2-20 雪月花荘の殺人 4
玄関で、W大の三人と奥原・露桐の両先輩、それに剣持と真子らの一行に出
くわした。みんな、スキー板を担いでいる。泊出と真子は雪まみれだ。
「あ、スキーしてたんですか?」
「うん。向こうの方に、なだらかな坂があってね。遊ぶ分には仲々だよ」
奥原さんが言った。
「滑る分には、さっぱりだけどな。坂を昇るのに疲れるばかりで」
これは、砂原さんが言った。
「やっぱり、人混みのいる中、その合間を縫って、さあっと滑り抜けるのが快
感だもんな」
これは有間さん。どちらも、裏で自分のスキーの腕を自慢しているのが見え
隠れしている。と考えるのは、うがった見方かしら。
「あれ、部長他数名は?」
「こもったまま。疲れているだの、運動は苦手だの、本を読んでいるだの、何
のためにここに来たのか分からない連中ばっか」
露桐さんが肩をすくめる。どれが誰のことなのか、何となく分かるわ。
「おまえらは滑らないのか。道具なら砂原さんが貸してくれるから」
有間さんが言った。相変わらず、傲慢ね。ほんと、「さん」付けしたくない
なあ。
「今日は遠慮します。ね?」
あたしはミエの方を向いた。
「ええ。今日は景色だけで充分です。明日から滑ります」
「そうか。腕前、楽しみにしてるよ」
口元ににやり笑いを浮かべる有間さん。勝手にやってなさいと、あたしは心
で舌を出す。
「早く入ろう! 濡れて寒いんだから」
泊出が大声を出した。震える格好をしているみたいだけど、本当に寒いのか
もしれない。
「あ、そりゃ気が付かなかった。俺、転ばなかったから」
砂原さんが言うと、泊出はそれを小突くようにして中に入ろうとした。つき
合い切れなくなってきたので、あたしとミエが、「お先に」となる。
「あ、先輩。どうでした、外?」
あたし達を見つけた孔雀が、駆け寄って来た。
「どうって、スキーしてたんじゃないから」
「そうじゃなくて、寒さのことですよぉ」
「寒さ? そうね、景色は寒いけど、気温そのものはさほど変わんないみたい。
今日だけかもしんないけどね」
あたしが言うと、孔雀はそれでも寒そうにした。
「あーあ、来ない方がよかったかしら、やっぱり。あたし、寒いのだめなんで
すよ。動きたくなーい」
「それで引っ込んでる訳ね。何してたの?」
「最初は一人でテレビ見てたんですけど、退屈だったから、本を読んでた本谷
君や網川先輩を引っ張り込んでトランプを」
「部長は?」
「寝不足で頭が痛いって、今はお部屋で横になっているはずです。特急の中で
よく眠れなかったみたいです」
「そうなの。三人じゃつまらないでしょ。あたし達も入ろうか」
あたしが言うと、ミエも同意した。でも、トランプはやめて、ウノをするこ
とになった。
盛り上がっていたら、スキーからのご帰還組からも、泊出と剣持、真子の三
人が加わって、さらに桜井君とマキも加わり大盛り上がり。
「砂原さん達は?」
ミエが泊出に聞いた。
「最初から約束してたみたいで、そちらの副部長さんと露桐さんを加えて、麻
雀だって。ところで、とーかいさんは?」
「とーかい? ああ、部長ね。寝不足だったんで、まだ眠ってるみたい」
W大の連中、東海部長を「とうみ」じゃなくて、「とーかい」って呼んでる
みたい。ま、そう読まれても仕方ない字だけどね。
そうこうしている内に時間が経つ。そろそろ夕食の準備にかからなくちゃい
けない。最初の夜は、砂原さんが言っていたように、「パーティ」の様にしな
くちゃならないそうだから、昼間と似たような感じになる。出来合か自分で作
るかの違いかな。
大きな冷蔵庫の前でごとごとやっていたら、玄関の方が騒がしくなった。何
か届いたみたい。
「まだ早いんじゃないっすか?」
「いや、大丈夫だ」
そんな声が聞こえる。
徐々に料理ができあがって、食堂に運んでみると、思わずあっと言ってしま
った。
「氷柱花!」
真子と泊出が歓声を上げる。色とりどりの花、ダリアにツバキにスイートピ
ー、アマリリスにオニユリにボタン、他にも名前を知らない花がいっぱい、氷
に包まれている。そうか、さっき運ばれてたのは、これだったのね。
「氷そのものも、何かの彫刻なのね」
孔雀の言う通り、氷は人魚や女神、半人半馬、杯、冠といった形に削られて
いるのが多い。本当の意味で氷柱なのは、あまりないみたい。
「ちょっとしたもんだろ?」
砂原さんが声をかけてきた。ん、まあ、ちょっとしたもんだわ。
「なめてみたら分かるけど、その氷は塩水でできてんだよ。少しでも氷を頑丈
にするために」
「へえ」
感心はしてみたが、塩水にするとどうして頑丈になるのかが分からない。溶
ける温度が変わるのかしら。
「これで準備完了」
後ろでマキとミエの声がした。すっかり、運ばせちゃったみたい。
夕食は和やかで楽しい雰囲気の中にも、どこか空虚なとこがあった。やっぱ
り、パーティ形式は日本人には似合わないみたい。
大方、食べ終わった時点で、ゲームに移行。ゲームと言っても食後に運動す
る訳もないから、頭の体操的なことをやる。
「最初は、TKGDTDTTKGDTYIYI」
と言いながら、有間さんが用意されたホワイトボードに、同じ英文字を書き
始めた。一応、説明すると、某バラエティ番組ではやり出したクイズで、この
文字列が何を表しているかって訳。
それにしても、TKG……? TDKなら分かるんだけど。
「歌ですか?」
泊出の声が飛んだ。
「ああ。誰でも知ってる歌だと思うな」
「あ、分かったかもしれない」
小声で言ったのは、ウチの剣持。早いんだから。
「へぇ? じゃ、紙に書いて僕に見せて」
有間さんに言われるまま、剣持は紙にペンを走らせると、出題者に見せた。
「ちぇ、正解だよ。こうも簡単に当てられるとは」
「よしっ!」
ガッツポーズする剣持。切れ長の目でやると、テレビ目線みたいよ。
「さあ、次は?」
「他にヒント、下さいよ」
孔雀が言った。
「そうだな。歌謡曲とかそんなんじゃない。昔から日本にある歌だよ。な、剣
持君?」
「そうですね」
答を知ってる者が二人して、楽しがってる。と、思ったら、
「あ、分かった」
「分かった」
「分かった」
と、三人の声が重なった。早い者勝ちのようにして、その三人――ミエ、奥
原副部長、本谷が紙のところに走る。
「はい、みんな正解です」
「よかったぁ」
ミエが大きく息を漏らしてる。
それにしても分かんないわね。えっと、母音はそのまま読むしかないんだか
ら、後ろのYIYIはYいYいよね。Yはや・ゆ・よのどれかだから、ヤイヤ
イ、ユイユイ、ヨイヨイ……。ヨイヨイ?
「分かったわ!」
思わず、大きな声になっちゃたけど、やっぱり嬉しい。
あたしは急いで紙に答を書いた。
(つきがでたでたつきがでたよいよい)
「そうそう」
有間さんがうなずいた。いつもは嫌な笑顔だけど、このときばかりはありが
たく思えてくるから不思議。さあ、恐いものなしだわ。
「部長、まだ分かんないんですかー?」
なんて野次を飛ばす。しばらくすると、桜井君が正解した。ついで露桐先輩、
マキ、砂原さんの順に分かったようだ。部長は不調みたい。
ついには答の分かった者全員で、メロディを口ずさみ始める。取り残され組
もそれでようやく分かったか、一気に紙に殺到した。
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