ゴミ溜めに咲く一輪の花

彩霞

第1話 ゴミ溜めに住む、ゼラ

 ゼラ。

 それはゴミ溜めに住む、一人の女性の名である。


 ゼラがゴミ溜めに住むのは、お金がないからというわけではない。


 ……いや、確かにお金はないのだろう。彼女はみすぼらしい恰好をしていて、いつも生地がすり減ったデニムのパンツに、薄汚れたTシャツ、その上に穴の開いたジャケットを羽織っている。


 そんな彼女がゴミ溜めで生活をし、その中から何か使えそうなものを持って行って売り払っているため、お金にしているのだろうと思われた。


 だが、彼女の目的はお金をかせぐためはなかった。


 ゼラがゴミ溜めに住むのは、人々が捨てたものをきちんと分別してしかるべきところに捨てるため。そして、使えなくなった家電製品を修理して再び使えるようにするためなのである。


 彼女は自分のお金をとうじてごみ袋を買ったり、修理したり、分解して分別したりするための道具を買っているため、お金がなかった。


 ゼラはいつでも、ゴミのことばかり考えていて、それを処理するためにはどうすればいいのか考えながら、黙々と作業をしていた。


 ゼラがゴミ溜めに住むようになったのは、どれくらい前からなのか。


 それは、近所に住んでいる町の人にも分からないことだった。

 彼女がいるゴミ溜めは、町の中心地から離れている上に、周囲の家々とも距離が離れている場所にある。ただこの場所は、最初からゴミ溜めだったわけではない。


 ゴミが溜まる前は、農地だったが、作物を育てるのをやめてしまったため、人の手が入らなくなり、草が地面をおおっていたのである。


 するとあるときから、壊れた家電製品や生ごみをここに捨てていく人々が現れるようになった。どうやら地主が廃棄業者に売ったようで、この場所はあっという間にゴミの山になってしまったのである。


 町の人は困っていた。

 自分たちが住む一角が、無秩序にゴミがどんどん溜まっていくのはとても耐えられない。でも、自分たちも手を付けるのは難しい。行政に言ったが、彼らも法律があるためにどうしようもないと、全くもってことが解決しなかった。


 そんなときである。

 ゼラという女性が現れた。


 ぼざぼざとした長髪で顔を隠し、みすぼらしい恰好かっこうをした彼女は、そこに住み、黙々とゴミを片付け始めた。そして、使えなくなった家電製品を修理した。中には本当にどうにもならないものもあって、そういうものは解体して、きちんと分別して廃棄していたのである。


 それを知った近所の人たちは、少しずつゼラと関わるようになっていった。

 

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