第6話:希望・某難民視点

「絶対に諦めるな、誰一人欠ける事なく、全員生きて逃げ延びるんだ。

 ウォルムニウス・ルッソ辺境伯領にまで辿りつければ助かる。

 聖女アリア様が食糧と土地を分け与えてくださる。

 だが忘れるな、女子供を見捨てるような者は助けてくださらないぞ。

 お前達も神罰が下って身体が腐り、死ぬに死なない貴族共を見ただろう。

 少しでも余力のある者は女子供を背負うのだ、いいな」


「「「「「おう」」」」」


 愚かな王族たちが聖女様を蔑ろにしたために、王国領の作物が全て枯れてしまい、ライ麦一粒も実らなくなった。

 王都から流れてきた噂では、全ての王族が神罰を受け、化け物になったという。

 いや、王侯貴族と騎士の大半も化け物なったという。

 唯一聖女様のおられるウォルムニウス・ルッソ辺境伯家だけが、神と精霊の加護を受けて豊かな実りを得ているという噂も一緒に広まった。


 このまま故郷にいても餓死するだけなのは目に見えていた。

 誰言うともなく、辺境伯領に逃げようという話になった。

 普通なら村を預かる騎士や代官の村長が、力尽くで村民の逃亡を止める。

 だが止めるべき騎士や代官が、神罰を受けて苦しんでいる。

 騎士や代官の手先になっていた村人も、同じように神罰を受けて苦しんでいる。

 元気な村人だけで相談して、運べる家財を持って故郷を逃げ出した。

 

 幸い逃避行の途中で盗賊や領主に襲われることはなかった。

 不思議な事だったが、悪い連中は全員神罰を受けたのだろうという話になった。

 だからこそ、途中の村で略奪をする事などできなかった。

 悪い事をしてしまったら、今度神罰を受けるのは俺達なのだ。

 苦難の逃避行でも、誰一人悪事を行うことなく助け合ってこられたのは、良心があったからではなく神罰が怖かったから。 

 だがもう限界だ、故郷から持ち出してきた食糧が残り少ない。


「リンゴだ、リンゴが実っているぞ」


 先を歩いていた若者が大声を出している。

 神罰が下って悪人がいなくなったとは思うが、油断はできない。

 この国の窮状を知って、隣国が攻め込んできているかもしれないのだ。

 聖女様を助けるためなら神様や精霊も手助けしてくださるだろうが、俺達を助けてくださるとは限らないし、他国の兵士に神罰を下すとも限らない。

 それに、俺達を襲うのは人間だけではないのだ

 獣たちが弱った人間を襲う事はよくある事だ。


「リンゴを勝手に取るんじゃないぞ、下手したら神罰が下るぞ」


 食糧が残り少なくなったことを、一緒に逃げている全員が知っている。

 ここでリンゴを取り事ができたら、辺境伯領まで生きてたどり着けるかもしれないが、リンゴが神様の試験かもしれないのだ。

 聖女様の領地に入れていい人間か、それとも神罰を下すべき人間か、試されている可能性がある以上、ここは苦しくとも盗みを働くわけにはいかない。


「大丈夫だ、精霊の実りは自由に食べていいと書いてある」

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