親の心子知らず 1
「おはようございます!」
『一課』と書かれた表札の部屋にボクの声が響く、口々にみんなが返してくる。
「おーぅ。」「はよー。」「うぃー。」
まともな返事が返ってこない・・・男の多い職場だが女性もいる、にも関わらず――――だ。
「おーっす。」「よーっす。」「・・・ん。」女性ですらこれとは・・・。
机の間の通路を進み部屋の奥へと向かう、備え付けの会議室を改装して作られた小部屋、某刑事ドラマの二人組のいそうな場所・・・残念なことにここがボクの職場—―――『特偵係』である。一課の部長さんがドラマの影響を受けてその名を付けられた。
扉を開けて中へ入る、窓際に置かれたソファに一人の刑事が横たわりスマホをいじっている。
「
「朝から元気だな
仕事と言ってもボクたちにそんなモノはない。あったところで、他所の部署で電球交換だったり、ポスター貼りだったりと・・・雑用ばかりだ。
ボクの机の上にも特に仕事の書類のようなものは無い、東刑事の方にも無い。
前に東刑事が言った、「俺たち警察に仕事が無いことは良いことだ。」これで給料貰ってホントに良いんですかね?
上着を椅子の背もたれに掛けて席に着くと部長が入ってきた。
「特偵組おはようさん、朝から悪いんだけど仕事頼めないかな?」
仕事・・・仕事?!雑用とかじゃないですよね?!期待に胸を膨らませたら東刑事が寝転がったまま言う。
「今レイド中、あとにして。」この人マジなのか・・・。
「いやー、東君?今は一応『仕事』の時間なんだけど・・・。」
「いつでも終わらせられる『仕事』と今しかやれない『
「東君・・・この仕事はね、『特別手当』が出るよ?」ボソッと部長が東刑事に耳打ちした。
「いくらですか?」食い気味に東刑事が部長に詰め寄る、金次第で動くのか・・・。
「今この場で現金給付・・・二万円。」
「ちっ・・・!!」部長に舌打ちしたよこの人・・・、部長は怯まず続けた。
「たた、足りない?じゃ、じゃじゃあ三万ならどどど、どうかな?」どことなくタドタドしい、がんばれ部長。
「ガチャの天井分くらいは欲しいですね、そしたらレイドは投げて行きます。」図々しいなこの人・・・。
怯えながら「い、いくらだい?」と部長が聞くと清々しくサラッと答えた。
「そうですねー・・・十万ですね。」すかさず部長が「じゅ・・・十万!!??」と驚き返す。
部長はこういったゲームに関しては詳しくないのだが、東刑事のやってるゲームのガチャの天井はたったの三万円だ・・・その三倍の金額を要求している・・・やべぇよこの人。
部長は涙を流しながら自身の財布を覗き諭吉を十枚抜き取り東刑事に渡した。てか、部長の自腹なんですね・・・ボクの先輩が迷惑かけてすいません・・・。
東刑事は金を受け取るとすっくと立ちあがり上着を羽織る。
「よし、行くぞ冴島。—――仕事だ。」
たとえここまでの経緯がアレでもボクたちにとっては久しぶりの仕事だ、気合い入れてがんばろう!そう思ったその時だった。
「む?これは・・・。」東刑事は渡された書類に視線を向け口を開く。
なんだろう?と思い横から書類を覗いた。そこには『調査依頼』と書かれていた。
「なんですか、これ?」「これは調査依頼書だ。名前の通り、探偵の真似事みたいなもんだ。」
ざっくりと説明を受けた。刑事一課でやるほど大きな事じゃない場合、このようになるらしい。
依頼者名、調査対象、詳細説明、具体的な依頼理由などなど・・・、諸々のことが記入されている。しかし、一カ所だけ一際目立った、依頼理由の項目だ。
そこには大きくこう書かれている。
『いじめ』—――――と。
「ふむ、これは少々面倒なことになりそうだな。アイツに頼るか・・・。」
アイツ?いったい誰だろう?
「アイツって誰ですか?」
「あぁ、そうか。お前も覚えておくといい、紹介してやる。」
きっとすごく腕の良い探偵とか、元ベテラン刑事とかかな?と期待していると東刑事から思いもよらない返事が返ってきた、誰もそれを想定しないであろう言葉が・・・。
『ヒーロー』だ、冴島。
・・・はい?
こんなんでもヒーローなんだよ!! ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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