第四十九話 ハナ…私の過去④

 私とモリスはパフォーマンスを終えファーストフード店に入った。

 モリスが歌ったあともお客さんが残ってて私が歌うのも恥ずかしかったけど、そのまま何人か聞いててくれて嬉しかった。

 それにCDも少し売れた。モリスはちゃっかり自分のも売っててしっかり完売。

「モリスさん、すごいですね……」

「いやいや、顔が広いだけ。よし、出来た!」

 と、見せられたのは私のSNS。私のスマホでサクッと作ってくれた。


 すごいなぁ……。

「フォローして繋いでおくからまた僕のSNSも見といてね」

 あっという間にやっちゃった。すごいなぁ……。


「今は音楽の専門学校卒業してライブハウスで仕事しているんだ。エドちゃんみたいに路上ライブやってたなぁ」

 ああ、学校出た人なんだ。でもいつもギター背負ってたのは……。


「実は探してて」

「……何をですか?」

「僕のバンドのボーカルを。そしたら見つけたのが君っていうわけ」

「いや、そんな……ボーカルって」

「なかなか見つからないし、すぐ辞めちゃうし、引き抜かれちゃったし」

「でも、わたしなんて……」

「ダメ?」

「……ダメっていうか……」

「いいでしょ?」

「……モリスうますぎるし……」

「君は作詞作曲もできるし音域も広い」

「でも、こんな私と……」

「こんなって言わないの。基礎はできてるし、これから色々勉強したら伸びる!」

「もしかして変な勧誘ですか?」

「そんなネガティブな」

「怪しい」

 なんかさっきからジワジワとモリスが私に近づいてる。すごく真剣な顔。


「……近い」

「……」

「ちょっと」

 !!!!



 キス?! 私はモリスを突き放した。私の、ファーストキス!! ……でもすぐ、また……。


 初めてなのにっ……もっとキスをされた。お店の隅っこ、人が少なくてよかった。恥ずかしいよ。

 チュッチュってわざと音を立てて……今までしたことないけど……恋愛とは無縁だったから、恋愛の歌作ろうとおもってもなかなか思い浮かばなくて小説や漫画やドラマを見て気持ちを高めて作っていた。

 だからモリスには見透かされていた、愛なんて知らない、てこと。




 ◆◆◆


 音楽を教えてもらう前に私はモリスには愛を教えてもらった。あれから私の部屋に泊まって……キス以上のことをした。

 とても手慣れてて、部屋の中ですぐベッドに押し倒されたとき、下心あったんだって思ってしまったけど。

 もしこれっきりであっても何か曲が作れそう、そんなことはあのときは思う隙もなくモリスは私に入ってきた。私は本能的に彼に合わせた。

 人に抱きしめられるのって、愛されるのってこんな気持ちなんだ……人と交わるのってこんな感じなんだ。ドラマや漫画じゃわからなかった。


そもそも家族にも愛されてなかったから人を愛する術なんてわからなかった。それを初めて教えてくれたのは彼だった。


 両肩と腕にタトゥーがびっしり入ったモリス。すやすや彼は眠り、たくましい彼の腕をまくらに……私はモリスのSNSを覗く。



 すると寝ていたはずのモリスが起きた。

「僕のね親父と親父の兄弟三人が昔から音楽やっててさ。カッコよかったんだぜ、全員背が高くてかっこいいジャズロックでさ。それを子供の頃から見てて憧れて楽器初めて。弾き語り、デュオ、ロックバンド、サポートギター、そして……」

「ビジュアル系……」

「そう」

「……えええ……」

「かっこいいでしょ。君は飲み込みが早いから大丈夫」

「嫌だ……」

 相変わらずニコニコして笑うモリス、ムカつくけどそうでもないような……。



 ◆◆◆


「おまえらーっ!!!! いくぞぉーーーー!!!」

「うおおおおおおおおおおお!」

 数ヶ月後には私は小さいライブハウスで大声で叫んで激しいロックを歌っていた。


 全く経験のないことだったけど、新鮮で、大声を出すのは気持ちよかった。一人でギターを弾いていた時よりもモリスのエレキギター、あの時モリスの横にいたニーナのベース、ロミのドラム、そしてファンのみんながいて寂しくない。私の歌を聞いてくれる。


 女の私がビジュアル系のボーカルやってるのもあって珍しいって注目されてきた。

 化粧も濃いめに、素顔とは似つかない。ジャケ写見ても今の私のかわいい、アイドルハナとはわからない。


 モリスとのセックスのように回数を重ねるたびに上手になった、……パフォーマンスはね。


「あーやっぱり恥ずかしいよ……」

「今日もカッコよかったぜ、エド。それにSNSもフォロワーも反応もすっげえし」

 相変わらずSNSは不慣れでモリスに任せていた。少し年上の彼にすごく甘えていた。部屋には彼も一緒に住んでたくさん曲を作って、たくさん愛し合って……。


「エドのおかげで僕は楽しいよ。何も見えない先が見えてきた……」

「そんな大袈裟な……モリスやバンドのメンバーもすごく頑張ってくれるし」

「色々と諦めてたけどさ、今日もレコード会社の人も来てくれたし……デビューも夢じゃないぞ」

「うん、そうね! 嬉しい」



 モリスの提案で私の実家に帰って私の両親に面と向かって話をした。


「勝手に家を出て、連絡よこさず……しかも男連れて帰ってくるとは……」

「ごめんなさい。彼のおかげで音楽もそこそこ上手くいってるんだ。まだデビューとかはないけど……会いた時間にバイトもして……」

「音楽で生活するのは無理だ。彼もまだ若くてライブハウスで働く……不安定な職だ。しかもなんだこのロック? こんな人前で恥を晒させるためにピアノを習わせたんじゃない。それにこんな男が娘を幸せにできるかっ?!」


 そう、親に結婚を許してもらうためでもあった。帰ったのは。お母さんもいい顔しないし。同席してた兄も。

「結婚するならどうぞしてください、娘をあげますから」

 ……そこまでひどいこと言うなんて。あとから分かったけど両親は離婚を決めていて、兄も結婚して独立していたから私はどうでもよかったようだ。原因は私。

 申し訳なかったけど……私は親に音楽を薦められたのに社会人になって音楽の道を反対されて……その方針がわからなかった。だから思い切って縁を切ってもらったほうが楽。


 言ってスッキリしたし、モリスのお父さん……お義父さんがとてもよくしてくれた。私を娘のように可愛がってくれた。地元に戻った時に厚くもてなしてくれた。

「妻に先立たれてね。子供も倅一人。娘が増えたと思うとすごく嬉しいからいつでもたよひなさい。東京では馨と一緒に頑張るんだよ」

 って。本当に力強く優しい人で、馨もこんなお父さんの元育ったから……優しい人で常に笑顔絶えない人だったんだって。

 バンドのメンバーたちも後押ししてくれた。そして私たちは夫婦になり、恵土花から森巣花になった。


 結婚後も順調にライブ活動を行っていたが、それと並行して私は身体に変化を感じていた……。

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