころか魚一匹釣れていない。


「む! この米は美味いな! 少年おかわり!」


「おい! お前何杯目だ!? 俺の分が無くなるだろうが!」


「コレなに? 背が大きくなるゴハン?」


「なんだよ……、寝ながら食える飯じゃないのか~」


「肉肉肉肉肉、肉! 血のしたたるニクゥ!」


「エリザベルもご飯よ。ほらほら慌てないの」


「チーズがトロトロだぁ~、パンに乗せたらおいしそぉ~」


 それぞれが楽しんでいるようだが、果たしてこんな状態でレイクモンスターを退治、いや、見つけることができるのだろうか。

 今日一日やった事といえば、のんびりと釣りをしていただけだ。


「あの、皆さん? 明日も釣りをするんですか? 他にレイクモンスターを引き寄せる方法とか」


「「「ない!」」」


 珍しく全員の声が揃った。

 ブルースにはそういう知識がないので、ここは専門家に従うしかない。

 特にブルースの役目は運搬及び戦闘以外のサポートなので、下手に口出しをする必要も無いのだから。


 それぞれがテントを張って就寝したが、ブルースは魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中で寝ている。

 荷台で毛布にくるまって寝ると落ち着くようだ。

 しかし何者かが魔道車をノックしている。


「ん……誰ですか?」


「アタシぃ~、中に入れてくんないぃ~?」


 背後の扉を開けると、そこには女性陣が眠そうな顔で、しかし困った顔で並んでいた。

 驚いたブルースだが、なぜか理由は直ぐにわかった。


「エリザベスも眠れない様なの、中で寝させて」


「私の成長を妨げる行為は許されないわ」


 そう、男性陣のイビキがうるさくて眠れないのだ。

 どうやら魔動力機関装甲輸送車ファランクスは防音性能が高いようだ。

 仕方なく中に招き入れ、女性陣は荷台で、ブルースは助手席を倒して眠る。


 翌朝、食事が終わるとまた釣りを始める面々。

 

「よし! よく寝てよく食った! 今日は釣りあげてみせるぞ!」


 筋骨隆々ナンバーⅠや他の男連中は元気だが、意外にも女連中も元気だった。

 どうやら魔道車での睡眠は予想以上に快適だったようだ。


「エリザベス、空から調べてきて」


 斧二本を地面に置き、ペットの小鳥を湖の上に向けて飛ばす。

 空から調べられるのはいいが、調教師テイマーなのだろうか。

 その後は昼食を食べ、夕食を食べ、夜は女性陣は魔道車で寝て、朝から釣りをする。


 それが三日間ほど続いただろうか、デモンスレイヤー達は飽きて来たようだ。


「うっきゃー! 血はどこだ! 血チち血血ちチチち、血を見せろー!」


「うるせぇ! そんなに血が見たきゃ自分の血を見てろ!」


 筋骨隆々パートⅡに言われ、手に持った辞書を何度も頭に叩きつける。

 

「えええぇ!? ちょ、ちょっとやめてください!」


 ブルースは慌てて止めに入るが、何故か走り回りながら頭を叩いているため追いつけない。


「血だぁ! ちー! チち血血血ち! ていやー!」


 今度は石を手に持って頭に叩きつけると、石はあっという間に血で真っ赤になった。

 

「あわわわ! タオル! タオルで止血しないと~!」


 慌てているのはブルースだけで、他の連中は釣りを続けている。

 血まみれの顔をタオルでふき、傷口に当てるのだが血まみれの石を湖に投げているため、中々上手く止血が出来ない。


「ここにも血かぁ! ほいや!」


「あ!」


 血まみれのタオルも湖に放り投げてしまった。

 血男は学者の白衣を脱ぎ、頭の傷口に当てるのだが、止血の為ではなく何故か白衣を血で染めている。


「ていさ!」


 そして湖に投げ捨てる。

 ブルースは……諦めた。

 全く理解できないのだから、止める意味さえ分からなくなったのだろう。


 しかし。


「来たぞ! 作戦成功だ!」


 全員が何かを釣ったようで、竿が大きくしなっている。

 まさか! とブルースは湖を見るが、湖が隆起したかと思うと巨大で長いヘビ……ではなく、とても首の長い亀が現れたではないか!


 しかも数人を丸呑みできるほどに大きく、甲羅も非常に分厚い。


「それじゃあぁ~、作戦開始ぃ~」


 遂に戦闘が開始された。

 ……はずなのに、デモンスレイヤー達は一目散に逃げだした。


「にげろぉ~!」


「ひゃ~っはっはっはぁ! 血血血血、血だぁ~~~!!」


 頭から血をまき散らしながら逃げているが、亀は陸に上がり、その巨体で追いかけていく。


「ど、どうして逃げるんですか!?」


 何も答えずに逃げまくるのだが、亀とはいえ巨体なため、思ったよりも足が速い。

 しばらくしたら追いつかれ、踏みつぶされそうな距離になっていた。


「回れ右ぃ~。そろそろいっくよぉ~?」


 くるりと向きを変えると、今度こそ武器を構えて戦いを始めた。

 筋骨隆々パートⅡの炎魔法が炸裂し、ペットと居る蛮族の斧女は亀の足に斬りつけ、小柄で大剣を持った少女は首元に斬りかかり、ユルイ言葉遣いの司教ビショップは剣に魔法を纏わせて甲羅との隙間に斬りかかっている。


 思った以上に連携が取れていた。

 最初は一か所を集中して攻撃した方が良いのでは? と思いもしたが、一か所を攻撃し続けると反撃を受けやすいためにバラバラにしている様だ。


 だがその巨体ゆえか、中々有効な攻撃が出来ないでいる。

 

「かったいわね! 剣が通らないじゃない! あ、刺さった! え? きゃぁ!」


 剣士の少女の剣が亀の首元に突き刺さったが、驚いたのか亀は湖に戻り始めてしまう。

 必死に剣を抜こうとしているが、まったくビクともしない様だ。


「早く降りるのだ!」


「いやよ! この剣は気に入ってるの!」


 地響きを立てながら、亀は湖に潜っていってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る