3.姉妹以外に味方無し
「ねぇブルー兄さん、どうして兄さんの
ブルースが兄たちの的になって倒れ、意識が回復したと同時に、末っ子の弟ヴァイオレンがしゃがみ込んでブルースを見ていた。
ヴァイオレンはさっきまであったはずのブルースの鎧に興味があるようだ。
「イオ、それは僕にもわからないんだ。スキルを使おうとしたら勝手に装着されて、終わったらどこかへと消えてしまうんだ」
「ふ~ん。鎧の形も昔とは変わってるよね」
「そうだね、最初の頃は胴体と籠手だけだったけど、今は全身で、可動域がとっても少ない」
末っ子のヴァイオレンは
なのでどこからともなく現れる鎧が面白いのだろう。
「ふ~ん。あ、ジーナ姉さんが探してたよ」
「オレンジーナ姉さんが? わかった、もう少し休んだら部屋に行くよ」
それだけ伝え終わると、ヴァイオレンはどこかへと去っていく。
ブルースは上半身を起こし、あぐらをかいてため息をつき「よしっ」と気合いを入れて立ち上がる。
「姉さん、ブルースです」
扉をノックすると、部屋の中からパタパタと音がして扉が開いた。
「いらっしゃいブルース! さあ入って」
オレンジ色の太陽の様に輝く長いストレートヘアー、目は少し垂れ目で、怒る事など無いと言われるほどに笑顔が可愛い。
唯一怒るとしたらブルース関連だろう。
ブルースをソファーに案内し座らせると、真横に座ってお茶を入れ始める。
「このお茶はね、疲れを癒してくれるんですって。ブルースに最初に飲んでほしくって」
ティーカップに注がれたお茶をブルースの前に置き、砂糖とミルクも添える。
ブルースは甘いものが大好きなのだ。
「ありがとうジーナ姉さん」
ミルクと砂糖をたっぷり入れて一口飲み、美味かったのかそのまま一気に飲み干した。
「おかわりもあるわよ」
そのまま三杯飲み、疲れた体が温まったせいか
オレンジーナはそんなブルースの頭を抱くと、ゆっくりと自分の膝の上に置く。
「姉さん?」
「今日もイジメられてたんでしょ? 大丈夫、寝てる間に私が全部治してあげるから」
ソファーに足を乗せ、オレンジーナに甘えるように眠りにつくと、オレンジーナの両手が淡く光り、ブルースの治療を開始した。
数年が過ぎ、ブルースの扱いは更に酷い物となっていた。
「おらおら
学園の実践訓練……のはずだが、ブルースは一人、対して
ブルースの
なので魔法に対する抵抗力が一切ない。
十三歳になったブルースは
ブルースは立っているのがやっとで、鎧はボロボロ、部分的には溶けている。
それなのに
「生意気だなこいつ。最近は前ほど簡単に倒れなくなった」
「古臭いスキルだからな、根性だけはあるんじゃないか?」
「頑丈なだけが取り柄なんだ、俺達のお陰で強くなってるんじゃないか? アッハッハッハ!」
そんな風景を天界から二人の神達が、そして学園ではクラスの違う数名が歯を食いしばりながら見ていた。
★☆天界☆★
「頑張ってブルース! もう少し、もう少しの辛抱だからね!」
「今のレベルは97、あと三十万で98になるから、この調子だと今年中に99に行けそうだね」
「なんでアナタはそんなに冷静なのよ! ブルースが可愛そうだと思わないの!?」
「もちろん同情しているよ。僕たちの所為であんな目にあっているんだからね」
女神と男神は言い合いをしているが、決して喧嘩ではなくその言葉はほぼ自分達に向けられていた。
十三歳でレベル97というのは、本来はあり得ない事だった。
人類の過去最高レベルは89であり、それも周囲の協力があってこそだ。
しかしブルースは周囲の協力とは程遠いイジメ、いやリンチを受けている。
だがそれだけではない。
なんとブルースは……自らも訓練を欠かさなかったのだ。
リンチが終わり、治療を終えると自ら訓練に
その結果がレベル97という人類最高レベルなのだ。
しかし相性というのは恐ろしい物で、接近戦ならば多少は抵抗が可能でも、遠距離から攻撃されると
槍を持っても剣を持っても意味がないうえに、避ける事すら出来ないのだから。
☆★地上★☆
そして学園を卒業し、遂に明日、十五歳の成人を迎える。
普通の貴族家庭ならば成人を大いに祝うのだが、ブルースは成人を祝うどころか、追い出せて清々するという理由でパーティーを開かれたのだ。
「ブルース、お前は明日からはワイズマンを名乗る事を禁ずる。どこへなりとも行くといい」
「お父様!? 一体ブルーが何をしたというのですか!!」
「ジーナ、ワイズマン家には功績が必要なのだ。功績を上げられない者など必要ないのだ」
「し、しかし……」
「ジーナ、お前は
「お父様! ご自分の息子を取捨選択などと!」
「いい加減になさいジーナ! 父の言葉が聞けないのですか!?」
「……申し訳ありません、お父様、お母様」
「わかってくれたかジーナ。お前はワイズマン家でも珍しい癒しの力を持っている。その力は戦場で大いに役立つ事だろう。ブルースの事は忘れ、ワイズマン家の繁栄のために努力するのだよ」
オレンジーナは返事をせず自室へと戻るが、その後を次女のエメラルダが追いかける。
「ジーナ姉さん!」
「エメ……どうしたの?」
「あのね……」
廊下の隅に寄り、オレンジーナにそっと耳打ちする。
するとオレンジーナの優しく慈愛に満ちた顔が、まるで鬼の様な形相になる。
「ウソよね?」
エメラルダは首を横に振る。
「間違いないわ」
翌朝、ブルースは少し大きめにリュックを担ぎ、屋敷の門の前に押し出されると
ここは辺境ではないが田舎であり、三十分も歩けば森が見える。
ブルースは力なく人気の少ない道を歩いて行くのだが、その後を静かにつける者がいた。
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