第十四話 ハナ…一年後
怒涛の一年だった。清流ガールズの研究生として活動、とはいかず私たち研究生はレッスン、正規メンバーたちの仕事の見学、ライブ会場での手伝いをしていた。
研究生は四人。私よりも若い子たちばかり。そんな中で私をスカウトしてきた大野ちゃんだが、私が研究生になった途端、厳しくなった。オーディションとかいいながらもすぐ清流ガールズでなくて研究生として。
馴れ馴れしさは減り、エステの時もトークのダメ出しが多かった。そう、仕事もしながらもであった。
そしてダンスの覚えの悪い私は他の研究生が前座で踊る中、全く舞台に上がることが出来なかった。つい辛くて泣いてしまうと大野ちゃんは
「泣く子は部屋から出てって!」
と。今まで親しくしてくれたのに急に冷たくされてみんなの前で叱られるなんてかなり凹む。一番年上だから尚更。
メンバーたちは励ましてくれた。特に美玲ちゃんは私を心配してくれた。こんなかわいい子が……自分のレッスンや仕事もあるのに私に寄り添ってくれた。
大野ちゃんには
「ここはサークルでも仲良しごっこではないの。ライバル同士!」
て言われるけど、美玲ちゃんとは休みの日に服を一緒に見に行ったり遊びに行ったりすごく気の合う……年下だけど妹でなくて対等に付き合える子だなって。アイドルだけど普段はどこにでもいる普通の子、それって本当なのね。一年前まではファンとアイドルだったがそうではなくなった。同志、である。
とある日。
「リーダーね、最近苛立ってるけどちょっと焦ってるのよ」
と、美玲ちゃんに言われた。焦ってる? とわたしも大野ちゃんの態度とかも確かにそうかなと思いつつ聞けなかった。
「研究生もハナともう一人になっちゃったじゃない。やめちゃって。あと葉月はストーカー問題でやめちゃったし……恵は引き抜かれるし。実はね、タッキーから清流ガールズが結果出せなかったらあと一年、早ければ半年で解散させるって……」
えっ、まだ私研究生なんだけど! てか結果てなに? ライブもすごく人気なのに。名古屋の祭りでもローカル番組にも映ったのに。美玲ちゃん曰く、それだけではダメだそうで、他にもご当地アイドルが増えてきて激戦区であると言われ、この世の中大変なんだなぁって。ってさ人ごとみたいで自分はまだ自覚足りないわ……。やはり研究生だから、ってだめね。
「大野ちゃんは清流ガールズ存続もだけど、結果残さなくて解散になった時に私たちメンバーの個性を見出さずにどこ行くあてもなく彷徨わないようにって……」
美玲ちゃんは涙を流した。彼女もプレッシャーよね。今まで普通に過ごしていた子がいきなりセンターになって歌に踊りに……。だが彼女はすぐに涙を拭い私を抱きしめてくれた。
「でもね、リーダーはもっと大きなプレッシャーよ。私たちも頑張らなくちゃ。たまにはこうやって愚痴ったりね、美味しいもの食べにいってさ……今乗り越えたら何か成果は出る。がんばろ!」
「うん、がんばろ!」
私も抱きつく。……美玲ちゃんの肌はすべすべして、柔らかくて胸もほどよく弾力あって……とーってもいい匂い。一回だけエステに来てくれたけど本当お姫様みたいで……うっとり。身体を触ってから尚更好きになったわ。大野ちゃんから推し変しそうになったわ。
「でさ、一緒に住まない? ルームシェア」
「え?」
私は両眼から涙を流したままキョトンとしてしまった。いきなり? ルームシェア??? アイドルと? いや、私も一応アイドル……になる予定だけど。
「私たち給料少ないじゃん? だからさぁ……、ねぇ」
それ目的かーい!!! でも確かに安く済むだろうし、防犯にもなるし、そして可愛いアイドルと一緒に暮らせる、この人生の中で二度とあるわけない。一緒に住めば私も可愛くなれる?
「うん、するー!」
と、すごく浮かれてしまった。
もうすぐにアパート探して引っ越しもして。互いに家事もちゃんとするし毎日楽しくて。厳しいレッスンも寒空の下でのイベントも、(私はスタッフ側だけど)エステの仕事も頑張れた。
家に帰れば女の子二人。料理もしたり、お風呂も一緒に入ったり、風呂上がりにはマッサージしてあげたり。私の数年前のことを考えるととても明るくて楽しい日々だ。
でもそんな日々もずっと続かない。
なぜならルームシェアした数日後の夜、エステの仕事が思いの外、早く終わり部屋に戻った。
そしたらリビングで美玲ちゃんが見知らぬ男と裸で……!!!!
「……ハナ、仕事は……」
「ごめん、連絡忘れてた……てかその人は?」
私は彼女の恋愛スキャンダルのカモフラージュ要員としてルームシェアさせられていたのだっ!!!!
まさかのアイドルの裸とあらぬ姿とあらぬ声を聞くなんて、この人生ではもう二度と体験しないことだろう。
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