第423話 魔法の鏡7

俺が落ち込んで床に手をついて意気消沈しているのを見て、ジャネットが「ご主人さま、あれはしょうがないですよ」と言ってくれた。


しかし、俺のあれだけ完璧な結界魔法を破って現れるなんて、犯人は、もう一人しかいない。


以前から俺が検討をつけていた奴だ。


その名は、創造神ナサニエルだ。


見えなくなるくらいの莫大な光魔法だけど、そこには聖属性はなかった。


俺は、それを瞬時に判別できた。奴が使っていたのは、膨大な威力の光だった。


俺たちが戦闘に集中していたから、まさか、単純な光でだけで、ウルフを奪われるなんて、失態だ。


「くそっ」


全員が俺の周りに集まって、温かい手を置いてくれる。


肩や、背中や手の甲に手を置いてくれる。


「ご主人さま‥‥‥」


俺はゴロっと仰向けになった。


「あ〜あ」全身から力が抜けて、ため息が漏れる。


しかし、そこに鏡から急襲する奴がいた。


俺が動くことができないくらい、落ち込んでいるところに、俺たちに向けて収束したビームが襲う。


ビームの数は、5本、ちょうど人数分だった。


ビームは立っていたロゼッタとパトリシアを背中から突き抜けた。


座って俺を見ていたジャネットとアレクに横から、ビームが曲がりながら貫く。


床に横になっていた、俺にもビームが曲がって真上から心臓を貫いた。


「くっ、油断した」とそれだけしか言葉に出すことはできなかった。


俺は、全員の状態を見る余裕がない‥‥‥。


息ができない‥‥‥苦しい‥‥‥ヒュ、ヒュウ、ヒュウ、背中には生暖かいものが出てきている。


急速に体から体温が失われる。


「くそ、こんなところで、死‥ぬわけには‥‥‥」


俺の頭には走馬灯のようにアルベルトの記憶とクリスの時に魔物に襲われた記憶が駆け巡る。


「ア‥‥リシ‥ア」



魔法の鏡の外


「クリスたち、遅いね」とアリシア


「もうすぐ、連絡来るわよ」とイザベラ


「鏡も変化ありませんね」とセラフィーナ


「本当にね」とソフィア


「ねぇ、そういえば私たちも魔力があるんだから、鏡の中に行けるんじゃない」とアリシア


「あっ、そう言えばそうね」


「行ってみる?」とイザベラ


「あっ、ダメよ」とアリシア


「ねぇ、アデルちゃん、念話は通じている?」


「いいえ、さっきから念話ができなくなりました」とアデル


「そうだね、おかしいよね」とアイリス


「おかしいですね」とエイミー


「ご主人さまが、ウルフと戦闘に入ってからですよね、念話が切れたのは」とアイリス


「うん、そうだね」とアデル


「どうしたんだろう」とアリシア


「ちょっと心配ね」とソフィア


と言う話をしていたら突然、アリシアだけに「ア‥‥リシ‥ア」と聞こえた。


「えっ、ちょっと、クリス?」とアリシア


「クリス、どうしたの?」


「どうしたんですか? アリシアさん」


「みんなには聞こえなかった?」


「ええ、なにも」


「今ね、消えそうな声で私の名前を呼んだの」


「えっ‥‥‥それって‥‥‥」


「ねぇ、罠かもしれないから、注意する必要があるけど、アデル、エイミー、アイリス、3人ともクリスと連絡をとってみて」とアリシア、顔が真っ青で慌てている。


「はい、わかりました」と3人。


「なんだか、不安だわ」と体がガタガタ震え出す。


「ねぇ、みんな、緊急体制をとって」


「うん、わかったわ」


「アデル、どう?」


「いいえ、連絡ありません」


「アイリスは、どう?」


「私もダメです」


「エイミーは?」


「私もご主人さまと念話できません」


「どうしよう?」とアリシア


「落ち着きなさい」とソフィア


「そうよ、まだ危険と決まったわけじゃないし」とイザベラ


「でも、よくない予感がするの」顔は真っ青で体はガタガタ震えている。


「みんな、私からのお願い」とアリシア


「‥‥‥」


「クリスを助けに行こう」とアリシア


「もう、しょうがないわね」とイザベラ


「そうですね」とシャーロット


「本当に心配ばかり‥‥‥」とソフィア


アデル、アイリス、エイミー「仕方ないですね」と言いながら、率先して鏡の前に立つ。


「ねぇ、誰か鑑定の魔法、使える?」


「あっ、実は私できますよ」と手を挙げたのは、エイミー


「じゃ、エイミー、お願いできるかな?」


「はい、了解」と言って、鏡の横から鑑定しながら800に満たしていく。


「これで一人は通れますよ、誰が行きますか?」


「じゃ、私、いくわ」とアリシア


「えっ、私たちの、どちらかが行きましょうか?」とアデルが自分とエイミーを指差す。


「ううん、私がいくわ」とアリシア


鏡をくぐる前に、アリシアは胸に手を当てて小さな声で「どうか、クリスが無事でありますように」と言っている。


そして鏡の中に入って水のような膜を通っていく。


アリシアが鏡の中に入ると、そこには、なにもない、クリスもいない。


どっち、行ったんだろう?


アリシアは、どっちにいくか、わからないから、みんなを待つことにした。


5分くらいかけて、全員が揃った。


「ねぇ、アデル、エイミー、アイリス、クリスはどっちかわかる」


エイミーが「えーと、そうですね、と言いながら検索魔法を使うと、「あっ、あっちに反応があるます」と指差す。


「よしっ、じゃ、あっちに行きましょう、でも警戒は厳にね」と言う。


アリシアを先頭に歩いていく


周りをキョロキョロしながら、先へ進んでいくと黒いものが床にある。


アリシアは走り始める、焦りを覚えながら、冷や汗をかきながら‥‥‥目から溢れる涙を手で拭いながら‥‥‥


「ク、ク‥‥‥リス」と足をもつれさせながら、必死に走っていく。


必死に走った、アリシアは周りを見る余裕なんてない‥‥‥もし、ここで攻撃されたらアリシアは‥‥‥


でも、攻撃されることはなく、、無事にクリスのもとに辿り着いて膝を突き、クリスの容態を確認するアリシア。


床に倒れているクリスの体に下から血が出てきているのでアリシアは、只事ではないと考えて、一度、冷静になってみた。


クリスは、どうしてか、わからないけど、一度、生き返っている、たぶん‥だけど‥‥‥でも確信はない。


それを信じるしかない。


クリスに治癒魔法をかけたけど、私は使えない‥‥‥これほど悔しいことはない。


アリシアは唇から血が出るほど、口を噛み締めながら、クリスがしていたように聖属性魔法を使う真似をする。


「クリス、死なないで‥‥‥」


「クリス、生きてよ〜」大粒の涙が出てきた、


「うっ、うっ」泣いている場合じゃない、クリスを助けるんだ。


「今は私しか、クリスを助ける人はいないんだから、頑張らなきゃ‥‥‥」


他の人は、ジャネットとロゼッタとパトリシアとアレクの治癒をしている。


それも治癒できるのは神獣たちの3人だけ。重傷者は4人いる。


どうしよう? 不安な気持ちで涙が止まらない‥‥‥


でも、クリスを助けるのは、私しかいない‥‥‥


私は手を前に出してクリスが治癒していたようにイメージして魔法を使う。


目を閉じて集中して、元気なクリスを思い描いて‥‥‥クリス、生きて、


私を置いていかないでよ‥‥‥クリス‥‥‥

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る