5.輸送業を始めたら盗賊に襲われた

 エメラルダが怒涛どとうの様に現れ去っていったため、ブルースは言われた通りに叔父おじの家へと向かう事にした。

 

「どうせ行く当てなんてないし、今はエメの言う通りにした方が良いよね」


 歩いて行こうとしたが、ふと目の前にある魔動力機関装甲輸送車ファランクスが目に入る。

 するとどうした事か、ブルースは迷わず運転席に乗り込み、動力スイッチを押した。


「……どうして使い方がわかるんだろう。ハンドル、アクセル、ブレーキ、ギア、初めて見るはずなのに、全部知ってる」


 ガソリンや軽油などを使う訳ではなく魔力で動くため、音は爆発音ではなく電子音に近い。

 ハンドルを握り、ギアを入れてアクセルを踏む。

 操作自体は初めてなので流石に運転はぎこちないが、輸送車は前進を開始する。


 しばらく運転して慣れてくると、ブルースはアクセルを大きく踏み込んだ。

 メーターの針はグングンと進み、時速百キロメートルにまで到達する。

 流石に大型なので、百キロ前後が限界のようだ。


魔動力機関装甲輸送車ファランクスって大きいし頑丈だし、あ、輸送車っていう位だから、後ろに荷物を沢山詰めるよね? 運搬を仕事にしたら良いんじゃないかな」


 本来は戦場へ向かうための装甲輸送車なのだが……まぁ輸送なので間違いでもない。

 日中はすれ違う人が驚くため出来るだけ道のすみっこを走り、夜になるとテント代わりに使う。

 恐らくはこの世界のどこよりも安全なテントだろう。


 数日後には叔父と叔母がいる街に到着し、ブルースは温かく迎え入れられた。


「久しぶりだねブルース。もう十年近く会っていなかったか?」


「お久しぶりです叔父おじさん叔母さん。もうそんなに前になるんですね」


「ところでブルース、これは何だい?」


「えっと、僕にもよくわかりませんが……落ちていました」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスを指さして首をひねっているが、ブルース自身もよく分かっていないため、少し誤魔化したようだ。


 叔父がブルースに会ったのはスキル判定が行われる前で、まだイジメが始まっていなかった。

 なので今までブルースがどんな扱いを受けていたかなど知るよしも無いのだ。

 どうしてブルースが来たのかを、今までの境遇を隠し、ウソを混ぜて話をした。


「そうか、あまり強くないスキルだからって武者修行に出すなんて、ブラックリンめ、相変わらず戦う事しか考えていないんだな」


「ブラックリンさんはまだしも、ホワイティーさんはそんな人じゃないと思っていたけど、やっぱり旦那に感化されたのかしらねぇ」


 叔父も叔母も戦いが好きではないが、かといって否定するわけではない。

 戦争が避けられないなら兵士が必要だし、そのためには常に訓練をする必要がある。

 兄であるブラックリンは戦いに傾倒けいとうしがちだが、今はソレが必要な時代なのだ。


 その日は珍しくブルースは沢山話をした。

 兄弟でも姉のオレンジーナ、妹のエメラルダ以外とはほとんど話をしないため、こうして会話を楽しむというのがとても嬉しいようだ。

 たま~に末っ子のヴァイオレンが話をしたかもしれない。


 翌朝、早速賞金を持ってエメラルダが現れた。


「お久しぶりです叔父様!」


「やあいらっしゃいエメラルダ。おーい、エメちゃんが来たぞー」


「あらあら、今日もお茶を飲んでいくわよね?」


 どうやらエメラルダ、ペガサスに乗って時々叔父宅を訪問していたようだ。

 ブルースも出迎えるとエメラルダは小走りで走り寄り、ブルースに抱き付くと皮袋を手渡す。


「ブルーお兄様、こちらが暗殺者アサシンの賞金になりますわ」


 手渡された皮袋はズッシリと重く、中を見ると沢山の金貨が入っていた。


「え? これがあの暗殺者アサシンの賞金なの? 多すぎない?」


「前にも言いましたが、アレはそれなりの実力者なのです。これでも少ない方だと、私は思っていますよ?」


 そう言われては言い返す事も出来ず、礼を言って金貨を数枚エメラルダに手渡す。


「お兄様?」


「手数料だよ。運んだり、手続きをしてくれただろ?」


「お気になさらずお兄様。といっても、お兄様が気になさるのですよね」


 首を縦に振り、金貨を渡した手をグッと握りしめる。


「フフフ、それではお駄賃として頂いておきます。叔父様、叔母様、ブルーお兄様をよろしくお願い致します」


「ああ、エメちゃんもまたおいで」


「今度はクッキーを焼いておくわね」


 ペガサスに跨り、風に乗る様に軽く空を飛んで帰っていった。


 この日からブルースは荷物の運搬を始めた。

 最初はみんな鉄の塊で何をするのか理解できなかったが、鉄の塊が動く事を知ると、面白がって色々な物を積み込み始めた。


 それに馬車よりも乗り心地が良いので、乗合馬車代わりにも使用された。

 そんな事が日常になり、ブルースは人や物を運ぶには欠かせない存在になっていった。

 だがある日の事。


「おいおいなんだぁ? こりゃーおもしれーな、鉄の箱が動いてやがるぜ」


「兄貴! 中に人が乗ってやすぜ!」


「動く鉄の箱と人か。奴隷商人と屑鉄屋くずてつやに売れば金になるな」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの前に十人前後の盗賊が群がり、行く手を遮ってきた。

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