11【意識していること】私が「感想を書くのが大変だ」と思う作品

 lagerさんから質問をいただきました! ありがとうございます!


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 フィンディルさんが、『この作品は感想書くの難しいな』と思うのはどういう作品ですか?

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(以上引用)



 「難しい」の定義にもよるのですが、「難易度が高い」「感想執筆の成功が危うい」という「難しい」ならば、これまでの経験上で難しい作品はありませんでした。

 「これ感想書けないわ」「感想が浮かばないわ」「私の語彙力では伝えられないわ」と思った経験は、今までで一度もありません。

 品質の高い作品などで「これは生半可な気持ちでは書けなさそうだぞ」と思うことはよくありますが、それはギアの入れ方の話であって「難しい」とは違うだろうと思います。腕がポロンポロン♪するのは楽しいことですし。


 他方、「難しい」の定義が「これは骨が折れそうだわ」「書くのが大変だわ」という「難しい」ならば、あります。

 ですのでそういう意味で「難しい」作品を一種、ここで紹介したいと思います。



 緻密さを売りにしているが、緻密さが不足している作品。

 これですね。この作品を読んだときに「これは骨が折れそうだわ」「書くのが大変だわ」と思います。書けますし書きますけど、実は技術と気力を総動員しています。

 心理戦・陰謀・政争などを扱うことで内容が入り組んで複雑、にもかかわらず緻密さが不足している作品です。



 話を変えますが、質の高い感想を書くコツのひとつに「一通り持った解釈だけでは処理しきれない場面・文を見逃さない」があります。

 読者は一読目で、作品への一通りの解釈を得ます。こういう作品なんだと。

 しかし多くの作品には、その一通りの解釈だけでは処理できない場面や文があります。腑に落ちない要素があるんですね。

 これを見逃さずに「どういうことだろう」「どういう意味だろう」と考えるのが、質の高い感想を書く基本的なコツです。

 ここを見逃してしまったり気に留めなかったりすると、作品内容への理解の浅い凡庸な感想で終わってしまいます。言葉遣いだけそれっぽいのに内容は凡庸な感想、たくさんあります。おそらく作品内容への理解を早々に切りあげてしまっているのでしょう。

 一通りの解釈だけで質の良い感想が書けることはあんまりありません。


 そして「一通り持った解釈だけでは処理しきれない場面・文」を見つけたら、(指摘ありの感想を書く作家論の)感想筆者は二択を迫られます。

 「作者の意図やこだわりが存在する」「作者が力を入れている」「作者が思考を通している」のか「作者の意図やこだわりが存在しない」「作者が油断している」「作者が思考を通していない」のか、この二択を迫られます。なおテクスト論の感想筆者はこの二択は考えなくていいです。

 前者であると判断した場合、感想筆者は作品理解を深めます。深めた解釈で感想内容をアップグレードします。なおそこに作者の意図やこだわりがあるからといって、褒めるとはかぎりません。褒めが生まれるかもしれませんし指摘が生まれるかもしれませんし、生まれた褒めから指摘が生まれるかもしれません。

 後者であると判断した場合、感想筆者は作品理解に含めません。代わりに指摘対象にリストアップし、どういった指摘にするのかを精査します。ただの油断で終わるならスルーする場合もありますが、作品理解を阻害していたり魅力の蓋になりうるのならば指摘がなされるでしょう。

 この二択ですが、精度の高さが要求されます。原則、二択を間違えることは許されません。正しい選択をしたあとでどういう褒め・指摘にするのかでも感想品質は左右されますが、まず大事なのがこの二択を間違えないことです。

 作家論の感想筆者がこの二択を間違えてしまうと、小説作者は「この感想筆者は自作を深く理解していない、的外れな解釈や指摘をしている」と思ってしまいます。感想の満足度に直結します。

 そのため私は、この二択のチョイスに神経を注ぎます。技術を総動員して「一通り持った解釈だけでは処理しきれない場面・文」に、作者が想定する意味があるのか・ないのかを吟味します。


 さらにこの二択ですが、できることなら「作者の意図やこだわりが存在する」選択をしたいという気持ちがあります。

 やはり、できるだけ作品要素は肯定的に消化したい、できるだけ作品は面白く見たいという気持ちがありますから。この気持ちがないとどうしようもない感想にしかなりません。

 「作者の意図やこだわりが存在する」は作品理解を深めてより作品を面白く消化する動機となる選択なので、できるかぎりこちらの選択をしたいと考えます。

 しかし実際問題、作品理解を阻害していたり魅力の蓋になっていたのなら、「作者の意図やこだわりが存在しない」という選択をしなければなりません。好意的に見るあまり二択を間違えてしまってはいけない。

 この選択には感想筆者として精神的負担がかかります。「作者の意図やこだわりが存在しない」を選択するということは、「自分はきちんと理解している。これは作品側の不備だ」を宣言するに等しいものです。指摘を突きつけるものです。二択を外したときのリスクが高い。勇気と精査が求められます。

 二択をすること自体に神経を注ぐのですが、さらに「作者の意図やこだわりが存在しない」の選択には神経を注ぎます。



 ここで話を戻します。

 「緻密さを売りにしているが、緻密さが不足している作品」に感想を書くのがどうして大変なのか。

 まず、「一通り持った解釈だけでは処理しきれない場面・文」が大量に出てきます。

 緻密さが不足しているので、理屈の通らない場面・文がたくさん出てきます。これをひとつひとつ拾いあげる。

 「一通り持った解釈だけでは処理しきれない場面・文」が出てきたら感想筆者は二択を迫られます。神経を注いで慎重に二択を行う。

 そしてこの二択、緻密さが不足しているのですから、「作者の意図やこだわりが存在しない」選択を大量に行うことになります。勇気と精査が必要。

 だから大変なんですよね。

 「一通り持った解釈だけでは処理しきれない場面・文」をひとつひとつ拾いあげ、ひとつひとつに慎重に二択を行い、勇気が必要な「作者の意図やこだわりが存在しない」選択を大量に行う。

 技術と神経と勇気を求められる作業が大量に要請される。

 これがもう頭が疲れちゃうんですよね。何本もコードがある時限爆弾を慎重に解除していく気持ち。


 とどめなのですが、実はこの一連の作業にはあんまりやりがいがないのです。

 「細かいところ気をつけないといけないな」ぐらいしか作者さんは思ってくれませんので。

 作業内容が膨大であること自体が「大変」というよりも、コスパ最悪なのが「大変」なのかもしれませんね。


 大変なんです。でも私はやるんです。「よっしゃ!」と気合を入れて取り組んでます。それもフィン感の価値のひとつだと思っていますので。すごいわ! 何てすごいの! すごーい! 頑張ってるー!



 ということで『この作品は感想書くの難しいな』と私が思う作品でした。

 余談ですが上記の二択のチョイスの仕方にはコツがあります。このコツを使えば精度高く正しい選択ができます。

 さらにさきほど「二択を間違えることは許されない」と話しましたが、このコツを使えば二択を間違えても小説作者が満足する感想になる場合がありますし、二択を間違えたこと自体が指摘となる場合もあります。

 そのコツは今回は内緒です。また別の機会にお話しできればと思います。




 ちなみに「難しい」以外ではまだいくつかあります。


 まずは「感想が書けるかどうか不安」な作品。

 まだその作品に当たったことがないので「難しい」と確かなわけではないが、「難しい」かもしれないと不安に思っている作品。

 これが真南の作品です。作品の方角についてご存知ない方は、私の近況ノートをチェックしてみてください。

 正直なところを言うと、真南の作品については感想のビジョンが浮かんでいません。西・北・東はばっちり浮かんでいるのですが、南だけは実際に来てみないとわからないという段階でして、不安です。

 南西や南東などに振れてくれれば、感想のビジョンは浮かぶのですが真南だけはまだ。まだ一作も来たことがないので、不安だけを抱いています。


 次に「これは無理です」な作品。「これが来たら難しいとかじゃなくて、無理です無理」な、私の明確な弱点ですね。

 これが文芸作品のオマージュです。まず間違いなく私は気づきません。

 私は文芸知識に疎いんですよね。皆さんよりもずっと疎い。なので「作中でオマージュ元に触れている」「後書きや前書きでオマージュ元に触れている」「読者とのやりとりでオマージュ元に触れている」などがないと、間違いなく気づきません。怪しかったら一応検索かけてみてますけど、自然なオマージュは気づかないことに自信があります。

 オマージュ元を教えてくれれば、いくらでもやりようがありますけどね(まあオマージュ元の読破を要請されたらお断りしますけど)。またそのオマージュが作品の細部であってもさして影響ないでしょう。

 仮に「本作はとある作品のオマージュが根幹のコンセプトです。当ててみてください」とか前書きに書かれていたら、感想執筆をお断りしちゃうかもしれませんね。白旗ぶんぶん丸です。



 lagerさん質問ありがとうございました!

 まだまだ質問募集しています!

 https://kakuyomu.jp/works/16816700428800304108/episodes/16816927859140869488

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