第5話 もはや神の殺意しか感じない。
この乙女ゲームのヒロインであるエレナ・ミカリスは、いわゆる“不幸な過去を背負ってても前向きに生きる健気な少女”である。
ピンクゴールドの長い髪に桃色の瞳。見た目は完璧な美少女だ。
18歳になったばかりのこの美少女は、とにかく可愛い。
少し垂れ目でいつも潤んだ瞳も、なんだか儚げな雰囲気も、まさに庇護欲をそそる子犬系女子。まるで迷子か捨て犬のようにうるうると見つめればたいがいの男は虜になるという……。まさに天然の人タラシである。ヒロインの言動で勘違いした男の数は数えきれないほどだ。
親と死に別れ親類もおらず天涯孤独となったヒロインは10歳の時に孤児院に入った。
そしてその天真爛漫な性格と見た目の可愛さから「天使」と呼ばれ、それはそれは皆に可愛がられて育ったのだ。
しかし18歳の時に転機が起こり侯爵令嬢になった。周りの人間は侯爵家でもヒロインは皆に愛されて幸せになるだろうと信じて疑わなかったそうだ。
だが、実際は違った。
自分を養女にしてくれた侯爵はすでに死んでいて、家族になったはずの兄弟たちには冷たくあしらわれた。
ヒロインは生まれて初めて冷たい反応をされ、そんな侯爵家の面々に悲しくなる。財産を継承してどんなにお金があっても愛が無ければ虚しいだけだと悲しみを訴えた。
そんなときに、些細なキッカケから血の繋がらない兄弟のひとりに淡い恋心を抱くようになったヒロインはその想いを伝えようと、“真実の愛”ために奮闘するのであった。
あの女性主任曰く「不幸な過去と言うスパイスの効果も合わさってチヤホヤされるのがあまり前な人生イージーモードだと思ってるお花畑女は、どんなに可愛くても自分が敗者となる事だってあると思い知ればいい」と言う願いを込めたらしい。うん、私怨。
ここまでがストーリーのあらすじである。
ゲームが開始されると、ヒロインはあの手この手で攻略対象者に近付き、籠絡しようとする。言い方や仕草は可愛らしく表現されているがなかなかエグい方法も多かった。18禁だからね!
だが、この攻略対象者たちは正攻法では到底攻略など出来ない仕様なのである。
乙女ゲームの基本とは相手が気に入る行動や発言を繰り返し、好感度をあげていくものだ。
だが、その相手の好感度が上がる行為がこのゲームではヤバイのだ……。
私が前世の記憶を思い出したのは、侯爵家の養女になることが決まりもう逃げられなくなってからだった。
それでも逃げようと思えば逃げられたかもしれないが、私は逃げれなかった。孤児院の先生はもちろん一緒に育った仲間たちも大喜びてくれたし、なによりも侯爵家から孤児院に多額の寄付がされたからだ。
私が侯爵家の養女にならなければ寄付を返せと言われるかもしれない。それは大いに困る。それに記憶が戻ったばかりのときはまだ情報が曖昧で半分は夢のような気もしていた。
だが、だんだんと記憶はハッキリよみがえり、今となっては恐怖でしかない。
私が唯一最後までプレイ出来たサンプルルートは、長男のルーファスだ。
冷徹鉄仮面な彼はとにかく差別が酷い。ヒロインの事は「孤児院育ちのくせに」とことごとく嫌味を言ってくるし、ヒロインが何かすれば「この売女が」と罵ってくる。まぁ、他の兄弟たちも差別的な考えは似たようなところだ。
そんなルーファスにヒロインは体を張って愛を教えようとするのだが……。
ーーーールーファスは、特殊プレイでしか愛を感じられない真性の変態なのだ!しかもヒロインの事が大嫌い!
ヒロインはルーファスの好感度を上げるためにあんなことやこんなことや、これまたそんなことまでさせられ、しまいにはあんなことに……!(ガクガクブルブル)それなのに「これが真実の愛なのね」と受け入れてしまうヒロインはマジでおかしい。
しかもルーファスのお気に召さない選択をひとつでもしようものならそのまま地獄行きである。
難しかった……とにかく難しかった!
だって同じ内容のセリフなのに、言い回しが一文字違うだけで殺されるんだよ!しかもプレイし直したらまた違うセリフの選択肢がランダムで出てきて……絶望した!そして何回も何回も惨殺されて……やっとクリアしたら結局は心の壊れた廃人ってなんなんだぁぁぁ!!?マジでホラーだよ!ホラーゲームだと思ったら面白かったけどね!?
ナシナシ!こんな結末のルートを選ぶなんて絶対ナシーーーーーー!
それでもゲームだから楽しめていたわけで……。
それが現実になるなんて夢も希望もないじゃないかっ!
サンプルルートですらそれなのだ。他のルートなんてもう最悪な未来しか見えない。
だから攻略対象者を避けつつ、素早く隠しルートを発見してなんとか生き延びようとしているのに…………。
なんで私は、早速ルーファスに押し倒されているんだ??!まだ誰のルートも選んでないはずでしょーーーー?!
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