霧の街

見上げた先にあるもの

*









 見渡す限りに、異様なほどの霧が立ち込めていた。


 吐く息は白く、周囲にするりと溶けこんでゆく。眼の前を覆う半透明のベールは白く、吐かれる息とはまるで見分けがつかない。


 いい加減うんざりしていた。頭上からは、今にも雹か雪に変わりそうな心細い雨が降り注いでいる。この季節、この町はどこへ行っても、どんな時間帯でも、こんな有様だ。幻想的、と言ってしまえばよい印象かもしれないが、そんなふうな言い回しができるほど、この町を覆う霧は生易しくはない。視界を遮る無数の白い壁は、まるで何かを{隠している}かのようにも思わせる。……




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る