8.レイクモンスターをおびき出すには

 作戦会議をする為に奥の部屋に入っていったのだが、奥では会議というよりも宴会をしている様な声が聞えて来る。

 いやひょっとしたら、ブルースの緊張をほぐすために、わざとそうしているのかもしれない。


「飲め飲め飲め飲め、飲め! ガキの血をアルコールで染めてやる!」


「きゃはははは! ぼくぅ? ミルクの方が良いぃ? おねぇさんのミルクだけどぉ、飲むぅ?」


「ちょっと! ウチのエリザベスちゃんが酒臭いって逃げちゃったじゃない!!」


 ……緊張を……ほぐしているはずだ。

 宴会は深夜まで続き、翌朝ブルースはソファーで目を覚ました。

 酷い顔だ。


「あたたた……頭が痛い……なんでだ?」


「起きたか少年! それが二日酔いというモノだ!」


「う……お、おはようございます」


 筋骨隆々な男の大声が頭に響き、思わず頭を押さえて挨拶をする。

 他の六人はまだ寝ており、床やテーブルの上で転がっていた。


「あの、いつ出発するんですか?」


「ん? そんな事は決まっている! みんなが起きてからだ!」


 そのみんなが起きるのはいつかと聞いているのだが、どうにも通じていない。

 魔物の駆除を専門に行う集団、デモンスレイヤーと呼ばれるこの七人は、あまりに自分勝手、協調性なし、話を聞かない、作戦をたてても無視するなど、非常に評判が悪い。


 とはいえ実力は確かなようで、国の軍でも相手が出来ない魔物を倒すなどの実績もある。

 人気は無いが。

 結局全員が起きたのは夕方で、夕食を食べた後で酒盛りを始めようとしたので、ブルースが必死に止めて何とか翌朝に出発する事が決まった。


 出発前から疲労困憊ひろうこんぱいのブルースだが、魔動力機関装甲輸送車ファランクスの運転ならば問題は無いだろう。

 そして翌朝、相変わらず七人の協調性は皆無だが、それでも装備はかなりしっかりと手入れがされていた。


 「ああ、やっぱりプロなんだな」とブルースが感心しているが、単純に手入れは他の者がしているだけな上、珍しく言う事を聞くと思ったら半分眠っていた。

 酒は飲まなくても夜更かしをした様だ。


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの後部座席は対面式になっており、デモンスレイヤー達は向かい合って座っている。

 本来ならばそれなりの広さがあるのだが、体の大きな男が二人もいるため狭く感じる。


「ちょっとどきなさいよ! エリザベスちゃんが座れないじゃない!」


「ファ~~ぁねむ……え? なんだって?」


 荷物も積んであるので余計に狭く感じるようだ。

 屋根の上にも荷物を積んであるが、それぞれの荷物がかなり多い。


 移動を開始して数日が経過し、そろそろ目的地の湖が近づいてきた。

 木々の間を魔動力機関装甲輸送車ファランクスで移動し、湖のほとりに到着した。

 湖はかなり大きく、対岸がかすかにしか見えない程に大きい。


「……海じゃないですよね?」


「間違いなく湖だぞ少年! この湖は国でも有数の大きさだからな、驚くのも無理はない!」


「じゃあ私達でレイクモンスターをおびき出すから、あんたは引っ込んでなさい」


 筋骨隆々な男性二人が魔道車から荷物を下し、戦いの準備を始める。

 それぞれの装備を装着し、薬や飲み物などを装備していく……のだが……何か違和感がある。


「あれ? 装備、あってますか?」


「どうしたんだ少年よ! 俺は見るからに後衛だろう!? 繊細な僧侶プリーストだ!」


 筋骨隆々な男性はポージングをしながら白装束を着て杖を持っている。


「私は剣士よ。しなやかな肢体で敵を切り刻むわ」


 気が強くはあるが、小柄な女性は大剣を片手で持って肩に担いでいる。


「俺は魔法使いだ。知的なダンディーだろう?」


 筋骨隆々パートⅡは黒ローブに魔法使い帽、木の杖を持っている。


「ふぁぁ~~あぁぁ~ぁぁ……めんどくさ」


 いつも眠たそうにしている男性は、素早さが売りの密偵スカウトらしく、大きめのナイフを持っている。


「エリザベス、ちょっと待っててね、今すぐに終わらせてくるから」


 小さな小鳥と会話をしている女性は両手に斧を持ち、まるで蛮族の様な様相だ。


「レイクモンスターの血……ち、チ、ちちちちちちち、血ぃ!!」


 ナイフを舐めてそうな男は武器を手にしていない。それどころか……辞典を持っている。学者のようだ。


「あぁ~、ちょっと待ってよぉ~。ウチを置いて行かないで欲しいんですけどぉ~?」


 ユルそうな女は剣を腰に差し、杖を持って背筋をピンと伸ばしている。剣も魔法も使える司教ビショップらしい。

 なんと性格とスキルがチグハグなメンバーだろうか!

 やはり女神のランダムスキルブックは考え直した方が良さそうだ。


「んじゃぁ~始めよっかぁ~」


 七人が湖の脇に立ち、道具箱から何かを取り出して湖に放り投げた。

 一体何が始まるのだろうか。

 湖に投げた物は……

 竿を持って湖に糸を垂らし、気長に待ち始めるのだった。

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