コトノハの詩

御餅

第1話 音楽がほほ笑んだ出会い

 僕は音楽は好きだ、それは紛れもない事実でそれは何よりも僕の生活に刺激を与えてくれる数少ないものである。しかし、そんな音楽はきっと僕のことは嫌いなんだと思う。他人の音楽を聴く分には何も言わないが僕自身が音楽を奏でたり、歌ったりすると途端にそっぽを向く。

 自分で言うのもなんだが技術はそれなりだとは思う。問題はそれを一緒にやるメンバーの方であり、そちらのめぐりあわせはどうも悪い。高校から軽音楽部に所属しバンドが解散した事4回、理由はそれぞれよく言う音楽性の違いみたいのからやれこいつが嫌いだからとかの人間関係、バンド内恋愛、練習してこないなどなど言い出すきりがない。

 ちなみに高校の最後のライブは一人で出るという軽音楽部としては前代未聞の事が起きた事はまたの機会に話せたら話すことにしよう。なので大学ではしっかり長く続けていきたいと思っていた・・・。うん、もう大体わかってるよね、そう僕はまた音楽の神に見放されたらしい。でも今回は過去最長の一年続いたんだから誉めてほしいな。もう一人で音楽をすればと思うかもしれない、けどね僕は誰かと音楽を奏で合うことが音楽の一番の喜び楽しさだと思から何としてこの思いだけは理解されてほしいと思ってる。

 てな事を電車の中でスマホをいじりながら考えているあたりそろそろ重症かもしれない。しかし流石に今回の解散は堪える。どうやら今回の原因は僕にあるらし。僕はバンドでリードギターとコーラスをしており、ちなみに曲も僕が基本的には作っている。最初こそやれ「曲作れるの! すげー!」ともてはやされたが、そのうち僕にそれを任せきりにするくせに文句を言い出す始末。それを無視した結果今回の解散になったわけだが・・・僕も多少悪かったとも思うがあいつらもあいつらだろう。

 僕は最寄り駅で電車を降りるといつも通りの帰宅ルートで家に向かう。今日のことは忘れてさっさと寝てしまおうと考えながら駅から街に降りる階段を目指して連絡路を歩いていると音が聞こえる。どうやら路上ライブをしているらしい。観客も一人、二人と言ったところだろうか。そんな事はどうでもいい今日はそんな雑音を聴く余裕なんて僕にはないんだと思いながら通り過ぎようとした時初めてのことが起きた。脳と体が別々の事をし始めたのである。脳は帰れと、体は止まれと。

 その声は透き通る歌声だった。小さい体でアコースティック・ギターを弾いているからその姿はとてもちぐはぐ、でもかわいらしくてなにより「音楽が大好き!」そういう顔をしていた。


♪♪♪


誰もいない場所で キミのことを考えてみた


それを知ったら 気持ち悪いと思うかもだけど


それくらいに 僕は キミが好きなんだ。




なんとなく過ぎる時間の中で 僕はキミのことを探してたのかもね


キミはどうなの? そんな事ないの? 少し不安だよ




キミと見た星は綺麗だったね キミと見た空は何色だったけ?


もう一度と願っても 戻っては来ない時間


キミと見た海は美しかったね キミと見たアレは何だっけ?


もう思い出せないや キミと歩いた日々の時間


~~~~

 ストレートな歌詞、お世辞でもいい曲とも言い難い陳腐な音が並ぶフレーズでもなぜか引き付けられた、そんな自由に楽しそうに歌う彼女に嫉妬していた。それはそうだ、くやしいに決まってるこんなの一人でこんなに楽しそうなのに僕はなんで上手くいかないんだって。音楽は僕に対して残酷だな・・・僕はワンコーラスを聞いた時点でその場を後にした。


 次の日、講義室にて今日は一限から入っているのでただいま目をこすりながら講義を聞いている。正直眠たいので寝てしまいたいが、寝てるのがバレると出席が貰えないためここは我慢する。出席さえもらえればこの授業はテストも簡単だし、楽単なのだからこれくらいはなんてことないと自分に言い聞かせている。どうでもいいかもしれないが、今日は少し遠回りして駅に向かった。あの道を通ると昨日の気持ちが思い出しそうになるのであえてそうした。みみっちいと思うかもしれないが、それくらい昨日の一件は俺には堪えたわけだ。どうせ、帰りには忘れて普通に帰る鳥頭な僕なので僕にしては珍しい事である。そんな事を考えながら後ろの席あくびをしていると後ろの扉がゆっくりと開いた音がした。遅刻者であろうそれに気づいた何人かは後ろを見たが僕は興味がないので見なかった。どうせ遅刻者の動きは想定できる、たいがいの人は見つからないようにかがみながら近くの席に着くそれだけだ。しかし、教授はどうやらその生徒の風貌が気に入らなかったらしく珍しく噛みついた。


「講義に遅れていても、ギターはしっかり背負ってくる・・・全くいい度胸だな森崎」


 その言葉に多くの生徒の目がその生徒に集中する。僕はこの時点ではまだ見ていないさっきも書いたが興味がないから。ガタガタと音を立てながらどうやら這う姿勢から起き上がったのであろうその人は苦笑いをする。


「ははは、すみません。私の体の一部見たいな物なので・・・」


「馬鹿な事言ってないでさっさと席に着きなさい」


「はい・・・」


周りの生徒が何人かクスクスと笑っている。しかし、僕としては笑う暇など与えてくれないほど驚いていた。声を聴いてまさかと思ったがやっぱりそうだった。そう、昨日の路上ライブの彼女が遅刻者その人だったのだから。

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