第28話 自称イケボ
私は仮面というものを忌避している。
その昔まだ小学校に上がるかどうかくらい小さかった頃に夕方のワイドショーで持ち主が次々に不自然に死ぬ呪いの仮面、という特集を見たことに起因しているのかもしれない。幼かった私はそんなどこにあるかもわからない少々気味の悪いだけの仮面をひどく恐れた。その数年後、父親が同僚にどこかからのお土産としてもらってきたお土産を魔除けだなどと言って部屋に飾りだしたのだが、夜暗い中でみるとそれがどうしようもなく恐ろしいもののように感じられたことも私の仮面嫌いに拍車をかけたかもしれない。あの仮面はどうしたのだっただろうか、とっくに捨ててしまったのかもしれない。とにかく気が付いた頃には私は仮面というものを酷く嫌う様になっていた。
そして現在、私は仮面を付けた男に詰め寄られている。やたらと息の漏れた声で話す自らを格好いい声だなどと称しているこの男にだ。漫画やアニメなどの創作物の中では仮面を付けたキャラクターの素顔は美男美女であることは非常に多い。しかし現実においてはどうだろう。顔を隠し自称イケボを強調しようとするこの男の仮面の下ははさぞかし醜い面なのだろうと心の中で毒突く。だが残念ながら今の私はそれを口に出せる状況にはない。人気のない場所で仮面をかぶった思いっきり怪しい男と二人きり、取り敢えず刺激はしない方がいいだろう。
しばらく私のことを見つめていた仮面男は唐突に仮面を外し、一気に捲し立てる。
「俺はお前の双子の兄だ。訳あって全く別の場所で生まれ育った。今は人類仮面被り推奨委員会として活動している。お前の力が必要なのだ。」
彼の非常識極まり無い話を聞き流しながらも、その黒目がちの大きな目や、縦長の顔の輪郭、鼻の形など毎日嫌でも見る私の顔にどことなく似ているのが目に入り、遺憾ながら私はこの男が兄であることを受け入れ始めている。彼の顔の造形が美しいかはさておき創作物でのもう一つの鉄板、仮面の下は生き別れの親、兄弟のパターンだったか、とどこか冷静に考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます