なんでもない話

フカ

はせがわさん

 チャイムが鳴る、ここはコンビニ。青と緑のさわやかなロゴのコンビニだ。

 今日も、はせがわさんがいらっしゃいませ、とつぶやきながら揚げた鶏肉をトングで掴み、銀のトレーに並べている。はせがわさんは豪気だから、チキンの端はきっちり揃っていない。

 彼女は眼鏡で黒髪で、それを後ろでひとつにくくって、左耳の後ろに般若がいる。薄墨みたいな霞んだ黒で、耳殻に彫られたデフォルメ般若は今日も変わらずニヤニヤしていた。

 さっきのチャイムのお客がレジに来る。

 はせがわさんはわざとゆっくり揚げ物ケースの扉を閉めるので、私がカウンタに立った。コーヒー、だけしか言わない客にレギュラーですか?と返した。うなづく。カップなんかさっさとセルフにしてバリスタの横に置けばいいのにと思う。

 恥ずかしがりやのお客がはけて、賑やかにコーヒーが抽出されはじめると、はせがわさんが舌打ちをした。振り向くと、ウインクされた。愉快な人なんだよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る