第四十三話 トクさん…ハナ一本
キンちゃんと次の日に家族のもとに帰ってちゃんと説明し、説得し、土下座して謝った。
捨てたと言ってたグッズは想像以上に可愛い奥さんが部屋の奥にしまっておいたらしく、返してもらい、お金の使い方やファン活動の仕方をしっかり話し合い、認められた。
すんなり解決でよかったな、キンちゃん。俺も横で見ていてほっとした。可愛い彼の奥さんは小柄なのに強そうな人だったが、話をしっかり聞いてくれた。子供の二人も可愛らしく、パパが好きなものだからと二人も応援したい! と。おお、これはこれは。
……にしても家族かぁ、微笑ましいなぁと思った。俺だって本当はこんなふうに家族を作りたかったよ!
『こんばんは! ハナだよぉ。今日は由美香さんの代わりに来ましたぁ』
『ハナも忙しいのにありがとうね。では楽しくワイワイやりましょう!』
俺は仕事の作業をしながらラジオを聴く。メールが来て、提携先の写真館の店主より指示メールが来る。できるだけラジオに集中したくて手を止めたいところだが、仕事で稼がないと清流ガールズ応援できないもんなぁ。
大野ちゃんとハナのわいわいガールズトーク。
美玲とセットで全国区になったはずだが、やはり美玲ちゃんの方が需要があるのか美玲ちゃんだけ関東でロケが多いようだ。
なんだろうなぁ、美玲ちゃんにあってハナに無いもの。
先日もハナの実家のカフェに行ってマスターと話してきたけどまだハナは自分を出し切ってないってぼやいてた。
店内にはハナの写真やポスターがあっていつのまにかハナファンの聖地になってた。
時折、アガサも見かける。カウンターの奥で黙ってコーヒーを飲む。俺を見ると会釈して再び新聞を見出す。あのファンミーティングで見た、にやけ顔とは違うクールな顔でオシャレに小さなカップでエスプレッソ飲んでキザッてやがった。
しかし、アガサと俺の席の距離が日に日に近づく。そしてとうとう
「いい加減横に座りませんか?!」
と俺から言うとアガサはうなずき、マスターはそれ見て笑い、会うたびに隣でコーヒー飲んでマスターと話をする。
「正直ハナが人前で喋ったり、あんなミニスカートで踊るのは向いてないんですよ」
確かに、とアガサが頷くのだがあんたはどこまで知ってるんだ。
「今は『アイドルのハナ』と言うキャラを被った普通の20代の女の子なんです。でもハナは昔から歌手になりたかった。その夢を叶えてあげたいのです。ですがもうタイムリミットはきてる」
……そこまで言うのか……。確かにアイドルのハナしか知らない。本当の彼女はどんな子なんだろう。てか、歌手は何歳でもできるんだが、女の子だから結婚とかそういうことを案じてるのか?
「かなり無理していると思うよ。美玲ちゃんの方が世渡り上手だからな。でも必死に頑張ってる姿を見るとさらに推ししたくなる」
そうだな。美玲ちゃんに負けずハナにも頑張ってほしい!
「んで、そのトクさんは美玲ちゃんも推してるけど、うちの娘一本に切り替えてくれないか?」
え、どういうこと? 一本に? もともと美玲ちゃんのファンだし、でもハナも好き。二人を推したい。ハナ一本にしろって、どういうことだよ。
アガサにも手を掴まれる。
「ハナを一緒に応援しよう。美玲ちゃんももちろんいいけど、その美玲ちゃんを追い越せ追いぬけ! ハナを育てようじゃないか」
いや、育てるのはマスターじゃないか? と、マスターを見ると、目をキラキラしてこっちを見るマスター。手はアガサ。そして今まで座ってたハナのファンと思われる客たちも立ち上がった。
「トクさん、あなたはSNSでかなり影響力がある。ハナちゃんがここまでツートップの片割れになったのもトクさんがSNSでいろいろと分かりやすく拡散やまとめをしてくれたのもある。だからその力を信じて……」
俺のSNSはやたらと反応が良くて。ただ思ったことを呟いたり情報や活動内容を書いていただけなのに、よく拡散される。
そんなに効果あったのかよ。俺の書き込みが。恐ろしい!
ふとテレビを見ると地域チャンネルの放送が流れた。ハナが出ている。美玲ちゃんの日なのだが。みんなで食い入るように見る。
「未だにフリップは反対に出すし、噛むし、冷や冷やする。でもそれを笑顔でカバーする……それを許せるのがハナの魅力かもしれない」
ふと家でテレビを見てる感覚で独り言を言ってしまった。
「トクさん、そうだろ? なぁ、ハナを応援しよう、一緒に」
「トクさん!」
「トクさん!」
ハナファンに囲まれた。
「ワカッターーー! 今日から俺はハナ一本推しでいきます!!!」
と叫ぶと、店の中はうぉおおおお! と歓声が湧く。こ、これでいいだろ?
『ああああっ、すいませーん』
テレビの中のハナがまたヘマを。ほっとけんなあ。やっぱり。
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