第573話 救世主への道30(レジーナ王国編)
俺はクロード伯爵に会いにいく事にした。しかし辺境伯というだけあって遠いけど、それは馬車でのこと。
馬車で行くなら最低でも3日かかると言われたけど、俺たちには距離は関係ない。
しかも行くのがレジーナ王国の方角だから、近くまでは一気に転移することができる。
王城のベランダに出てきて念話で、誰か行くか、聞いてみたが、誰も返事しない。
なのでくじ引きになって、貧乏くじを引いたのはアリシアだった。
俺がアリシアを宿まで迎えに行き、みんなには食事をしたり休養を取ってもらうことにして、一応、観察はしてもらうことにした。
*
今、俺たち2人は、あっ、ではなかった、4人いるんだった。
それはエマとリアムも同行しているからだ。
俺たち4人は、クロード伯爵の領地にいる。
そして上空から大きな建物を探すと、見つけた。
王都の城まで大きくないが、それほど小さくない城みたいな大きな建物が立っているが、近づいていくと城というよりも城砦といった方がいいみたい。
俺たちは誰もいない路地に降りて、いつも通り透明の魔法を解除して、大通りに出てきた。
念話で『ジャネット、今、ついた』というと
『了解です、監視しています』と返ってきた。
王女に書いてもらった親書があるので門を守る兵士に近づく。
兵士は剣を抜いて「何者だ」と声を荒げて警戒させる。
俺は敵意はないことを示すため親書を渡した。
その親書を見た兵士は顔を青くして「失礼しました」と
その兵士は他の兵士と言葉を交わすと走って城塞の中に入って行った。
俺たちは言葉をかけられた兵士に、案内されて部屋の中で待つことにした。
部屋の中は、調度品もなく、テーブルと椅子だけ置いてある部屋で、すぐに女性が中に入ってきて、紅茶を淹れてくれた。
もちろんお茶菓子も、安全だと確認した上で食べることにした。
当然、紅茶もお菓子も安全だった。
しばらく待っていると、先ほどの兵士が、違う人を連れて戻ってきた。
その人は、60代くらいの白髭を生やしている大柄の男性で叩き上げという感じがした。
やはり前線にいる人は違う。
誰だろう?と思っていると「君が王女殿下の親書を持ってきたのか?」
「はい、これが証拠です」といって王女から預かったネックレスを手の平に出した。
男性は、俺の掌をじーっと見て、納得したような顔をした。
「では、中に案内しよう」と先頭に立って歩き始める。
部屋を出ると男性を先頭に、周りに兵士が4人ついてきた。
大きな通路だから通れるけど、狭かったら無理な方法だ。
先頭を歩く男性の後をついていく。
城砦は、結構な高さがあり幾つもの階段を登ることになる。
階段を登っては、また歩いて角を曲がって、また階段を登る。これは責められた時の用心のためだな。
真っ直ぐな階段では攻められる。
でも、こんな作りの方が隠れるところがあって逆にいいんじゃないか?
そこで休憩もできるし。 どうなんだろう?
やっと最後の階段を登り終えて豪華な絨毯が引いてある階に到着した。
さらに歩いて兵士が両脇を守る大きな扉がある前にきた。
さあ、どんな奴が出てくるか?
男性は、兵に何も言わずにいきなり扉を開けた。
部屋の中が見えたが、さらに大柄の男が座っていた。
俺たちが部屋の中に入ると大柄の男は立ち上がって「ようこそ、クリス公爵」と手を出して迎えてくれた。
俺も手を出し握手をするけど、手を握ると肉厚でゴツゴツして俺の手の1.5倍はありそうな手だ。
「こちらの女性も、伯爵です」と紹介した。
「これは、ようこそ、我が城へ」と言われ、アリシアもカーテンシーで答えた。
今日はドレスではないが、冒険者の格好でもよく似合う。
俺たちは向かい合って、椅子に座る。
「それで王女殿下の要件とは?」
「実は王女殿下の要件というか、今、城では大変なことが起きています」
「それは、あの巨大なカメに関係することですか?」
やはり知っていたか。
「ええ、それも含めてです」
「では、お聞きしましょう」
そしてアリシアは黙っていたが、俺が、ことのあらましを話し始める。
「‥‥‥うむ、そんなことが」
「あまり、驚かないんですね」
「実は、以前、王都に寄った時、なんだか、変な空気を感じれていた」
「変な空気?」
「ああ、そうだ」
「王に会う機会があったが、王が以前とは違うように感じた。王も高齢になっているからだと思っていたが‥‥‥」
「そうですか」
「まさか、王都でそんなことがあっていたとは」
「‥‥‥」
「それでクリス公爵は、どうしたい? ここまで、遠く離れている僻地までくるくらいだから何か、策はあるのだろう?」
「はい」
「それで、どう動くのだ?」
「それよりもクロード伯爵の意見をお聞きしたい」
「俺か?俺はできたら王には、そのままでいてほしいが、そうもいかんのだろう?」
「そうですね。王は麻薬で狂ってきています。そして第一皇子も同じです。しかも、それを企てたのは第二王子のルーカスと思われます」
「そこなんだよ、俺は今の王に特別な感情はないんだが、今の王の前、つまり前王には恩義を感じている」
「ならば、国のことを考えてください。クロード伯爵も巨大なカメを見たでしょう」
「ああ、あれはやばいな、やばいなんてもんじゃない」
「そうですね」
「しかし、どうしてあんな巨大カメが突然消えたりするんだ? そして、どこから現れたんだ?」
「どこから現れたか、今は答えを持っていません」
「‥‥‥ということは、消えた理由を知っているんだな」
「‥‥‥はい」
「お前さんが関係しているのか、それとも王国の奴らが関係しているんだ?」
「王国の兵士も関係していますが、俺たちのメンバーが倒しました」
「おいおい、そんな大きなことをいって良いのか?」
「いえ、事実です」
「‥‥‥本当なんだな」
「はい」
「あんなでかい奴、どうやって倒したんだ?」
「聞きたいですか?」
「‥‥‥いや、やめておこう、怖い気がする。なんだか人知の知れない力が働いている気がしてならない、お前さんも、横の女性も‥‥‥お前さんたち、本当に人間か?」
「はい、人間ですよ」
「そうかぁ、さっきからビリビリしてくるぞ」
「あっ、そうですか?、それは失礼しました」
「あんなカメを倒せるのは人じゃ無理だ。俺の現場に出向いてみたが、夢のような感じがした、あの場にいること自体、本当に夢の中じゃないのかと思っていたよ」
「‥‥‥」
「その現場で、小さい人のようなものが上空をウロウロしていた‥‥‥。遠くてよくわからなかったが、それがお前さんたちだな」
「‥‥‥そうであれば?」
「いや、人の動きじゃないし、魔法使いだって言われれば、それまでだが、あんな魔法使い、この世界にはいない。
お前たち、どこからきた?」
「それは言えません」
「言えないということは、正しいということだな」
「そして、この世界に何をしにきた?」
「世界平和」
「わっははははははっ、これはおかしいや」
「‥‥‥」
「お前さんが持っている圧力と感じるものは人の力じゃねえよ。そんな奴が平和だぁ、笑わせてくれるじゃねえかよ。
「横の女性も、喋りはしねえが、ただもんじゃねえ」
段々と口調が崩れていく。
俺はクロード公爵をじっとみている。
「はっ、笑わねえのかよ」
「ええ、笑いません。本気ですから」
「あ〜、わかったよ、お前さんに協力してやらあ、王女殿下の頼みもあるしな」
「では、約束ですよ」
「ああ、わかっているよ、このクロード、一度、約束したことを破ったことはねえよ、そんなことしたら先祖様に顔向できねえよ」
先ほど、案内してくれた男性が、咳払いをして「兄者、俺には無茶苦茶、約束を破っているぞ」
「ゼノ、おめえ、それをここで言っちゃ おしまいよ」といって笑い出した。
さっき案内してくれたのはクロード伯爵のゼノという弟なのか。
なんだか、本当に気取らない伯爵だ。
「ゼノ、お前も参加して、今から作戦を立てるぞ」
「ああ、そうだな、国の一大事だ」
「それでは、その前に、うちのメンバーを紹介しておきます」
「へっ、お前、何いってんだ? お前と、横の綺麗な姉ちゃんだけだろう」
姉ちゃんときたか?
「いいえ、俺たちはパーティーを組んでいるんです」
「でもよ、今から呼び寄せるんじゃ、何日かかるか?」
「いえ、数秒ですよ」
念話で『ジャネット、スタンバイOK?』
とクロード伯爵ふうにいうと『ラジャ〜」とアレクが返事して、すぐに俺の横に姿を現した。
「なんだ?」
「うおっ」と大柄の2人が驚く‥‥‥
「こちらが、うちのメンバーになりますので、お見知り置きを」
「おいおい、綺麗な姉ちゃんと、なんだか小さい子までいるぞ」
「小さいけど、多分、あなたよりも強いですよ」
「あ〜、なんだって」と言い出したのはゼノだ。
「ゼノ、今はやめてくれ」と頭を抱えている。
「いいや、戦ってやる、俺の方が強いに決まっている。こんなチビつ子に負けてたまるか。おい、ベランダに行こうぜ」といって先にベランダに歩き始める。
「すまんな、言い出したら聞かないんだ」
「いえ、良いですよ、ちょうど肩慣らしできそうです。じゃ、誰がいく?」
「はい、私、行きたい」と手を最初に挙げたのはアレク。
全員の手が上がったけど、ここはアレクに頼もう。
アレクとゼノの力試しになった。
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