第15話 リリシア帝国の古代遺跡の始末
僕達は領主の館までやってきた。壁が高く、複数の兵士が警備にあたっていて警備が厳重だ。僕達は人気のないところで翼を出し、壁を乗り越えた。壁の中の庭もすごく広かった。そして玄関先には見たことのある馬車があった。確か、最初にこの街に来た時に見た馬車だ。その他にも2台ほど馬車がある。僕達は遺跡の時と同じように『隠密』を発動して中に入った。
建物の中も豪華な装飾品が壁一面に飾られている。ここの領主は相当お金を持っているようだ。使用人が慌ただしく入っていく部屋があった。その中を覗いてみると、何やらお茶の準備をしている。
「お客様は2人よ! ティーセットを3つ用意しなさい。」
「はい。」
「お酒の準備もしておきなさいね。」
「はい。」
「今回の担当は心の準備もしておきなさい。」
「はい。」
メイド達が接待の準備をしているようだった。メイド達はみんな若い女性だ。しかもパンツが見えそうなほどスカートが短く上半身もビキニ状態だ。3人のメイドがお茶のセットを持ってどこかに行くようだ。僕達がメイドの後をついて行くと、大きな応接室のような場所に入って行った。
中に入ると、真ん中の席に髭を生やし丸々と太った領主らしき男がいた。その両側の席に座っているのはお客達だろう。
左の席に座っている男が挨拶をしている。
「デビッド伯爵様。侯爵への陞爵おめでとうございます。」
「ラット子爵よ。まだ決まった訳ではないぞ!」
「いいえ。ラット子爵の言う通り、あの武器を献上したら、間違いなくデビッド伯爵様は侯爵へとなられるでしょう。」
「ワッハッハッ。ラット子爵もビット子爵も期待しておれよ。」
「ですが、皇帝陛下は今回の古代遺跡で発見された武器で、何をなされるおつもりなのですかな。」
「恐らく隣国のスチュアート王国を滅ぼし、続いて他の国々も滅ぼしていくおつもりだろうな。ビット子爵も準備はしておけよ。」
「はい。畏まりました。皇帝陛下がこの世界を統一した暁には、私もラットにも広大な領地をいただけるものと期待しております。」
どうやら、この国の皇帝が元凶なようだ。
「だがな。心配なこともあるぞ。」
「どのようなことですかな? 伯爵様。」
「他国に古代遺跡から発掘された武器のことを知られるとまずい。今は、古銭などの販売を許可してカモフラージュしているがな。」
「では採掘に当たっている漁師達はどうしますか?」
「古代兵器が発見できた今、用はない。始末させるさ。」
「口封じということですな。」
「まぁ、国のため。我々のためだな。仕方あるまいさ。」
「それはそうと、伯爵様。今日も選ばせていただけるんですね。」
「ああ、3人とも美人ぞろいだ。どれでもいいぞ!」
最後の方の会話で、伯爵達が何を言っているのか僕には意味がわからなかった。だが、師匠は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「ではありがたくいただきますね。」
ラット子爵とビット子爵がメイド達の腰に手をまわし、メイド達を連れてどこかに行ってしまった。
「さて、ではわしも楽しもうかな。」
デビッド伯爵もメイドを1人連れて部屋から立ち去った。僕と師匠は転移して『絆亭』に戻った。
「師匠。顔が怖いですよ。」
「あの3人は絶対に許さない!」
「なんか変ですよ。師匠。」
「シンには、わからなくていい!」
宿に戻った後、状況の確認と今後の対策を相談した。このリリシア帝国の皇帝がこの港町トマリの古代遺跡で発見された武器を利用して、隣国スチュアート王国に侵攻するつもりであること。行方不明になっている漁師達はデビッド伯爵に騙されて働かされていること。そして近いうちに殺されること。以上のことが判明している。次に今後の対策だ。
「師匠。最初にジョン君のお父さん達を助けたいんだけど。」
「ああ、そうしよう。ついでに古代遺跡の中の武器をすべて空間収納で奪ってしまうぞ!」
「はい。」
「その後はあのブタ貴族どもの始末だ!」
「皇帝はどうしますか?」
「この街が片付いたらこの国の帝都に向かうさ。」
「わかりました。」
その日は何故か師匠が僕に甘えてきた。いつもと逆だ。やっぱり今日の師匠は何かおかしいと思った。
翌日、朝食を食べ終えた僕達は早速古代遺跡に向かった。今日は隠れることなく、正面から堂々と突入するつもりだ。僕達が古代遺跡の入口まで転移すると、突然人が現れたことに兵士達は驚いている。
「貴様ら何者だ? どこから来た?」
「・・・・・」
「怪しい奴らだ。捕まえろ!」
兵士達がぞろぞろと集まってくる。遺跡の周りで巡回していた者、遺跡の中で待機していた者、その数は総勢50人程にもなる。
「命が欲しいものは去れ! さもなければ死ぬぞ!」
「何をふざけたことを。構わん! 殺せ!」
僕は刀を空間収納から取り出し、命令している上官らしき男に一気に近づき首を刎ねた。
「ヒェ――――」
周りにいた兵士達はみんな腰を抜かして怯えている。
「さあ、どうする? 死にたい奴は前に出ろ!」
師匠が凄んで見せると、兵士達は一斉にその場から逃げ出した。僕と師匠はゆっくりと古代遺跡の中に入っていく。古代遺跡の中にもところどころに警備兵がいた。師匠に言われて、なるべく殺さないように手刀をあてて眠らせるようにした。そして、最奥の部屋だ。漁師達が1か所に集められている。そこで、責任者と思われる兵士と10人ほどの兵士が漁師達を取り囲んでいた。
「おい! お前ら! 約束が違うじゃねぇか! すべて掘り終わったら家に帰してくれる約束じゃなかったのか? 金なんか要らねぇから家に帰してくれよ!」
「ダメだ! この遺跡の秘密を知った以上、お前らはここで死ぬんだ。」
「だましたなぁ! 勝手にこんなところに連れてきて用事が終われば殺すなんて、酷すぎるじゃねぇか!」
「なんとでも言え! 殺せ!」
上官の命令で兵士達は剣を抜いた。そして、逃げようとしている漁師達に襲い掛かろうとしている。
「シン。行くぞ!」
「はい。」
師匠が最初に上官の前に瞬間移動した。続いて僕が師匠と背中合わせに現れる。突然の出来事に敵味方関係なく、全員が驚いている。
「貴様達は何者だ? 外の見張りはどうした?」
「みんな逃げたぞ!」
「なんだと~!」
「お前達は許さない! 罪もない漁師達を利用した挙句、殺そうとした。ならば自分達が殺されても文句は言えまい。」
「黙れ! こいつらから始末しろ!」
「シン。いいぞ!」
「はい。」
僕は刀を空間収納から取り出し構えた。兵士達が僕に向かって切りかかってくる。僕は、剣をよけながら相手の首を刎ねていく。時間にしてほんの数秒だ。隊長らしきもの以外はすべて倒した。
「師匠。片付きました。」
「ありがとう。さぁ、残ったのはお前だけだ!」
隊長は土下座して謝り始めた。
「命ばかりはお助け下さい。伯爵様の命令で仕方なく従っていたんです。」
「男らしくないな。お終いだ。」
師匠が軽く手を横に振る。すると、一瞬風がおき、次の瞬間隊長の頭が地面を転がった。
「さぁ、漁師の皆さん。ここから出ましょう。僕と師匠が皆さんを誘導しますから。」
「シン。その前にあれを収納しろ!」
師匠が指さした先には戦闘機と戦車があった。
「はい。」
僕は戦闘機と戦車のところまで行き、魔法を発動する。
「ブラトニー」
すると、僕の手から光が放たれ、戦闘機と戦車を吸い込んでいく。全てがなくなったのを確認して、僕は魔法を解除した。漁師達は僕の魔法を見て全員があんぐりと口を開けていた。
「さぁ、行きましょう。」
僕と師匠は漁師達を連れて遺跡の外に出た。外の光がとても眩しく感じる。僕達は本島まで漁師達を運んで、対岸から島を眺めている。
「師匠。この遺跡どうしますか? 他に何か出てきても困りますよね。」
「そうだな。ならこうしよう。」
師匠が上空に手をかざすと、身体から眩しいほどの魔力が溢れ出る。そして魔法を唱えた。
「ディスアピアランス」
突如として島が黒い霧に覆われていく。前は全く見えない。しばらくして、真っ黒の霧が少しずつ晴れていった。すると目の前にあるはずの島がなくなっていた。
「ええ――――――!!!」
漁師達は腰を抜かすほど驚いていた。師匠の凄さを知っている僕さえも驚いた。
「師匠。すごすぎです。」
「シン。あの程度、お前にもできるようになる。」
僕は師匠の腕に捕まり、感動しながらその光景を見ていた。師匠はにっこりと笑っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます