リューカと女王の呪い
タウロラ
第1話 その国は地下にある
「ここにしましょう。ここに魔法を極めるための国を作りましょう。」
およそ7000年前、魔法を極めようとする一行が世界中を旅し、魔力に満ち溢れた大地を探した。
彼女らはその世界で最も魔力に満ち溢れた大地に1つの国を興した。
その中で最も強く、最も博識で、最も強大な魔力を持ち、最も美しい女性がその国の女王になった。
魔法の才があり、魔法を極め、その先の【魔導】を目指す人々はその国に集った。
ここに来れば、好きなだけ最高の環境で研究することができるから。
あるとき、その国で唯一絶対の掟が作られた。
『来るもの拒まず、去る者死す』
しかし、ここに来るものにとって、最高の環境であるこの場所を出ようなんて考えるものは誰一人としていなかった。
だから、なぜそんな掟ができたのか分からない。分からないが必要だからできたのだろう。
国には強固な結界が張られ、物資は固く閉ざされた城門の前でのみ取引される。
国はそれでも民を増やし、繁栄し、魔法に対する知識を高めていった。
2000年前、10代目魔女王はそのすべてを呪った。
その呪いは大地の全てを浸食した。人も建物も全てが呪われてしまった。人々は、国外に逃げ出そうとした。しかし、外には出られない。
魔法を極めるための実験場はその多くが地下にあった。
下に、下に、下に。人々は呪いの浸食速度が遅い地下に生活拠点を移した。
そして現在。人々は地下で魔法を極める。【魔導】にたどり着くために。
「これがこの国の成り立ちです。私たちはおよそ2000年間、地下に国を作って生活しているというわけです。」
きれいなヒスイ色の長い髪の美しい女性が、3人の子どもたちを前に話していた。
「アリシア先生!上の国に行くにはどうすればいいんですか?」
3人の子どものうち、金色の髪の活発な少女が質問する。
「上の国に行く方法は現状ありません。呪いを浴びたら最後、もがき苦しんで死ぬことになるでしょうね。」
「呪いって目に見えるのかな?」
落ち着きのある黒い髪の少年が隣の青い長髪の少女と話す。
「なんか紫色の煙みたいな感じって前に本で読んだことある気がするよ。」
「その通りです。呪いは黒紫色の煙のようで、いかなる物質も浸食してしまいます。」
「ええええええ!じゃあそのうち私たちの国まできちゃうじゃん!」
「そうなんですよ、リューカさん。でもそうならないために強力な結界で守られていますので、安全に暮らせているのです。」
金髪の少女、リューカは安心したような表情をしていた。
「上からオレらの先祖が来たってことは、今もどこかつながってるところがあるんですか?」
「良い質問ですね、カインさん。この地下と地上は4か所つながっている場所があります。場所は・・・あなたたち、興味本位で行ったりしませんよね?」
「もちろんいきませんよ。だいたいその場所入れないようになってるんでしょ?」
「・・・それもそうですけど、場所は自分たちで調べてみてくださいね。」
「ええー!けちー。」
黒髪の少年、カインは少し不満そうだ。
「結界って強力な女王の呪いを防げるものなの?」
青い長髪の少女、セレナは先生に問う。
「いえ・・・実際にはその結界は何時間も保持できるものではないので、何人もの優秀な魔法使いが常時がんばってくれているのですよ。」
「へえー知らなかった。お礼を言っておこう、ありがとうございます。」
「そんなに気になるということは、あなたたちのことだから勝手に行ってしまうかもしれませんね。仕方ありません、今度みんなで見学に行ってみましょうか。結界を張っている方に直接お礼を言ってあげると喜ぶと思いますよ。」
「あ!じゃあ先生、その結界の魔法を使えば地上にいけるんじゃない?」
「んーいい考えですね、セレナさん。しかし、その結界はものすごい大きな魔法陣で発動に何人も必要なのでできないんですよ。」
「なーんだ。なんかいい魔法はないのかなあ。・・・どうしたのリューカ、何悩んでるの?」
頭を抱えてリューカが悩んでいるのをセレナが心配する。
「なんで10代目様はそんな呪いをかけたんだろうなって思って。だって女王様が自分から国をダメにしちゃうなんておかしいじゃん!」
「まあたしかにね。先生、なんで女王様は呪いをかけたの?」
「そのあたりの話は実はあんまり詳しいことがわかっていないのよ。昔の記録とか貴重な本のほとんどが地上にあるからね。」
「えっ!地上には魔本がたくさんあるの!?」
リューカが目を輝かせる。
「ホント、リューカは魔法が好きね。魔本ってたしか、魔力を込めるだけで魔法使えるようになるんでしょ?」
「違うよ!魔本に魔力を込めると、魔法を覚えるための試練に挑戦できるんだって!それをクリアしたら魔法が使えるようになるの。」
「リューカさんは魔法のことに関しては本当によく勉強していますね。」
「うん!私、魔法が好きなの!だから、もっともっと勉強して魔法を覚えたり作ったりして・・・【魔導】を見てみたいの。」
リューカは言った。その双眸には強い意志が宿っていた。それは、理由があるのか、それとも・・・
「それではみなさん。また明日。」
先生は笑顔で手を振り3人を見送る。3人もそれに応え、家路に着く。
「リューカはこのあとどうするの?」
青髪のセレナは、3人の真ん中を歩くリューカに声をかけた。
「昨日、やっと手に入った材料があるから実験するんだー!」
「あんたホントにすごいわね。毎日毎日魔法漬けじゃない。少しはあたしとの交流を深めなさいよ。」
「えーだってセレナと遊ぶと変なもの食べさせられるんだもん。」
「変なものってなによ!あたしが作ったお菓子になんてこというのよ!」
「あ!じゃあわかった、お菓子作りの魔法作ったあげるね今度。おいしいケーキが作れる魔法。」
「あんたのために魔力が上がりそうなもの入れてあげてるのにひどくない!?それにカインはいっつもおいしく食べてくれるのに。」
黒髪の少年カインは急に話を振られ驚いていた。
「カインも嫌なら断ったほうがいいよー?」
「いや、別に嫌じゃないっていうか、あれは癖になる美味さがある。」
「癖になるって・・・褒めているのかしら?」
「あー私まだ解毒の魔法取得してないの・・・ごめんねカイン、お菓子の魔法よりそっち優先にするね。」
「この魔法バカ!誰のお菓子が毒だっていうのよっ!」
「じゃあまたあっしたー!」
リューカは2人に手を振る。そしてリューカの時間が始まる。
「さて・・・昨日ようやく手に入った、『光裂石』と『満月水』・・・あとは『結晶草』を入れてっと。」
「魔法陣はもうできているし、ここに材料を配置して・・・オッケー!準備完了」
リューカの部屋の床に円形の中に複雑な模様の書かれた陣が描かれている。いわゆる魔法陣と呼ばれるものだ。そこに先ほどリューカが材料が等間隔になるように置かれている。
その魔法陣の一端にリューカが両手を置く。
「いっくぞー!えいっ!」
魔力を込めると魔法陣が妖しい紫色に発光し始めた。
その魔法陣は、材料を巻き込みながら小さくなっていき、リューカの手の甲に縮小された魔法陣が顕現した。
「・・・・・・やったーーーー!!!成功だー!」
リューカが両手を挙げて喜ぶ。その間に手の甲にあった魔法陣は徐々に体に吸い込まれるように消えていった。
「よーし試してみよう。
リューカが手を伸ばし、魔法を唱えるとその手の先に手のひらサイズの丸いクリスタルのようなものが現れた。
「いっけー!」
リューカがその球体を放つと、前方で強烈な光が炸裂した。
「まぶしーーーーー!!!」
目を抑えながら床で転がっている。きっとアホなだろう
「ううう。目をつぶったのにい・・・。対策しなきゃー。」
よろよろと立ち上がる。
「でもいい魔法を手に入れられたなあ。『満月水』はなっかなか手に入らないくせによく使うから、またストックしとかないとなあ。」
魔法は奇跡や神秘などではない。魔法とは完全な理論のもとに成り立っている現象のことを指す。
魔法陣は、その魔法の形状、性質、術者の魔力変換、そしてもっとも大切な現象の再現性などを決めているものである。
材料は、その魔法を最初に発現させるために必要なものである。
術者は自分の魔力を流し、魔法陣を通して材料に作用させることできっかけとなる現象を発現させることができる。
その現象を魔法陣の中に内包させ、術者にその現象を再現できるようにする。
これが魔法の取得である。取得した魔法は任意の文言と術者の魔力に紐づけられており、いつでも好きなときに呼び出すことができる。
リューカは今、予め分かっている魔法陣・・・本や教えてもらうことで手に入るものを使用している。魔法の研究の大部分はこの魔法陣の作成にある。
そこに『満月水』という球体で浮く水と液体に溶かすと結晶化させる『結晶草』で結晶化する球体を作成。
そして強い光を大量に浴びると破裂する石『光裂石』を中に入れることで破裂する光球が完成するという訳である。
魔力を光に変換する魔法陣の力で、この光球を破裂させ、発動させる。
これが魔法
「さってと、次はカインのために解毒の魔法でも覚えましょー。」
こうして毎日毎日リューカは魔法の取得や研究に明け暮れている。
全ては魔法を極めた先にあるという【魔導】を見るために。
「みなさん、おはようございます。」
先生がいつも通りの落ち着いた口調で挨拶をする。
「ほらリューカ、先生きたよ。起きなさいよ。」
セレナが隣でぐっすりと眠るリューカを揺すって起こそうとする。
「ふふっ、セレナさんも毎日大変ね。」
先生は起こそうと毎日頑張るセレナに労いの言葉をかける。
「まったくリューカも・・・強制参加じゃないんだから、家で寝てればいいのに。」
「そう言わないであげて。リューカさんはみなさんに会いたくて毎日頑張ってここまで来ているんですから。私に任せてごらんなさいな。」
先生にはどうやら策があるようだ。
「今日は昨日話に出た、魔本の授業から始めます。」
「魔本!?」
リューカが飛び起きた。セレナもびっくりするスピードだ。
「うふふふっ、おはようリューカさん。」
「・・・あ。おはようございます、先生。」
寝ぼけて立ち上がったリューカは気まずそうに挨拶をする。
「昨日も遅くまで魔法の実験をしていたのですか?」
「してましたー。どうしても覚えなきゃいけない魔法があって。」
「どうしても覚えなきゃいけない魔法?」
先生は不思議そうにリューカさんに尋ねた。
「解毒の魔法です!このままだとカインがおかしくなっちゃうんです!」
「あんたまだその話引っ張るの!?」
セレナがリューカの頭をひっぱたく。
「あらあら、仲良しねえ。なにがあったのかしら?」
昨日あったことを先生に話すと先生はなにやらニヤニヤし始めた。
「いいわねえ、若いって。リューカさんも魔法以外のこともお勉強しなきゃね」
なぜか分からないがカインが下を向いていた。
「さて、先ほども言いましたが今日は魔本の授業を・・・おや?」
先生が授業を始めようとしたとき、教室内に緑色の光球が入ってきた。
「あれは・・・長からの連絡ですね、どうしたのでしょう。」
緑色の光球は徐々に人型へと変形していった。
「やあ、みんな。今日も元気に授業を受けているかな?」
「あ、長だー!おはようございます!」
リューカたちに長と呼ばれるこの人型の光がみなに挨拶をした。
見た目は、緑色の光だからはっきりとしないが、長身細身、長髪でかなり若そうである。
「珍しいですね、こんな朝早くから。どうされたのですか?」
「ああ、割と緊急を要する案件ができてね。直接出向くのでなく、こうして連絡体を飛ばさせてもらったよ。」
「長ー!後でその魔法教えて!」
「こら、後にしなさいよリューカ!それで長、緊急の案件ってなに?」
「長相手なのに、みんなかなり気楽にいくよね。」
カインだけが唯一敬意を払っているような感じであった。
長が要件をみなに伝える。
「どうやら『迷宮』が出現したみたいでね、そこに3人で向かってもらいたいんだ」
「え!?迷宮に行っていいの?わーい!」
リューカは飛び跳ねて喜んでいるが、残りの3人はそうでもなかった。
「あの、お言葉ですが彼女ら3人にいきなり迷宮は危険すぎるのでは?」
先生が長に進言する。そう、迷宮は危険なのだ。
「『迷宮』・・・魔力の淀みが空間に作用し発生した、特殊な場所のことか。たしか危ない魔物とか罠とかがあったりするんだろ?」
「でもでも、その分貴重な材料とか、お宝みたいなものもあるんだよ!?」
「いつもならちゃんとした部隊が行ってるはずよね?」
「そうだね。いつもなら魔法戦闘や迷宮探索に特化した部隊が行くんだが、今は全部隊が出払っているんだ。一応私の探索魔法で迷宮内を調べているからそこまで大きな危険がないことは保証するよ。ただ・・・」
長が言い淀む。
「私の直感なんだが、この迷宮を放置すれば非常に大変なことになる気がするんだ。そして真っ先に浮かんだのが君たちだった。これはおそらくなにかあるんだよ。」
先生が神妙な顔で考え込んでいる。
「それでいくと、私は同行できないみたいですね。」
「そうだね。それにアリシア先生にはほかにやってもらいたいことがあるからね。」
先生が諦めたように3人に指示を出す。
「仕方ありませんね、3人とも準備をしてください。迷宮探索で一番危険なことが魔力切れです。そこに留意して1時間後ここに集合してください。」
「「「はい!」」」
3人は元気よく返事をし、一旦帰宅した。
「心配する気持ちはわかるけど、彼女らもいずれは迎える試練の1つさ」
「いいえ、心配はありません。彼女らの能力は普通ではありませんから。それよりも気になるのは・・・長、1つお聞きします。」
「なんだい?」
「あなたの直感は3人のうち誰を適任者として選んだのですか?」
長は何も答えなかった。表情は分からないがアリシアを睨んでいるようであった。
「先生、準備できましたー!」
3人が準備を整え、教室に戻ってきた。
「よろしい。では、さっそくですが・・・行きましょうか」
3人は先生に連れられ、迷宮の入り口へとたどり着いた。
「みなさん、迷宮の攻略は最深部にある魔石をこの袋で回収すればいいのです。袋はセレナさんに渡しておきますからね。」
「わかりましたー!」
リューカが元気よく返事をする。そして3人は迷宮へと向かおうとする。
しかし、3人ともそれ以上は進めなかった。
「気をつけてね。なにかあったら迷わず逃げるのよ。」
先生が3人を抱きしめる。
「・・・大丈夫だよ、先生。お土産期待しててね」
先生が3人を離す。そして3人は振り返ることなく迷宮へと向かって行った。
これがすべての始まりであった。そして3人は、この呪われた2000年そのすべてと戦うことになるのであった。
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