第12話 助けられた?のだろうか。

「は?なに、修羅場?ははっ、ウケる。そんな気色悪いもん人に見せないで欲しいんだけど」


 そんな乾いた(馬鹿にした風な)笑いを放ちながら赤茶色の髪が私とジェンキンスの横を素通りする。


 なんでエリオットがここに?!


「おまっ……エリオット!お前こそこんなところで何してるんだ?!」


「は?それこっちのセリフなんだけど。#ここ__・・__#は僕の秘密基地だし。

 ねぇ、いつまでその女の胸ぐら掴んでるわけ?それともそんなに触ってたいの?ウケるんだけど。きっしょ」


 今度こそ馬鹿にするように肩を竦めるエリオットの姿にジェンキンスは「ぐぬぬ……」と唸り声をあげて私から手を離した。


 勢い余って尻もちをついてしまったがここで「いたぁい☆」なんて口にしようものならブリザードが吹き荒れそうな予感しかしない。床に打ち付けたお尻が痛いがなんとか我慢した。でも痛い。アザにでもなったらどうしてくれるのか。


「修羅場が終わったなら早くどっか行ってくれる?それとも誰かにお迎えに来て欲しいわけ?ウケる」


「だが、彼女がこの女に気絶させられて……!」


「そんなの見てたけど、どっちかと言うとその女のおかげで自殺されずにすんだんじゃないの?自分でなんとか出来なかったくせに責任転嫁して逆切れとか恥ずかしくないわけ?ダサいんだけど」


「それはっ……!」


「兄さんが今やるべき事はそこの気絶している令嬢に気付け薬でも飲ませて起こしてから無事に帰す事と、その女に謝る事なんじゃないの?大人なのにそんなこともわからないなんて馬鹿なんじゃないの?」


 おぉー……。いつも無口でムスッとしてばかりだったエリオットがめっちゃしゃべってる。そしてジェンキンスを論破している。あのジェンキンスがぐうの音も出ないなんてすごいじゃないか。


 ゲームでのエリオットもお試しのちょこっとのプレイだけしか知らないがとにかく無口で常に機嫌が悪い。それをなんとか懐柔しようと躍起になるとヤンデレが発動すると言うとんでもボーイなのだが……。


 まさか、私を助けてくれるなんて思わなかった。もしかしてこのエリオットはイイコなのでは……?


「ねぇ、ちょっとあんた」


「へ?は、はい」


 もしかしたらゲームとは違う展開があるのかも?なんて願望に浸っていると、目の前にエリオットの不機嫌な顔が現れる。


「もしかして、僕があんたを助けたとか勘違いしてる?そのにやけ面がキモいんだけど。

 僕は僕の安息の場を荒らされたくないわけ。どうやってこの隠し場所を知ったか知らないけど、早く出てってくれる?それとも僕が手を差し出してあんたを部屋までエスコートするとか思ってんの?馬鹿なの?

 僕は跡継ぎ争いとかどうでもいいわけ。誰が侯爵になろうが関係ないわけ。だからあんたに媚を売るつもりも微塵もないから。

 それとも自分の顔と体があれば年下の僕なんか簡単に落とせるとでも思ってる?だとしたら脳みそスッカラカンだね。


 わかった?だから早くどっか行ってくれる?この年増のブス」


 と、早口に捲し立てられ、隠し扉に押し込められてしまったのだ。


「えっ、ちょっ、この扉あかな……あ、開いた」


 あの扉の鍵は開いていて、あのメイドが扉の前に置いたと思われる調度品もどかされていたのだ。


「夜遊びは感心致しませんね、エレナ様」


「っ!」


 扉の前に突っ立っていると背後から声をかけられ、びくつきながら振り向くと、そこにはいつもの裏の読めない笑顔を顔に貼り付けたリヒトが立っていたのだ。


 ーーーーいつの間にそこにいたのよ?!とか、この隠し扉なんなの?!とか、中にジェンキンスとエリオットと知らない女性が!とか……リヒトに聞きたい事や言いたい事は山ほどあったのだが……。


「……ごめんなさい。部屋に帰るわ」


 なんとなくそんな気分にもなれず、私はおとなしく自室に帰ったのだった。


「おやすみなさいませ、エレナ様」







 にっこりと執事スマイルのリヒトが何を考えているのかなんて知りもせずに。







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