第16話 秘密基地団とミーティング case レイプされたら

「・・・はい」

『・・・ヨオ』

「・・・こんばんは」

『・・・おめーがなんかしゃべれ』

「・・・ごきげんよう」

『ちょっと待って、何、今日は機嫌悪いの?』

「そういうわけではないですけど、別に話すこともないかなと」

『それだと困る、じゃあ今日はこっちから考えてきたお題で一緒に話そう』

『おめー、レイプされそうになったらどうする?』

「いきなりなんですか、それが今日のお題ですか?」

『弥生ちゃん、ごめんね。藤くん、いきなりぶっこまないで』

「びっくりしました」

『ごめん、ごめん。いきなりそれはないよね。でも、大切なことだから、一度弥生ちゃんに意見を聞いてみようと思ってたんだ。藤くんもあやまって』

『・・・すまなかった』

『驚かせてごめんなさいって言って』

『おめーが今言ったんだから、もういーじゃねーか』

『いや、今の鍵括弧だから』

『いいから聞いてみろよ』

「あ、ちゃんと生徒会長もいらっしゃるんですね」

『おう、毎回ちゃんといるよ』

『なんで斎藤が話しかけたときだけ、機嫌良さそうに喋るんだ』

『藤くんはいいから少し黙ってて』

『いやだ、黙ってらんねえ。レイプされたらどうするのか言ってみろ』

『いや、藤くん。それ人にものを頼む態度じゃないから』

「将棋先輩、大丈夫です。レイプって強姦罪のことですよね」

『君が将棋先輩って呼んでくれて、ちょっと落ち着いたよ。そうだね、犯罪としての正式名称は強姦罪だね』

『もう、斎藤と弥生ちゃんで話し進めたほうが安心できるよ』

『お前の好きな音楽の話しをしてみろ』

『だから、藤くん。もう少し優しく頼んでみたら』

『別に会話してるだけなんだから優しく頼む必要ねーだろ』

『ごめんね、弥生ちゃん。今日もちゃんと斎藤いるから』

「わかってます、大丈夫です、将棋先輩。謝らないでください。私の好きな音楽についてお話しすればいいんですよね。今日も全力で個人的主観でお話します」

『ありがとう、助かるよ、君が恐れ知らずで素直な子で』

「恐れ知らずってどういうことですか?」

『いいから気にしないで。今日は藤くんは、君と音楽の話しがしたいんだって』

『いいから早く話してみろ』

『いや、藤くん。もう少し優しく話そうよ。電話なんだから余計そうした方がいいって。彼女に怖がられたら、藤くん、話し相手いなくなっちゃうよ』

『・・・すまなかった』

『いや、謝るくらいだったら直そうよ』

『お前は俺が怖いのか』

「全然怖くないですし、普通に喋り易いように話してくださって大丈夫です」

『なんで大丈夫なんだ?』

「物理的な接点ないですし、もし会った時も、はじめましてから始めるって約束してくださったじゃないですか」

『その約束だけで普通にしてても大丈夫なのか』

「私は大丈夫です。お互いラジオのDJになったつもりで話しましょう」

『お前は俺たちのことをラジオのDJだと思っているのか』

「そうですね、似たようなものじゃないですか」

『藤くん、良かったね。静香ちゃんが心の広い女の子で』

『別に普通だろ』

『だから言い方』

『褒め過ぎると調子乗るぞ』

『いや、俺の記憶の限りで弥生ちゃんが電話の先で調子乗ったような素振りみせたことないから』

『言い方は直さねえ、これが俺の普通だ』

『これが俺の普通なんだって。皆、弥生ちゃんみたいに怖がらないで話しかけてほしいな』

『俺はラジオのDJだってできる』

『何言ってんの、藤くん。話しが脱線してるから』

『脱線なんかしてねえ・・・』

『・・・静香ちゃん、藤くんねえ、ラジオのDJみたいだって言われて嬉しくなっちゃったみたい』

『言うんじゃねえ』

『いや、言わないとわからないでしょ、電話なんだから。それくらいいいでしょ。ここが正念場なんじゃないの。せっかく、皆集まってくれてるんだからさあ、ねえ、藤くん』

『うるせえ』

『うるせえじゃないよ、うるせえじゃ』

『うるせえって言って何が悪い。これは俺の口癖だ』

『口癖がそんなんじゃ困るよ。皆、逃げちゃうよ。ねえ、ここに居る皆、藤くんにうるせえって言われたら嫌だよねえ』

『俺は気になんねえ』

『今、野球部の人が俺のことフォローしてくれた。ねえ、今、発言してくれた人ってレギュラーの人かな?』

『今この状況でレギュラーかレギュラーじゃねーかは関係ねーだろう』

『「野球部」でひとくくりにしてくれ』

『志は同じだから』

『ねえ、静香ちゃん。君の高校の野球部員たちは志を皆共有してて、懐が深くて、心強いね』

『同じことを言わなくても、荻野はちゃんと聞いてるだろ』

『今ね、荻野って言ったのはね、君の高校の野球部員のうちの誰かだよ。このことはねえ、覚えておいたほうがいいと思うよ。今ね、俺が弥生ちゃんに凄くいい情報を与えてあげたからね、まずちょっと俺に感謝してみようか』

「将棋先輩、ありがとうございます」

『ありがとうございます、将棋先輩って言って欲しかった』

「・・・」

『今笑ってくれたでしょ』

「・・・」

『ねえ、なんか言って、言ってくなきゃ困っちゃう』

『追いかけられたら困るだろ』

『追いかけたりしなんだって。弥生ちゃんの現実の世界では、俺達は知らない男の人で、顔を合わせたら怖いんだって。何度も同じこと言わせないでよ』

『お前の甘いマスクなら大丈夫だ』

『何言ってんの?いや、今そんなことどうでもいいでしょ。弥生ちゃんに招待伏せるのブームか何かなの?』

『いや、斎藤も名前呼んじゃってるから』

『斎藤は生徒会長って立派なあだ名もらってるだろ。なんで斎藤が生徒会長なんだ、言ってみろ』

『藤くん、言ってることが支離滅裂だから』

『支離滅裂じゃねえだろ、ラジオのDJじゃねんだぞ』

『名前を呼ぶのは恥ずかしい』

『名前を呼ぶのは恥ずかしいんだって』

『繰り返すな、聞こえてるだろ』

『聞こえてたって繰り返したくなるときもあるんですう』

「仲いいんですね」

『二人で話してるだけなら電話切ってやったら。こいつ朝練毎日来てるけど、バスケ部女子も学校を守るために苦しい練習を一緒にがんばっている』

『俺もね、そうしたいのはやまやまなんだけれど、今日は下北沢の平和について話さないといけないかと思って、こうしてわざわざ弥生ちゃんのために平和の土壌をこしらえて、こしらえてって言うか、こしらえてって言い方変か。今日はね、話題を変えずにこのままレイプの話題で進めようかなと思ってたところに藤原くんから意外な助け船をだされてね。今日はね、今日もねと言おうか、美沙子もいることだしね、レイプと言う言葉に己が一番動揺していることに己が一番腹を立てているというね、弥生ちゃんに助けを求める前に、斎藤はいざと言いう時のための切り札でねえ』

『斎藤と弥生ちゃんで話した方が、この際相性のいいもの同士で。斎藤がこの話題一番嫌なのかあ』

『あのねえ、一旦ちょっと助けて、何かちょっと話題建て直して。俺、その間に体制建て直すから』

『俺たちも藤原のこと、音楽に詳しいラジオのDJだと思って話しかければいいのか』

『その話題ちょっといいね。俺、だいぶ落ち着いたわ。今日は俺もラジオのDJ間借りしちゃおう。その方が弥生ちゃんもいいよね』

「はい」

『いいね、いい声の返事だね。弥生ちゃんが意外と落ち着いてるところが、俺の気を単純に逸らしてくれるよ。斎藤はね、この話題、弥生ちゃんに振られるのを一番嫌がってね。斎藤は弥生ちゃんのこと、平和の申し子だとだと思ってるからね。でも、一緒に治外法権の輪の中に入れてもらって、一緒に立法政府を立て直した仲だからねえ。話し進めるのは俺にするって、皆で何度も話し合って決めて、ここでこの話題だからねえ、皆も俺が動揺することは大目に見てくれているからねえ』

『妹がいる人にとったら、他人ごとではない話題だよな』

『助け船ありがとう。ちなみに音楽の話題だったら、弥生ちゃんはどんな話ししてくれようとしてたの?これじゃあ、斎藤が頑張って話ししてたの、ただ黙って聞いていただけであとで反省会と称して筆おろしのおろしの議題はもっと掘り下げるべきだったなんて言っちゃった、斎藤に対する俺の立場は、あの時の弥生ちゃんの反応可愛かった。気持ちよかったですかなんて聞いちゃって。これカットしてって頼んだ話題だったけれど、斎藤ものっちゃって、女の子にちんこ入れるのは緊張するなんて、俺、そんな話し羨ましいと思いながら聞いちゃって。あ、羨ましいのはちんこ入れる話しじゃなくて、そういう話しができるって方ね。弥生ちゃんと仲良しの斎藤が羨ましい。どう考えても斎藤より俺の方が経験豊富なはずだから、何も羨ましいとは思わない。なんて、俺もこういう話し実は好きなの。弥生ちゃん、どう思った?』

「・・・将棋先輩、動揺し過ぎです」

『そうなんだけどさ。将棋先輩って呼ばれて今度は動揺しちゃった。下ネタ話すときは、将棋先輩って呼ばないで普通に増川って呼んで』

「増川先輩」

「先輩ってつけないで。下ネタ話すときは先輩やだ。でも下ネタって言うより、君と話すときは“あさきゆめみし”の“寝屋”の話しって言った方が君も話しやすそう。君ってシャイなのに落ち着いて欲しい時には落ち着いていてくれるよね』

『藤原が怖いって話しに戻して話し進めたら?』

『藤くん、会って怖がられたら一貫の終わりだし、はじめまして失敗しそうだから、絶対に会いに行ったりしちゃだめだよ』

『話し、逸れた』

『もし』

『もしも何も会いに行っちゃ駄目。とりあえず俺のいないところで勝手なことしないで』

『お前のいないところで勝手なことしなければ問題にならないんだな』

『それか、斎藤についててもらって。チャマはだめ』

『なんでチャマは駄目なの?』

『余計怖がられるだけだから』

『おまえは駄目なの?自慢の甘いマスクで』

『いや、俺も駄目かも。俺、自分で自分のこと甘いマスクって思ったことないんだけれど。あのね、怖がられる原因が一つあってね。俺、君のこと調べまくってる。君のことと言うか、君の弟のこと。いや、俺、君の弟、知ってるんだけど』

「何でですか?」

『弟くん、佐倉高目指してるでしょ。“礎”って塾で勉強しているよね。あの塾、佐倉高生の間では有名な塾なんだ』

「ああ、そうか。塾の先輩皆、佐倉高生ですもんね」

『そうなんだ。君が譲ってあげたから弟くんが入塾できたことも知っていて。俺、言ってなかったけど、佐倉高出身なんだ。最初、テニス部の先輩だって嘘ついてごめんね』

「あ、あの?じゃあ、英和に将棋同好会の話しも、あなたが?」

『そうなんだ。同じ学校の生徒の方が安心してくれるかと思ったんだ。でも嘘つかない方が良かったよね?』

『確かに黙っている分には構いませんけれど、嘘つかれると信頼関係が築けなくて、お喋りしにくくなりますね』

『そうなんだ。今、言っておいて良かった。大事な局面だからね、俺にとっても。紆余曲折あったんだけれど、あんまりこの話しはしたくないな。俺、君のこと、けっこう気に入ってるみたいだから。いつも美沙子に優しくしてくれるし。美沙子も懐いてるし。弟くんにはぜひ、佐倉高校に合格して欲しいと思ってる』

「弟も男なんで、なんとかすると思います」

『弟を“礎”に入塾させたのは正解だと思うよ。君は英和高校に入学したこと不本意だったみたいだけれど、こうして良い出会いもあったことだしね』

「今でも不本意だったと思っていますけれど、こんなに野球部に恋焦がれるなんて思ってもみませんでした」

『恋焦がれているの?』

『恋焦がれているのは斎藤の正宗だけにして欲しかったなあ』

「白いユニフォーム姿での練習風景は絶大ですよ」

『心の支えなんだね。俺も佐倉高生として、君が誇りに思えるような先輩になりたいよ。で、今日はね、やっぱり藤くんには申し訳ないんだけれど、音楽の話しじゃなくて、レイプ犯罪に話しを戻そうか。どうしてこの話しをするのかというとね。その前に、音楽の話しをするとしたら、どんな話しをするつもりだったのかって話しを先に訊いておいた方がいいって。弥生ちゃんどうかな?』

「音楽の話しだったら、ディズニーの話しにしようと思ってました」

『なるほど。具体的には』

「“Aw

hole new world”かな」

『いいね。じゃあ次回の議題は弥生ちゃんの好きなディズニーの、“It’s a small world”にしとけって言われちゃった、斎藤宏介に。にしといて、俺もこの話題、楽しみだな。励みになるよ。斎藤宏介がね、ユーカリが丘は下北沢を生息地とする俺たちにとっては、“It’s a small world”みたいなところなんだって、ディズニーランドの。弥生ちゃんはディズニーランド、好きなの?』

「ディズニーランドより、ディズニー映画の方が好きですね」

『同じものじゃないの?』

「全然違うんですよ」

『どうして?』

「私、ディズニーランドって、ウォルトさんの魔法は関係なくて、キャストの努力の結晶だと思っているんです。やっぱりウォルトさんのディズニーの魔法の本質って、ディズニーの映画の中にあると思うんです」

『なるほど、その話題面白そうだね。俺の藤くんも興味深々って顔しているよ。皆、ディズニーランドは好きだんもんね。美沙子はまた、お兄ちゃんと一緒にディズニーランド行こうか。で、レイプの話題ね。元に戻すね。これわざとね。ディズニーの魔法にあやかって、この話題先に片付けて行こうか。俺たちもね、身近に感じるようになったのは、最近のことでね。下北沢の話題に移る前に、制服の話題をしておこうか。制服の話しと下北沢の話題をどっちを先にするのか、意見が割れているんだけれど、これは俺の独断と偏見で決めさせて。斎藤も頷いてくれているし。君にこの問題について、身近に感じてもらうために、まず、千葉英和高校の制服について話しをしておくね。斎藤も一緒にいるから、君も心して聞いていて。ちょっと君の声聞きたいから、返事して俺の名前呼んで』

「はい。増川さん」

『この場合はね、先輩でいいよ』

「はい。増川先輩」

『そう、先輩として君に話しておくよ。この、千葉英和高校の制服ね、女子高時代からのもので、俺たちにとっては可愛いって思えるものなの。君も含めて、一部の生徒は苦手意識を感じている人もいるみたいだけれど。この前、話した通り、美沙子も憧れる位の可愛い制服なの。でね、それはいいんだけれどね。返事して』

「はい」

『いいね、優等生みたいな声だね。でね、最近というかね、藤くんもこの制服好きになったきっかけがあってね。実は深夜帯のアニメで、高校生が主人公のアニメがあってね。君は意志があって、アニメはジブリとディズニーだけって言っていたよね。大半の女子がそうだと思うんだけれど。え?ノイタミナ?この子はそれも知らないんだって。漫画もアニメも意志があって見ないんだって。君は、ビジュアライズは音楽のためにとっておきたいって言っていたよね』

「ええ」

『音楽を聴いて、綺麗な景色を想像するのが好きなんだって。男はね、違うの。グラビアアイドルの写真も、漫画もアニメも皆、好きだからね。皆じゃないっか。でね、深夜帯のアニメ。俺の周りでは結構有名で、皆この話題で持ちきりなの。でね、可愛い女の子がふたり出てきて。ロボットに乗る、ロボットでいいの?弥生ちゃんがわかればいいか。ガンダムは知っているよね?』

「はい」

『知っている人は俺が弥生ちゃんに合わせているのに合わせてね。ガンダムみたいなロボットに乗る、正義の味方の子なの。主人公は男の子なんだけれど、主役級の女の子もそれぞれのロボットに乗る、正義の味方。使徒って言う敵がいてね、それから第三新東京市を守る、第三新東京市っていうのはね、東京っていっても伊豆が舞台と言われていてね、その理由はね、セカンドインパクトが起きてね、これから使徒がサードインパクトを起こそうかと、これだと俺、説明できねえ。俺もね、こんがらがっちゃう程、このアニメが好きなの。ちなみに斎藤はそうでもないみたい。あんまり思い入れはないんだって。でね、弥生ちゃん、“使徒”って聞いてどう思った?』

「キリストの教えを布教する、“使い”ですか?」

『“使い”って言葉いいね。このこと知らない子の反応、いいね』

『この話しにでてくる女子高生の制服が、俺らの学校の女子の制服にそっくりなの』

『女子高生かあ。俺も藤くんも綾波レイちゃんのこと、女子中学生だと思って話し進めてた。だから日本武道館で“ray”がいいっておじさんたち言ってたのかあ。おじさんたちって言うのは、俺たちの音楽の場における保護者ね。君の愛するあの人のことね』

『話しが脱線し過ぎている』

『ナイスフォロー!』

「野次?」

『弥生ちゃんはね、この話題、あまり興味がないみたいだけれどね。俺たちね。真剣なの。でね』

『俺たちの女子の制服が全国区で有名なの』

『そう。このアニメの影響でね。実感沸かないでしょ。俺、この前行った時、この話題、』話しておけば良かった』

『続けろ』

『このアニメは深夜帯なんだけれど、全国ネットで絶賛放送中なの。君の弟もこの話題で話せたら親近感沸くのになあ』

『ますかわ』

『で、制服着ている時は、気をつけて欲しいの』

『荻野は普通にしていても気をつけているし、アニメの影響とか考えないで欲しい』

『おまえはジャージを着ていろ』

「私、野球部の人に“校内で一番ジャージが似合う”って言われて嬉しかった」

『それ言ったの先輩だから』

「そっかあ。ありがとうって言っておいて」

『またね、話しかけに行くって』

「嬉しい」

『ジャージに話題が奪い取られた』

『制服の話しが長い』

『でね、制服が有名になったって話しね。その前に、千葉英和はキリスト教の教義を学ぶってのもポイント高い。この根幹を為すものだから』

『脱線すんな』

『で、下北沢に話しを繋げるためにね。藤くんも、この学校の制服が好きなの。現役に限ってね』

『荒らしがいる』

『荒らしってこの場合は荒野の荒らしね。で、藤くんがこの制服が好きだって知った、藤くんを好きな女の子が、皆、この制服を下北沢に着てくるようになったの。で、卒業生の制服が高値で取引されているという事実もちらほら。この時点で、斎藤が、弥生ちゃんもう、怖がっているんじゃないかって』

「そうですね。私には縁のない話しですね」

『そうでもないの。君が一番、気をつけて。藤くんにおやすみなさいって言った子だからってことにしておこう。で、君はあまり実感沸かないかもしれないけれど』

『実感沸かねえんじゃねえ、腑に落ちねえだけだろ』

『日本一を取った藤くんはねえ、下北沢では王様と呼ばれる位、有名人なの。地元でもね。地元っていうのは千葉の話し。パルコに行く通りね。この子、千葉には来たことあるの?なるほど、お母さんとそごう止まりかあ。ほんとに何にも知らなんだね。野球部の人たちが弥生ちゃんはそのまま、野球部に恋焦がれる存在で居て欲しいんだって。頼まれなくてもそうするよね。草野正宗さんも健在だし。で、この制服着て来た女子が狙われる事件が多発してて、まあ、主に下北沢でね。え?千葉でも?野球部の人、その情報ありがとう。弥生ちゃんはそのまま、普通にしててね。俺、妹より、弥生ちゃんの方が心配だわ。でもあと1年ね。美沙子はその制服着るのは、文化祭の時だけにして。でね、女の子が危ないって話し。返事して』

『はい』

『でね、それがね、アニメの影響というよりは、藤くんに逆恨みした男どもの仕業なんじゃないかって。俺たち、これから気をつけてあげないとって話していたの。で、下北沢で困ったら、お巡りさんじゃなくて、お巡りさんって事件性薄いと取り合ってくれないの』

『自業自得だろって言われた』

『ユーカリが丘のお巡りさんとはちょっと違うでしょ』

「そうですね」

『で、困ったら、駅員さんに助けを求めるようにって言ってあるの。弥生ちゃんもそうしてね。一応、千葉の方も手をまわしておくか。京成の方なら話し聞いてくれるんじゃないの?え?野球部の先輩がいるのか。お巡りさんにも?それは心強いね。美沙子はお兄ちゃんと一緒の時にしか行かないで。弥生ちゃんは、斎藤がなんとかしてくれるって。ロザリオをお守りに身に着けて来いって、斎藤が。で、卒業するまではおあずけにするって。俺たち、駅員さんに事情話して、千葉英和の制服着た子が助けを求めて来たら、取り合えず匿ってもらえるように言ってあるの。本物の生徒手帳を持っている子だけね。これは、藤くんの影響力の為せる技なの。あと、君の好きな保護者先輩のね。俺は君が好きな人のことを、先輩って思ってる。俺は男だからね。自分の所業は自分でなんとかする。弥生ちゃんはストレイテナーさんの言うこと聞いた方がいいっか。でもロザリオの約束は忘れないでね。斎藤、自分の声で話してやれば?斎藤、恥ずかしいんだって。ロザリオの約束守れる?返事して』

「はい、わかりました。斎藤さんとの約束、守ります。ストレイテナーさまの言うこともちゃんと聞きます」

『良い子だね。ちなみに藤くんに会いたいときは生徒手帳だけね』

「・・・はい」

『藤くんに会いに来ることはないっか。で、怖い思いした女の子の話し。今日の藤くんの勇気に免じて、免じてっていう言い方変か』

『早く話し進めろ』

『そういう言い方しないで。俺だってステージ立つ男なんだから。で、君が怖い思い、こんな抽象的な言い方じゃ駄目か。ここはストレートに、レイプされたらどうする?』

「うーん。レイプですよね」

『そう、強姦罪』

「まず、第一に、母には、あったことは全て話します」

『話せる中なの?』

「もちろんです」

『それはどうしてなの?』

「普段から心配掛けないように、そういったことに巻き込まれないように、ちゃんといろいろなことを守って生きてますから」

『そうだねえ』

「それに、警察に行くにも、婦人科に行くにも、保護者がいないと」

『確かにその通りだわ』

『どうして婦人科に行くの?』

「緊急避妊ピルが必要になる場合ありませんか?」

『駅員に助けを求めてる場合じゃないんじゃないの?』

『それ、おまえにしか思いつかないんじゃないか?』

『俺、早くディズニープリンセスの話しが聞きたい』

「大事なことです」

『保護者がいないと病院には行けないね』

『普段からの信頼関係が大事なんじゃん』

『面倒くせえやつって言って悪かった』

『藤くん、やっと弥生ちゃんの良さがわかってきたかあ』

『ユーカリが丘の治安に守られてるんだな』

『この時間には家に居て欲しいよな』

『一番遠い奴が一番対策取れてんじゃね?』

『対策取れてるから遠いんだろ』

『おまえ、いつもの保護者みたいな声してる』

「私もそう思います」

『いつもの保護者みたいな声って言われた男子生徒、嬉しいって』

『野球部員って言え』

『妹がいる人なんだって』

『どんな声かな?俺の声わかる?』

「はい、将棋先輩」

『良かった』

「思いやりのある声、じゃないですかね」

『思いやりかあ。藤くんに足りないのは思いやりなんじゃない?』

「思いやりがないんじゃなくて、余裕がないだけじゃないですかね。音楽のこと、一心に考えてるだけなんじゃ」

『俺、藤くんのこと傷つけるところだった。ごめんね』

『ディズニープリンセスに逃げようとした男があやまりたいって』

「ふふ」

『弥生ちゃんがわらってくれて助かった』

『で、本題に戻そう』

「ですよね、私が犯罪に巻き込まれて」

『レイプは犯罪だからね』

『義務教育的には同じことをしているのに』

『義務教育っていうか保健体育ね』

『この声聞くと安心しちゃうよねえ』

「はい」

『今の斎藤宏介じゃないよ』

「うそっ」

『謎の野球部員が喜んじゃってる』

『マジパンって思いやりなの?』

『弥生にとったら、愛されてるんだって思えることの象徴なんだって』

『なんとなくわかってきた』

『おまえもいい加減、マジパン受け入れたら?』

「“杏”に来て欲しい」

『気が向いたら行くって』

「やったあ」

『粘り勝ち』

「で、犯罪、強姦罪に巻き込まれたら」

『はい』

「これは私の超個人的主観ですが」

『それが聞きたい』

「私だったら、口元を押さえて、唇を死守しますね」

『ちょっと待って、皆、笑い出しちゃったよ。今、馬鹿かって声も』

「私の超個人的主観です」

『理由は?』

「キスは王子様とするものだから」

『おめえはレイプをわかってねえ』

「わかるわけないですよね」

『弥生ちゃん、怒らないで。想像はつく?』

「想像もつかないし、理解できないし、腑に落ちることなんてないですけれど」

『理解できないってどういうことかな?』

「その犯罪を犯す、男性側の視点ですね」

『そっか、俺たちはなんとなく、予想はつけてる』

「でも」

『でもって何の続き?』

「想像もつかない、理解できない、腑に落ちないの続きで」

『続きで』

「でも、私、この話しするの恥ずかしいんですけれど」

『何?!』

「『ミナミの帝王』で、レイプシーンを見たことがあるんです」

『「ミナミの帝王」かあ。別に恥ずかしくないよ』

『よく、お父さんと一緒に見られるよね』

「けっこうおもしろいですよ。社会勉強にもなるし」

『義務教育に追加するか』

『高校生の方がいいんじゃないの』

『俺、見てみる』

『どんなシーンだった?』

「敵のアジトみたいなところに、仲間の恋人が拉致されてて、返して欲しければ、みたいなシーンで、恋人役の女の人が、乱暴な行為をされてる、演技?ですよね。で、まわせ!みたいな」

『なるほどね。ドラマのワンシーンでも勉強になるね?怖かった?』

「実は、怖さは良くわからなくて」

『そうだよね。誠実な反応だね』

「一番は、不快でした」

『ふかいって不快指数の不快?』

「そうですね」

『俺、深い森の方思いうかべちゃった』

『ジブリか』

『ジブリかディズニーに逃げたくなるよね、この話題。藤くん何?』

『唇を死守するより、助けてって言う方が先だろ』

「でも、私は最悪の事態を考えてお話ししているんです。知らない場所に閉じ込められて、複数の男の人たちに囲まれたら、どうしようもなくないですか?最悪の事態を避けるために、なるべく穏便に済むように心がけた方が。それに、演技でしたけれど、その恋人役の女性も、いやとか小さい声でいってるだけで、助けて!なんて、大声出してませんでしたよ。それだったら、せめて唇だけは守りたいって思った方が、心が壊れないんじゃないかなって思って」

『藤くん、すまなかったって。女の子の視点だよね。なるべく、傷つかずに帰りたいっていう。男も、女の子自身に何か恨むような思い入れがなければ、そこまで乱暴なこと、できないかもしれないよね』

『なんにしても、まず、巻きこまれないことが大切だから』

『制服のまま下北来るときは、ちゃんと生徒手帳持ってた方がいい』

『なんで?』

『ほんとの学生だったら助けてもらえるし、俺たちもなるべく影響力がおよぶ範囲のところでは、ちゃんと守ってもらえるように通達しておく』

『巻き込まれたときは、ちゃんとやめてほしいって訴えて、それでも危ない時は、穏便にことが運ぶように、あまりイライラさせないように気をつけて』

『唇を死守する!』

『心を守る!』

『犯罪の話しの結論がこれでいいのかなあ』

『私、私も唇守ることにする!キスは王子様としかしない!』

『最後の手段だよなあ』

『取り合えず、下北でなんかあったら、俺らか駅員さんに相談してもらって』

『家族にはちゃんと事情話せた方がいいな』

『自由ライブより、バンドのチケットちゃんとある方が安全なの?』

『そうなんだよ。多分、顔見知りも多いし』

『時間帯も』

『平日は夜になることもあるよなあ』

『なるべく明るい時間に行き来できるように』

『キスは王子様とだけ、で心が守れるといいね』

「キスって重要じゃない?唇って大切じゃない?」

『こだわるねえ』

『下北がユーカリが丘みたいだったらいいのに』

『自由と音楽と文化の街だろ』

『とにかく巻き込まれないことが大事』

『声かけられてもついていかないとかね』

『甘い話しには裏がある』

『チケットの手配もちゃんとしてあげたら?』

『確かに』

『これからもっと、気をつけよう』

『いきなり物騒な話しして悪かったな』

「いいえ、やっぱり、事前策というか、あらかじめ気をつけることが大切なんだなって、あらためてわかりました」

『解決策にはなってねえもんなあ』

『でも、参考になったよ』

『皆で連携して、下北を守ろう』

『音楽を楽しめる、安全な街に』

『休日の午後がいい』

『次の日が月曜日の方が、はめ外さない!』

『誰かと一緒の方がいいな』

『その方が気が緩まない?』

『ところでさ、弥生ちゃん自身はさ、セックスについてどう思ってるの?』

「性行為についてですか?」

『性行為っていうと、義務教育感、半端ないから、セックスって言って欲しかった』

「あの、」

『困らせるなって』

「お嫁に行くまで大事にとっておきなさいって、母には言われてますけれど」

『そんな話しするんだ』

「中学のとき、そういった話ししました。彼氏ができたらちゃんと紹介してほしいとか」

『普通だなあ』

「でも、私にはわかりません。なんか否定するのも違う気がするし、だからと言って、誰かに合わせるとか、流さるものでもないと思うし、お互い気持ちがあるのにもったいぶるのも違うし、かといって、大切にできないのもどうかと思うし」

『興味本位で流されたりしないで、大切に育めばいいんじゃないの?ひとりですることではないしね』

「そうですよね。でも妊娠するかもって思うと怖くないですか?」

『それ、気を付けていれば、けっこう大丈夫だと思うけどね』

「そうなんですか」

『いや、俺の個人的主観』

『避妊に個人的主観って使うのおかしくね?』

『最も客観的事実を必要とするジャンルだろ』

『レイプの話題で王子様がでてくるとは思わなかった』

『今日は、女の子は自分の体を、ことのほか大切にしよう、で締めようか』

「そうですね」

『どうした?』

『なんか、他の話題で締めた方が良くない?』

『“腐海”にちなんで、好きなジブリの話題、せーのにしよう』

『俺、ナウシカ』

『俺、ラピュタ一択』

『ちょっと、女の子とせーのしようと思って』

『斎藤とせーのしたら?』

『拾えないといやだから嫌だって』

『弥生ちゃんは、ジブリ、どれが好き?』

『その前にさ、藤くんがさ、弥生ちゃんがここに来れないこと、めんどくさいやつって言ったこと、謝りたいって』

『別にいいだろ』

『今日の話しのお礼に謝りたいんだって』

『大事なことだな』

「そうですか」

『どんな部屋に住んでるか、写真送って欲しいんだって』

『お礼に謝るって話しは?』

『お礼に謝る代わりに鑑定してあげたいって。あ、よかった。わらってくれた』

『斎藤の携帯に送ったら?』

『それじゃあやきもち焼いちゃうから駄目だって』

『誰が?』

『藤くんが』

『藤くんでもやきもち焼くの?』

『山口の携帯に送れる?』

「どうぞ」

『早速送られてきた』

『携帯使ってねえの?』

『今日、話しが話しなだけに、自宅に電話して、弟さんに先に断り入れてから話してるの』

『それだと迷惑じゃね?』

『迷惑より、迷惑防止』

『これ、斎藤のアイディアね』

「ありがとう」

『藤くんってことにしておいた方が良かったんじゃない』

『藤くんのこと、怖がってるから。まだ』

『思ったより女の子らしい部屋だったから、皆、びっくりしてる』

『美沙子も見ていいかって』

「全然大丈夫ですよ」

『美沙子、参考になったって』

『おまえが美沙子って呼び捨てにしないでくれる?』

『そんなことよりもっと美沙子が可愛い部屋に住めるように気、使ってやったら。今、美沙子ちゃんを呼び捨てにしたのはわざとね』

『なんで敬語になったのかって』

「うーん」

『兄貴の甲斐性試してんだって』

「そうですね」

『兄貴が歯が立たねえって』

「そうですか」

『とにかく美沙子に謝れ』

『謝るくらいなら心労かけんな』

『この前見せてくれた、小さい頃の写真、あれいつ撮ったのかって。あの写真欲しいってやつがあらわれた』

『あれって雪ちゃんしか見てないことになってるんじゃね?』

『写メ撮ってる時点でそれ、ありえなくねえ?』

『でも、広く出回ってるよ』

『出回ってねえ!』

『出回ってないから』

『なんであの写真選んだの?』

『あれってわかる?』

「私がミルクを抱きあげて、ミルクとふたりで一緒に映ってるものですよね。小さい頃の写真で他人に見せたものってそれしかないので」

『ミルクって何?』

『猫』

『あれ?あれしか見せたことないの?』

『白猫にミルクなんて誰だって付けるだろって』

『そうなんだって』

『今、保護者みたいな声』

『その写真欲しいんだって』

『物足りなくない?保護者の声として』

『大事なものだって言ってなかった?』

「それ、おじいちゃんが取ってくれた写真で唯一残っているもので」

『弥生、おじいちゃん子だったもんね』

『おじいちゃんが取ってくれた証拠ってあるの?』

「証拠というか、推測ですけれど。猫、他の家族は苦手なんですよ。うち、父方の祖父とは仲違いしていて」

『その話し何度も聞いた』

『誰に?』

『俺たちの定番』

『続けて』

「3歳までしか一緒に住んでなくて、その写真は、確実に祖父が撮ったものなんですけれど。私の映りが良かったから、とっといてあって。大切な一枚なんです。でも、ペットロスの方なんですか?」

『何が?』

「写真が欲しいという方?白猫を飼っていらしたの?お譲りしましょうか?」

『大切なものならいいけど、その写真も写真に撮って送って欲しいって』

『写真なら何枚もあるだろ』

『その写真がいいんだって。同じ猫好きとして尊重してやりたくなるんだって』

『そしたら送った方がいい』

『今きたって、写真の写真』

『ありだとうだって』

「いいえ、猫、飼いたいですよね。でも同じ子っていないし」

『その人はね、ペットロスじゃなくてね。心配しないでね。黒猫を飼っているんだって』

「へー、羨ましい」

『ジジみたいって思っただろ』

「ふふ」

『ここで、好きなジブリに話題を戻そうか』

「『魔女の宅急便』ですね」

『やっぱり』

『猫の話題、挟めて良かったね』

「そうですね」

『斎藤も「魔女の宅急便」だって。わらってくれた』

「私、『魔女の宅急便』見てから寝よう」

『DVDあるの?!』

「録画したやつですね」

『CM付きのやつか』

『お兄ちゃん、私も「魔女の宅急便」見たい』

『俺たちはツタヤに借りに行こうか』

『借りに行けばいいのか』

『こっちで、ジブリとゲームの話ししようぜ』

『弥生ちゃん、藤くんね、今日は皆と楽しく話しできそうだって。藤くんもジブリ、凄い好きなんだよ。今日は、いきなりこんな話題で、ありがとうね。解決策としては弱いけれど、ちゃんと考えるいいきっかけになったよ』

「こちらこそ、ありがとうございました。なんか、すみません」

『いいんだ』

『謝ることはねえ』

『それだけ君は安全に守られているってことが改めてわかったからね。今日は、この辺で締めるね』

「はい、おやすみなさい。ごきげんよう」

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