第595話 勇者のレゾンデートル(存在意義)4

オーリス王国から遠く離れたオリビア王国の王都がある近くのアンドリューは伯爵の領地で魔物が大量に発生した事件が勃発した。


しかも、魔物が、今まで見たこともない未知の魔物だという報告が上がってきているので、報告をした本人を連れて街を守る門まで、支部長が冒険者を引き連れながらやってきたが、そこは、もう騒ぎになっていた。


「どうしたんだ?」と支部長が門を守る兵士の1人に聞いてみた。


「あっ、支部長、数百メートル先に、魔物が‥‥‥」


「なに、もう、そこまで来ているのか?」


そう言いながら支部長は、息を切らせながら階段を登っていく。


普通であれば景色がいいところで遠くまで見渡せるのが、数百メートル前に、大量なんてものじゃないくらいの、真っ黒い物体がうごめいている。


1万や二万どころじゃない、数十万に及ぶ魔物が蠢いている。


支部長は魔物大量に声も出ないほど停止した状態だった。


そこに兵士が「支部長、将軍がこられています」


「ああ、わかった」といってやっと再起動した。


兵に扇動されて、支部長は階段を降りていく。


小声で「あんな大量の魔物、どうすりゃ、いいんだよ。あ〜ぁ、俺の人生、終わったな」とつぶやいた。


兵士が振り向いて「何か?」


「いや、なんでもねえ」というと階段を降りて、部屋に通された。


支部長が中に入っていくと数人が立っていた。


支部長は知っている将軍を見つけ握手する


「これは将軍」


「おお、支部長、元気だったか?」


「はい、おかげ様で」


「それで見てみたかね」


「はい、みました」


「どう、思う?」


「俺のギルド支部長の時代が終わりましたね」


「‥‥‥ははっ、そうだろうな」


「それで軍は、どう動くんですか?」


「何よりも、あの数だろう、兵士の数も、武器も足りない」


「そうでしょうね」


「冒険者の方は、どうだ?」


「一応、集めちゃいますが、こちらも数が足りません。たぶん、目の前にすると逃亡する奴も出ますね」


「敵前逃亡か?」


「はい、冒険者には、その権利がありますから、自分の命第一です」


「う〜ん、それは、困った。こちらも兵士をかき集めているが、すぐには全軍が用意できない」


「そうでしょね。しかしいつまでも待っちゃくれませんよ」


「ああ、わかっている」


その時に兵士が飛び込んできて「報告します。魔物が動き出しました」


2人は顔を見合わせて、「いきますか?」


「ああ、そうしよう」といって将軍は部下を連れて部屋を出ていき、後から支部長が追いかけていった。


支部長の顔色が青い。


「あ〜あ、損な役割だぜ」と支部長。



俺たちはブラッドフォード大公国の山荘に温泉に入りきていた。


戦闘訓練をしていると、結構、埃とか、泥が飛んでくるので汚れてしまう。


俺が遅れて温泉に入ろうかと服を脱ごうとしていた時に、察知することができた。


もちろん、女性たちはタオルを巻いて入浴中だ。


俺が入る予定だからだ。


俺が脱ごうとしていた服を、また着ていると温泉に行く扉がガラッと開いて、そこにはアリシアがタオルを巻いて立っていた。


「クリス‥‥‥」


俺はアリシアが気がついたことの方がびっくりする。


「アリシア、わかったの?」


「うん、なんとなくだけど‥‥‥」


「けっこう、反応は遠かったのに良くわかったね」


「うん、これもクリスのおかげかな?」


後ろにも全員がタオルを巻いて立っていた。


「それじゃ、急ごうか?」


「うん」

「そうですね」

「はい」などの声とともに俺は着替え終わったので部屋に転移して用意する。


といってもほとんど異空間に入っているので、持っていくものはないけど確認だけしにきた。


神獣たちを中心に部屋に転移してくる。


全員が揃ったけど、髪が濡れたままだったので俺が魔法で乾かしてあげた。


髪を乾かし全員の用意ができるまで待って、俺の魔法の能力で全員を転移させた。



俺たちが現れたところは、かなりの上空で下をみると街があるのは左側で、右側には黒いものがうごめいている。


間に合ったようで、まだ大規模な戦いは起きていない。


俺は左側の方に降りていく。


「みんなは右側の黒い蠢いている何かを倒してくれる? たぶん、悪い奴だと思うんだけど」


アリシアが「でも、クリス、なんだか、あいつら変だよ」


「うん、そうだね、この世界の奴らじゃない」


「えっ、やっぱり、そうなの?」とソフィア


「うん、あんな奴らいないよ、この星には」


「じゃ、強さは未知数ということですか?」とシャーロット


「うん、その通りだけで、君たちなら問題なく倒せるけど、数が問題だね」


「そうですね、異常に多いですね」とジャネット


「あんな数、どこから持ってきたんだろう?」


「ええ、確かに」とジャネット


「数にしたら25万くらい?」とイザベラ


「うん、それくらいいるね」


「どう倒すかだね」とアレク


「うん、そうだね」とアデル


「大規模魔法で殲滅していくか? 一体ずつ倒していくとかなり消耗するし時間がかかるね」とパトリシア


「そうじゃな、数が問題じゃな」とロゼッタ


「でも25万もいれば、1人、約2万、倒さないといけないんだね」とアデル


「1人で2万ですか?、すごい数ですね」とセラフィーナ


猫のリアムが「そんなのご主人さまがすれば、一瞬で終わりますぞ」


猫のエマが「何、いってんのよ、あなた、一瞬どころじゃないわよ」


リアムが「そうだね、瞬きする間かな?」


エマ「そうだね、でも、そうすると焼け野原ができるわね」


「あっ、そうだ、あとのこと考えてなかった」とリアム


今、リアムとエマは俺の両肩に乗って俺を挟んで喋っている。


「ちょっと耳元でお互い話すのはやめてよ」


「あっ、これは失礼しました、ご主人さま」と言ってリアムはマントに、エマは剣に戻った。


「それで、どうする?」とアリシア


「うん、そうだね、いきなり戦いに持っていく方法もあるけど、どうしようか?」


「ご主人さま、黒い方が動き出しました」


「あっ、それじゃ、話はあとで、人がやられる前に行こうか?」


「はい」

「了解」

「うん」

「わかった」という言葉を残して透明の魔法を解除して黒い物体を見にいくために降下した。


もっと近くで見てみると、姿は悍ましく寒気がするほどだった。


女性たちも、露骨に嫌な顔つきになる。


「なんだか気持ち悪い」とアレク


「全く同感」とエイミー


「本当だ、なんだかネバネバしている」とイザベラ


ジャネット「さぁさ、そんなこと言ってないで皆んな、いくわよ」


その頃になると、人が上空を見上げて、指を指すようになった。


君たち、人を指さしてはいけないって教えてもらわなかった?



部下の報告にあった上空にいる人というものを見に外に出てきた。


果たして敵なのか、味方であって欲しいけど、空から現れるような知り合いはいない。


しかし、今まで空を飛んでいるような人は見たこともない、この国にも魔法師はいるけど、飛行魔法は、超がつくくらい高等魔法の一つだ。


俺は外に出て上空を見てみると目を疑った。


確かに人だ。人が空中に浮かんでいる‥‥‥


しかも、まだ遠すぎてよくわからないが、男性らしき者と、あとは女性?


体つきから見ても、女性の方が多く1、2、3‥‥‥10、11、12、13人だ。


えっ、13人の女性?


その十三人は俺の頭の記憶を探っても、思い当たるのは一つ‥‥‥俺のたった一つの愛読書であり勇者物語に出てくるメンバーが‥‥13人、いや、まさか、俺は、少し自分でも顔がにやけてきた。


もし、本当なら、いや、そんなことなんてあるわけないじゃいか。


俺は本の物語の設定上なのかわからないが、持っている本では18歳の勇者に憧れている。


15歳で村から出てきた、勇者クリス‥‥‥


仲間を増やしていき、今では十三人の仲間がいると書いてある。


俺は、噂話で聞いた勇者物語の本が、どうしても欲しくて国で1番の行商人に頼み込んで入手してもらった。


結構、高額でふっかけられたけど、読んでみると、面白い。


もう何回、読み返したことか。


俺の知り合いの冒険者ギルドの支部長も飲んでいる時に話したら、支部長も大切に持っていると言いやがった。


2人して勇者物語のファンだなんて‥‥‥


それから俺たち2人は、会うことがあったら、勇者物語の話ばかりしていた。


時には飲むことも忘れて、勇者物語の冒険譚に酔いしれてしまった。


以前から勇者物語の本はあったが、どれも面白くもない本ばかりだった。


それが、この勇者クリスの物語は、本当に真実味があり、空想の物語なのか? 実際にいる真実の話なのか、書いていないんだ。


また、そこがいいんだ。


空想でも、実在するのか、わからないところが、いいんだ。


俺の後ろにいる冒険者ギルドの支部長も口をあんぐり開けて上空を見ている。


こいつの顔がアホズラで、俺は笑ってしまった。


たぶん、俺も同じ顔をしているだろうな。


「俺たちは全員で十四人いますが、敵の数は25万を超えています」


「25万‥‥‥」と将軍がつぶらく。


「どれくらい時間がかかるか、わかりません、できるだけ焼け野原にはしたくないので‥‥‥」


「そうですか、そこまで我が国に気をつかっていただいて感謝します」


「でも、危険になったら、そんなことを言っていられませんので、一応、言っておきますから」


「はい、わかりました、勇者クリス様のいう通りにしますので、おい、ここに準備させろ」と指示した。

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