第五十三話 ハナ……みんなありがとう
ライブも終了、写真撮影会。今回は個室ではないんだ。東京でもあるアイドルが握手会で襲われる事件があったとのことで、一時期はこの写真会も中止の予定だったけどステージ上での撮影、警備員さんも増やしてなんとか開催できた。
「もし何かあっても私の護身術で!」
と悠里ちゃんは構える。……心強い。また今度教えてもらわないと。
地域チャンネル卒業のイベントですもの、多くの地元の人たちが来てくれた。ネットで全国でもみられるようにもなったから他の地域からも来てくれる方も。嬉しい。
みんなでその人たちを囲んで笑顔で写真を撮る。……そういえばトクさんは前の方じゃなかったわね。てっきり前の方かと思ったら違う人だった、けども遠くの方で激しく踊るトクさんを見つけて相変わらずだな、少しホッとした。
そういえば最初の頃は恥ずかしくて目線が低かった。でもトクさんが
「俺が後ろのほうに行く、そこを見ろ、すれば目線は高くなるはずだ」
と、近くで見たいはずなのにわざわざ後ろに行ってやってくれたのは本当に感謝感謝である。
トクさんは少し馨に似てる。容姿も体型も違うけど私にアドバイスしたがりさんなところがね。
細かいところまで見てくれて、こうした方がいいよ、ここは良いからそこを伸ばしていこう、トクさんの方がやや口調きついけど……。
あっ、阿笠先生……。私見てニヤッとして。この笑顔かわいい。
「阿笠せんせ、私が横でもよろしいですか?」
「お、おう。いいよー」
由美香さんが横にベタっとくっつく。狙ってるのは本当だったのね。先生もタジタジ。私のTシャツ着てるのに……。
「ハナ、何やってんの。あなたは右隣!」
悠里ちゃんに押されて座らされた。阿笠先生と目が合うとまた笑ってくれた。彼越しの由美香さんの目がきつい。あちゃー、まじだわ。
あ、お義父さん! 他のメンバーにもお馴染みだからキャーキャーと言われて上機嫌。少し前までは私の実の親とか言ってたけど、メンバーには告白したものの、もうお義父さんは本当の父親以上の存在。もちろん私は横。
すると胸ポケットからお義父さんは手帳を取り出す……そこには馨の写真!!!
「こっそり連れてきた」
「やめてよぉ……」
「実はずっと連れてきてたんだ」
「えええー!」
「あ、シャッター切られるから」
少し苦笑いになってしまったかも。お義父さん……私のファンの聖地となる喫茶店で色々交流してくれて感謝してる。しばらくは偽ります、いつかは話すことになるかもだけど。でも本当に私のおとうさん、だよ。ありがとう。
トクさんはまだかなぁ……なんでこうもトクさんを気にしてしまうのだろう。
いろんなファンの人たちと写真を撮り、笑顔を振りまき、手のポーズもバリエーションが尽きてきた。
と、聞き覚えのある声がした。
「うわあああああっ」
どすん! と大きな声で、ステージに倒れ込んだのはトクさん!!! 大丈夫?!
みんな笑ってる。私は駆けつけた。……!!! トクさん、メガネかけてない……カッコいい。
はっ、あっ、メガネ……曲がってる。
「あ、トクさん……メガネ……」
「ああああああああーーーメガネが曲がってる!!」
すっごくおろおろしてるトクさん……ちょっと大丈夫? メガネなくても十分だよ……。
「トクさん、メガネ外して……」
えっ、て顔するトクさん。私は胸ポケットにメガネを入れてあげた。
「こっちの方もかっこいいじゃん……」
と言うと、いつもとは感じが違うトクさん。なんかまずいこと言っちゃったかな?
ずっと放心状態。……なんか変ね。最近も手紙……全国にいっちゃうのは寂しいとか書いて
たし。でも応援するよ。って書いてたけど。
「相変わらず、トクさんはメロメロだな。たぶらかす方法も掴めるようになったな」
イベントも終わり、会場の倉庫にタッキーに呼ばれて……2人きりで話したいって。……なんか最近妙な噂聞いちゃって。タッキーがアイドル研究で東京行った時に何人かアイドルの子に手を出していたって……。
狭い倉庫だからすごく密着してきて体も触られる。太もも、腰、おしり……変態すぎる。体勢を変えられて後ろに回ってきて……胸を両手で鷲掴みされる! 彼の何かもお尻にあたる。
「いい体してるって昔から思ってたよ」
「あっ……」
「これだけで感じるなんて……さてはご無沙汰?」
「やめてっ、やめてっ」
タッキーの手が止まった。
「バカか。やるかよ。まぁハナちゃんもその気ならやれたけど? そう股は緩くないな……」
は? なにそれっ!! 確かに少しドキッとしたけど……。いきなり体突き放すとか何よ。
「ハナちゃん、今日のイベントもすごい入りだったなぁ……君の歌声も最高だったよ、さすがだな、あの音域は」
いきなり褒め出す……なんなの。
「はい……ありがとうございます」
一応お礼は言う。
「ご当地アイドルがここまでやれるなんてさぁ……ああ、もっと早く君の才能を見抜いてたらなぁ」
「タッキー……やめてっ!」
ってやっぱりやる気?! まだ掴んできて……体が動かせない! 悠里ちゃんから護身術教わればよかった。
「いいじゃん、すぐ終わるから」
「ここ最近、なんか変だって感じてた……この変態!」
「もっと言えよ……変態でもなんでもっ」
「やめてっ!」
タッキーが迫ってきた!!キスされるっ!!!! その時……
ドカーン!
扉が開く音。
私たちは離れた。タッキーはベルトを慌てて締めた。チャック閉めた時に何か引っかかって痛がってた。
「ハナ逃げるんだ!」
……トクさん?! どうしたのっ?! どうしてここに?!
「えっ、ちょっと……その!」
手を引っ張られた。強い、痛いっ! てか足速い!!!
もうどこに走るの?!
……でもトクさんいなかったら……私タッキーと……。
助けてくれたのね、トクさん。
無我夢中で私たちは走った。裏道、とにかく走って走って。
トクさんは力尽きた。私も疲れた。あ、眼鏡の無いトクさん……。
とりあえず私は怒った。
「はぁ、はぁ……ちょっと、どうしたの……てか裏口から勝手に入るなんてファン失格です!」
「す、すいません……」
私は息を切らしてしまうけどトクさんは少し息が上がってるだけ。少し汗だくの彼。石鹸の匂いがする。
「でもトクさん、結構走ったけどケロッとしてる」
「これでも体力には自信があって。ハナ、君のおかげだ。君のために……トレーニングやランニングをを毎日して鍛えているんだ」
「まぁ確かにいつも踊りまくってるし……。てか疲れた……」
ふぅ。
「俺も疲れた。フラフラする……」
「……どこかで休憩しない?」
「へ?」
きょとんとしてる彼を見た。そして次に私は周りを見渡した。
そこはラブホテル街であった。
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