第5話:慈愛
「エドアルド、辛いでしょうが、これも領主一族の務めです。
逃げてくるであろう民のために、急いで作物を実らせます」
「はい、アリアお義姉ちゃん」
アリアお義姉ちゃんが僕に頼んできた。
お義姉ちゃんが僕に辛い事を命じることは一度もなかった。
いつも頭を下げて頼んでくれる。
お義父さんとお義母さん以外の人は、それをとても怒る。
孤児上がりの養子などに頭を下げてはいけないという。
そんな時には、僕には怒った事のないお義姉ちゃんがとても怒る。
それからは、お義姉ちゃんとお義父さんとお義母さんの前では僕を怒らなくなったけど、いない時にはとても強く怒られた。
だから、怒られないように気をつけていたら、そんな人達がいなくなった。
それからもっと怒られるようになったけど、神様や精霊がよく見えるようになったら、そんな人達は死んじゃった。
その後でお義姉ちゃんが神の教えに背く者には天罰が下るのですと言ったら、僕を怒る人は誰もいなくなった。
怖くて逃げ出した人もいたと後で聞いたけど、僕にはよく分からない。
お義姉ちゃんとお義父さんとお義母さん以外の人なんていらない。
お義姉ちゃんとお義父さんとお義母さんがお願いする事をやるだけ。
神様も精霊もそれでいいと言っている。
優しいお義姉ちゃんが痛くて苦しい事をお願いしてくるのは、お腹の空いている人に食べ物を分けてあげる時だけ。
僕のように他所から逃げてくる人がいると、お義姉ちゃんが準備している食べ物では足らない事があるみたい。
神様と精霊の話では、今までは凄く痛くて辛くて、命までけずって、お義姉ちゃんが逃げてくる人の食べ物を作っていたのだって。
でも、僕が手伝えば、優しいお義姉ちゃんが痛くないし苦しくない。
命を削る事もないと神様と精霊が言っていた。
僕がちょっと痛くて苦しいのをがまんしたら、お義姉ちゃんが楽になる。
今まで他の人からされていた、痛い事や苦しい事、辛い事や哀しい事に比べたらとても楽だから、ぜんぜん平気。
それに、お義姉ちゃんを手伝ったら、後でごほうびをくれる。
『痛くて辛いのに手伝ってくれてありがとう』と言って優しく抱きしめてくれる。
とてもやわらかでいい匂いがして、幸せになれる。
だから痛くても辛くてもお義姉ちゃんのお手伝いは大好き。
それに作った食べ物のいくらかは僕の物だと言ってくれる。
お城の中に大きな家と大きな小屋があって、そこに入れてある。
僕が初めてもらったごほうびで、僕の家と小屋らしい。
僕が大人になったら、そこで暮らさないといけないらしい。
本当はずっとお義姉ちゃんとお義父さんとお義母さんと暮らしたいけれど、それはお義姉ちゃんがお嫁さんに行くから無理だって言われた。
でも、お義姉ちゃんがお嫁さんに行かなくなったから、ずっと一緒に暮らせるのかな、そうだったらいいな。
「エドアルド、いつもよりもとても量が多くて、何十倍も作らないといけないから、痛すぎたり辛過ぎたりしたら言ってね、休憩するから」
「だいじょうぶだよ、お義姉ちゃん。
いつもよりもたくさんの神様と精霊が集まってくれているから」
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