1章 5話 蜂と羊と馬5
「……メイク?何を作るんだ?」
この国にはメイクという言葉自体存在しないので「作る」の意味合いでしか使われない。
「私の世界……いえ国では、お化粧という文化があり、顔に色を乗せ美しく見せる道具が豊富にあったんです。その中にはファンデーションという肌を綺麗に見せる顔に塗るクリームもあって、王女の顔の痣を消す事も出来るかも知れません。
そしてそのお化粧を施す行為をメイクアップ、メイクと呼んだのです」
「で、メイクの道具を作れたとしてだ。別にあのお姫様はメイクがしたいとも、顔のアザを隠したいとも言ってないだろ?」
「でもベールで隠していて、見られたがって居ないのは事実です。ならば交渉する価値はあると思います」
確信し切っているサナの言葉に気圧されたが、科学者にも打開策が浮かんでいる訳では無い。
「まぁ、このままここに居ても処刑されるか、老衰するだけだろうし……わかったよ」
覇気のない承諾だったが、今のサナには何よりも心強い言葉だった。
翌日朝食を運んで来たカタリナに、王女に交渉をしたいからどうにか会うチャンスを得られないか相談した。
カタリナは上の人間に話してみると承諾してくれた。
昼頃、昼食を運んで来た時にカタリナが、上の人が王女に取り合ってくれると承諾してくれたらしい。
「正直、私達も無理矢理連れてこられて労働させられている立場だから、貴方達に同情する気持ちもあるし、王女をよく思っている人は誰も居ないから交渉には協力はしてくれると思う」
日が落ちかけた頃、執事と思しき男性が1人牢獄に現れた。
サナの監獄の前で立ち止まると
「謁見を希望しているのは貴方ですか?」
「はい」
「大変申し上げ憎いですが、今より立場が悪くなる可能性もありますが、それでも望みますか?」
と淡々と述べられた。
この老紳士は直接的な表現は避けてくれているのだろうけど、即座に処刑される可能性があるという事なのだろう。
恐怖が全くない訳では無いけれど、それでも今この状況を打開出来る可能性が少しでもあるのなら、断念する選択肢は端からなかった。
科学者の男の牢獄の前を通った時、彼は柵に近付いた
広間で一応会っては居たが、しっかりと顔を見るのは初めてだった。
猫背で気だるそうな雰囲気だが、長めの前髪から覗く目は何事も見透かせるかのように澄んでいたいた。
「俺も一緒に行く」
「でも…貴方だって危険なんですよ?」
「作るのは俺なんだろ?なら責任もリスクも成果も2人で背負うべきだ。違うか?」
ずっと非協力的な態度だった彼だが、やる気がない訳では無いのだと、今更ながら気付く。
「俺は出来ない事、俺じゃなくていい事に自ら首を突っ込んだりしない。でも俺がやれて、俺しか出来なくて、俺が自らの意思で引き受けた事なら責任はしっかり持つつもりだ」
彼は檻の隙間からしっかりサナを見据えて付け加える
「これはその責任の始まりだと思う」
老紳士はサナに目配せすると、鍵の束を取り出し科学者の檻も開けた。
科学者は色が白く骨張った手を差し出し
「ユリウスだ」
サナはその手を握り返し
「サナです」
その握手から
2人の協力関係が始まった。
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