第11話 お別れ(やくそく)
いつもより活気溢れるロードランド騎士団の訓練場。自警団の創設に伴い貧民街から集められた若者たちが、今日から騎士団の指導を受けるようになったのだ。
ダメ元で父上に上告書を提出してみたが、まさか二日で団員集めまで終わらせるとは驚いた。さすが父上、有能過ぎて跡取りとしてプレッシャー半端ない。父上のように上手くロードランド領を治められるだろうかと不安になる。
まあ、先のことを考えても仕方がないか。
俺たちが訓練場に立ち寄ると、エバンズから指導を受けていた二人の少年が俺の姿を見つけて駆け寄ってきた。
兄のエドガーと、弟のアラン。ニーナとアリシアを誘拐しようとした二人だ。
「レイン様! 本当にありがとうございます! オレたち、レイン様に何とお礼を言えばいいか……。母さん、薬を飲んで少し元気になったんです! レイン様のおかげです!」
「ありがとうございます、レイン様! ボクたち、レイン様に忠誠を誓います!」
「いや、そんな大げさな……」
エドガーとアランは土下座しかねない勢いで頭を下げて俺に感謝の気持ちを伝えてくれる。俺はただ職を斡旋してあげただけで、まだまだ貧民街の格差問題を完全に解決できたわけじゃない。それでもまあ、感謝されて悪い気はしないな。
ちなみに二人がアリシアとニーナを誘拐しようとしたのは秘密だ。言えば間違いなく罪に問われてしまう。
「ふんっ!」
アリシアは不満そうだが黙ってくれている。きっと口外してしまえば二人が罪に問われるのを理解しているのだろう。第一印象よりずっと賢くて優しい子だと、この一週間で知ることができた。
「ヒヨッコども! サボってねぇで訓練に戻れ!」
「「は、はいっ!」」
エバンズに怒られてエドガーとアランの二人は訓練に戻っていった。代わってこちらに来たエバンズを俺は労う。
「すまないな、エバンズ。面倒な役を引き受けさせてしまった」
「なんの! なかなか筋の良い奴が多くて団員たちの刺激にもなってますぜ。特にさっきの二人、ナルカには負けますが良い剣士になるでしょうよ。きっと近い将来、坊ちゃんの力になるはずです」
「そうか、それは楽しみだな」
エバンズがそうまで言うってことは、それだけ見込みがあるんだろう。
「……負けない」
隣でナルカがこっそり対抗意識を燃やしているが、さすがにナルカほど強くなることはないだろうから心配しなくても良いと思う。
たまにナルカと剣の稽古をしているのだが、相手が俺のせいかナルカのステータスが異様に伸びているのだ。おそらく近い将来、エバンズを抜いてロードランド騎士団最強となるだろう。末恐ろしい子だ。
「そういや、アリシア嬢は今日で王都に戻られるんでしたな。一週間こっちに居られてどうでしたか? なかなか悪い所でもなかったでしょう?」
「ふんっ! こんなへんきょうからようやくおうとにもどれてせいせいするわよ!」
「なんて言いながら、屋敷のみんなにお別れがしたいって言うから一緒に回ってあげてる最中なんだ」
「んなぁっ! いわないってやくそくしたのにぃ~っ!」
ポカポカと叩いてくるアリシア。騎士団の訓練場に立ち寄ったのも、アリシアのお別れの挨拶回りの途中だった。アリシアとシルヴァ様がロードランド家に来て一週間。予定の滞在期間が過ぎ、お別れの時が近づいている。
エバンズを始めとする騎士団の面々とお別れを済ませて屋敷の屋内に戻ると、ちょうどエントランスで父上たちとシルヴァ様が立ち話をしている所だった。
話はもうまとまっていたようで、父上たちは戻ってきた俺たちを出迎えてくれる。
「屋敷の者たちへの挨拶は済んだのであるな、アリシア」
「はい、おとーさま……」
アリシアは元気なく頷くと、シルヴァ様の元へ歩いて行って足にギュッと抱き着く。
「娘の面倒を見てくれてありがとう、レイン君」
「いえ、お礼ならニーナに言ってあげてください」
ニーナが居なければきっと、こんなにもアリシアと仲良くはなれなかったと思う。アリシアも俺たちに心を開いてはくれなかっただろう。
「そうか。娘と仲良くしてくれてありがとう、ニーナちゃん」
「ぅ……」
ニーナは俺の後ろに隠れて小さく頷く。人見知りで恥ずかしそうというよりは、アリシアと同じく元気がなかった。きっと別れの時が近づいているのをニーナなりに理解しているのだ。
「シルヴァ、例の件をアリアに相談しておいてくれ」
「うむ。必ずや良い人材を見つけ出すと約束しよう」
父上とシルヴァ様が言葉を交わすが、なんの話だろう。アリアとは、父上たちの共通の知り合いだろうか。
「それでは世話になったな、カシム。今度はそちらが王都へ来るのを楽しみにしているぞ」
「ああ、その時は宜しく頼む」
屋敷の外へ待機していた馬車に乗り込むシルヴァ様。アリシアも続いて乗り込もうとしたその時、
「アリシアさまぁっ!」
ニーナがアリシアを呼び止めた。
「ばいばい、ニーナ。またあいましょ!」
「うんっ! やくそくっ、やくそくだよっ!」
ギュッと抱き合った二人は「うわぁーん!」と涙を流しながら大泣きする。そんな二人に母上や使用人たちまでもらい泣きしていた。
こうしてアリシアはシルヴァ様とともに王都へと帰っていった。
次はいつ会えるだろうか。
……そうだ、手紙を書こう。ニーナにも読み書きを教えて、二人分の手紙を送るのだ。そうすればきっと、離れている寂しさを少しは紛らわせてくれるはずだから。
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