第14話

「………」

「………」






 残されて。しい………史季と。



 気まずい空気が流れて、お互いにせーのみたいに顔を背けた。






 教室にはもう誰も居なくて、ふたりになるのはあの日以来。






「オレ、ひとりで帰れるから」






 沈黙を破ったのはしいだった。






 小さい身体にデカくて重い学校指定のリュックを背負う。



 ひょこって、足を引きずりながら俺の前を行く。






 学校から家までは15分ぐらい。



 ものすごい遠いってわけでもなければ、近いってわけでもない距離。






 足。






 骨には異常ない。捻挫。また病院に行くって言ってた。誰かに。盗み聞きした情報。






 引きずってるってことは、痛いんだろう。



 そんな足で15分?いや、もっとかかるだろ。



 重いリュックを背負って。ちっこい身体で。






 手が。思わず。






「………っ」







 出た。



 しいの肩をつかんだ。本当に思わず。



 びっくりしたしいが俺を見上げる。泣きそうな顔で。






 その顔に、どきって、した。






 ………かわいい。






 って、いやいやいや。



 かわいいじゃねぇ、どきっじゃねぇ、見惚れてるんじゃねぇ、俺。相手はしいだ。史きただ。



 ってか肩つかんでるけどどうすんだよ?






 自分に色々びっくりして、動揺。え、どうすんの。






「………」

「………」






 見つめあって、またしばしの沈黙。






 昔と変わらないくりんくりんの目が、うるうると俺を見てる。






 ………これで女じゃねぇって、どうなってんだ。






 しいが………史季が、続く沈黙に耐えられなくなったみたいに目をそらした。






「リュック貸せ」

「………いいよ」

「いいから貸せ」

「………いいってば」

「じゃあ、おんぶするか?」

「………え?」






 おんぶ、で、また俺を見る。



 だから、んってしいに背中を向けた。






「………だから、いいって」






 めげる。



 しいの頑なな受け取り拒否に、心が折れる。



 けど。






 何とか。



 何とか。






 全部俺のせいだって、思うから。ごめんって思ってるから。



 そんでもって。






「信にぶっ飛ばされんのはごめんだ」






 言ったら。



 あ、って。






 どきん。






「そうだね。ぶっ飛ばされるね」






 ふわん。






 しいが、目を伏せて笑った。






 どきん。






 ………やめろ。



 お前の顔が、好み100%すぎるわ。






「じゃあ、リュックお願いします」

「………ん」






 俺は、しいにどきんってしたのを隠すようひたすらぶっきらぼうに、しいのリュックを受け取った。

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