第四十八話 ハナ…私の過去③

「おい、今度はこの若い金髪の子を捕まえたのかよ」

 今回連れてきた違う男の人……今度は? ってモリスは相変わらず笑っている。

「捕まえたって変なこと言うなよ……この子はちっちゃいし、見た目もツンツンしてるけどピュアな心を持っている。これから色々教えてあげたら絶対もっと良くなる」

「確かにCD聞いたけど……edoちゃんだっけ? ホームページとかブログとか、あ、今はSNSとか……やってないの?」

 ……私は首を横に振った。そういうの苦手だし……。でもいつかはしなきゃなぁと思ってたけどバイトで疲れて先延ばしにしてきた。


「ダメだよぉー今時ネット社会だからさぁー、何かやったら? 動画とかアップしてさ……」

「あ、だからね今日は撮影しようかと。一人で撮影するのもあれだからこういうの得意な友達についてきてもらった」

 恥ずかしいよ……てか動画をネットにアップされたら……親にバレないようにCDも私の写真使ってないし。


「親に反対されているのか? もしかして」

 ……モリスにバレた。


「確かに多いよね、親に内緒でやっている子。ちゃんと親と話せないよね……わかる、わかる」

 あれだけ音楽やらせておいてやるなってうちの親はどうしたいんだろう。いつかはしっかり自分の思いを話さなきゃって思うけど……。でも絶対に反対される。


「じゃあ、顔は映さずに首から下を撮ろうか。歌声だけでもネットに出した方がいいよ。どう、いい?」

 相変わらずにっこにこ。……その笑顔に負けて一曲だけ撮影してもらった。モリスの友人が撮影する横で腕を組んでふーんって顔して見てるモリス。

 なんか緊張する……撮影はスマホで……かぁ。撮影してるせいか少し人が集まってくれた。



 いつも以上に緊張して声が上ずったけど。いつもよりチップが入った。

「あとはSNS登録してアップするだけ。いいもの撮れました」

 ずっとニコニコして撮影してた彼……そんなにわたしの歌良いの?


「まあまあじゃねぇ? 似たような女の子の歌手はそこら中にいる。そんな格好して目立ってもなぁ……モリスも、もの好きだな」

 ちょっと嬉しかったのにその友達の言葉はテンション下がる。上から目線だしムカつく。


「じゃあ僕は帰るわ」

「おう、付き合ってもらって悪いな」

 ……目の前にはモリスしかいない。他のパフォーマンスの人たちも思い思いの表現をしている。

 その人たちの前には人が何人かいる。そこまで引きつけるには私にはまだまだ無い。

 曲や歌詞は思いつくのに、なんで集客の工夫ができないのか。私は音楽に自信があった。

 だから人前で演奏すればレコード会社の人にスカウトされてデビューだなんて夢物語考えていた。

「あいつのこと覚えておいた方がいいよ。まだペーペーだけどさ、あいつは偉くなるから」

「どうしてそんなことわかるの?」

「上の人には腰が低いし、世渡り上手。あと態度がでかい」

「……たしかに」

「あ、笑った。笑顔かわいいじゃん」

 ……。

「きついこと言うけどあいつはしっかり見てるからさ、これから成果出したらきっとまたくるよ」

 成果、かあ……。


「まだ時間あるよね? 歌って」

 私はふとモリスのギターを聴いてみたいと思った。いつも背中にギターケース背負ってるのに一度も聞いたことがない。

「ねぇ、モリス。あなたの演奏聞きたいな」

「えっ……そんなそんな。てかエドちゃんの演奏の時間やら?」

 ん? 私は一瞬耳を疑った。『やら』って……。


「モリス……岐阜の人?」

「あ、バレた? ちょっと業界人ぶりたくて標準語で話してたけどやっぱり方言は抜けんなぁ……ってことはエドちゃんも岐阜の人?」

「うん、〇〇市」

「えっ、僕も〇〇市!」

「うそぉっ!」

「マジかよ……うわー、こんなところで同郷の人と会うとはなぁー」

「嬉しい」

「僕も! じゃあ歌わせてもらおっかなぁー」

 モリスも同じ出身だなんて。家出して町から出て……一人で過ごしてきた。なんだか急に心が緩んだ。

「どうした? 何泣いてるのー」

 なんか知らないけど涙出てきた。モリスに涙を拭われた。


 彼はギターケースを下ろしてギターを出した。すごく使い古してるなぁ。マイクスタンドも彼の身長に合わせて……。


「こんばんは、森巣馨です」

 と話した途端、ザワッとした。何人か女性が寄ってきた。……そういえばこの辺で名前通ってるんだっけ。そんなに凄い人?


 ギターが鳴る。そしてモリスの力強い声……。熱いメッセージ。途中複雑なコード展開だけどすぐに思い出せる、口にできるメロディ。


 あっという間に人が集まった。若い女性だけでなくサラリーマンも立ち止まる。


 凄い……モリス!

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