優しい幼馴染み

引きこもり生活を6年間して、やっと8歳になるころ、リサと遊ぶことができた。


リサと外で遊んでいても、母親が寝込むことが多くなり、簡単な食事や、あと片付けは、俺ができるようになった。


そのため、家の臭いニオイが少なくなり、空気の入れ替えや、お日様が家の中に入ることが増えてきた。


しかし、相変わらず、両親の部屋は、暗くじめじめしていた。


八歳になれば、自己主張できるようになり、父親に、外で遊びたいと言えるようになり、リサと外で遊ぶことができるようになったが、それでも、父親も顔色がさえることはないが、母親ほど、悪くはなかったように見えた。


時には、リサと川で魚釣りをしたことで、食卓に魚が出ることもあった。


父親と食事する時には、今日、あったことを話しているが、父親は会話することがなく、うん、うん、うなずくだけ………


時には、頷くこともない………


それでも、いつかは、前のような笑顔を見せて会話できることを楽しみにしていたと思う。


しかし、俺がここまでできるようになったのは、リサのおかげだ。


あの日、リサがガラス窓に手を当ててくれたことから、始まってきたと思う。


リサは色黒だけど 俺よりも、少し身長がある髪の長い可愛い女の子だ。


どうしてかわからないが、リサは、遊びにくると俺の手を取って引っ張っていく。


まぁ、俺以外、年齢が近い子供はいないせいだと思うが。


俺が家の前で座っているところを後ろから来たリサが声をかけてくる。


後ろから「こんにちは、アルくん」


「‥‥‥」俺は返事しなかった。


「もう、アルくん、ちゃんと返事はしようよ」


俺はやっと返事して「‥‥‥うん」


「何しているの?」


「‥‥虫を見ている‥‥‥」と本当のことを言った。


「えっ、虫?」


「うん、この虫」とリサのほうに木の棒で虫を差しだした。


リサは木の棒を見て「きゃ〜~~~」と言い出して、すごく早く後ろに下がって怯えていた。


リサは怯えながら「ア、アルくん、虫を触るのやめようよ」と言って、怯えて震えながら俺に近づき、俺の腕をつかんで、俺の腕ごと強く降ったので、虫は遠くに飛んで行った。


「ハァ〜」とため息をつくリサ


「もう、こっち いらっしゃい」と俺の手を引っ張って井戸に連れて行き、「ここで手を洗って!」と声を強めていう。


リサが井戸から水を出してくれて、俺は手を洗うことになった。


「しっかり、手を洗うんだよ」


「‥‥‥」ゴシゴシ


「いい? アルくん、もう虫は触っちゃダメだよ」


「‥‥‥」


「いい、わかった?」


「う、うん」半ば強引に言わされた‥‥‥


「もう、良いわね………じゃ、あっちに行こう」リサは俺の洗って濡れたままの手をとって、拭きもせず歩き出す。


歩き出す俺とリサの手はつながられたまま…


リサの手は柔らかくて、暖かい。


以前は、母親が手を握ったりしてくれることがあったが、今は無い…


リサに手を引っ張られて歩いていくけど、どこにいくんだろう?


リサと遊ぶことは楽しいけど、家に帰ると、暗くなってしまう。


特に寝込んで食事も満足にとらない母親が心配だ。


父親も最近は、畑仕事から帰ると、すごく疲れた感じになっている。


最近は、俺が食事の用意して、一人で食べたり、たまには父親と食べることがある。


母親は父親が、食事を持っていくけど、あまり食べていない。


**


悪い噂は、もう少なくなってきたと思う、六年もたてば、人の噂も、指さす人もいない。


少しは家の雰囲気が明るくなっても良いころだけど、そう上手くいかない。


もう、家を蹴ったりする人も、壁に石をぶつける人もいないのに変化がないどころか、悪くなっていく一方だ。


一度、受けた衝撃は、そう簡単に変わるものではない。


*********


リサとは、普通に遊べるようになったとき、俺に最悪のことが降りかかる事件が起きる。


さらに数か月たって、時には、父親とも話ができることが増えたような気がした時に、母親も寝床から起きだして、今日は調子が良いと言ってテーブルの椅子に座ってきた。


その日は天気も良くて青空が広がってきたので、久しぶりに外に出ようじゃないかと、父親が言ってしまった。


それに母親も賛成して、村の外の丘までいく話になった。


「あまりに家に引きこもってばかりじゃ、良くない」


「………そうね、じゃ、簡単な食べ物を作るわ」


「いや、パンでいいじゃないか?」


「そう、それなら、水とパンだけ持って行きましょうか?」


「うん、そうだな」


俺は話に聞き耳をたてて、嬉しそうにしている。


母親が用意して、3人で家を出かけようとしたら、家をでたところでリサに見つかってしまった。


俺は出会ったリサに、機嫌よく、三人で丘まで行くんだ、と言ったが、リサは、そ、そうなんだ、とだけ答えた。


「あっ、おばちゃん、おじちゃん、こんにちは」とリサ


だけど、二人は、そっけない返事をしただけ。


どうもリサは両親のことが苦手みたいだし、両親も、リサのことを苦手みたいだ。


リサは俺と遊ぶつもりで、俺の家に来たのに、遊べなかったからなのが、残念だと思っているのか?


表情が沈んでいる。


「いってくるよ」


「………う、うん」とだけ、うなずいた。


俺たちの出かけていく後姿をみているリサ。


俺は、リサのことが心配になり後ろを振り返ると、もう、姿は見えなかった。


俺は前を向いて歩き始めたが、もう一度、振り返ると家の角に、動く影があった。


影は顔の部分で動きがあり、顔を拭いているようなしぐさをしていたような気がした。


「ほら、アル、行くよ」と手を父親から引っ張られて強引に連れていかれた。


手を引かれながら、後ろが気になってしょうがなかった。


でも、そこで父親だけじゃなく、母親も手を伸ばして、俺の手を引っ張ってくれた。


久しぶりに握る母親の手は、冷たかった。


以前だったら、とても暖かい手をしていた母親………それが、どうして氷のように冷たいのか、八歳の俺には想像ができなかった。


それでも、本当に久しぶりに母親と父親と手を引っ張られているだけなのに、嬉しかった。


三人で歩いていくと途中で村人がいる時は、両親は下を向いて速足で歩いていく、しかも、隅を通って避けるようにして。


それでも、なんとか、村の門を通るまでやってきた。


門番に頭を下げて縦一列で通っていく。


通り過ぎるときに門番は何も言わない。


門番の横を通り過ぎると、二人とも俺の手を離した。


別に手を離さなくてもいいのに、手を離された俺は、ちょっと、残念。


三人で手をつなが事もなく、丘まで歩いていく。


そのとき、リサのことを思い出してしまう。


どうしてリサは、あんなに悲しい顔をしていたのか?


いくら考えても、わからない………


しかし、どうにも気になってしまう。


**


俺はリサのことを考えていたことも忘れて、目の前にある両親の手を自分から握りに行った。


一瞬、握りに行った手を振り払われるかとも思ったが、二人は驚いたように俺の顔を見て、少しだけ笑った。


そしてお互いの顔を見て笑顔になったような気がした。


両手をつながれて俺は気分最高。


さっきは、手を引っ張られていただけだから。


今は父親は無表情だが、母親は、顔が緊張しているのが、わかるくらい。


相変わらず手は氷のようにヒンヤリして冷たいけど、汗でべとべとしている。


本当に母親の顔色が悪い。


足取りも、どこか不自然でぎくしゃくしている。


俺は母親の手を支えるために、しっかりと握った。


そのことに余計に、緊張した顔をする母親。


しばらく両親とも手をつなぎ歩いていく。


母親は、顔からも汗ばんでいる


そこで「お母さん、今日は、ここに来れてよかったね」と言ってみた。


母親は「‥‥‥そ、そうね」とだけ。


母親の表情は、まだ暗いままだが、そんなことよりも、俺は両親と手を繋げたことが嬉しい。


嬉しくてたまらないから、つい顔が、にへら~、となってしまう。


当然、父親が止まって俺の手を離した。


えっ‥‥‥


立ち止まった父親は、俺の方を向いて俺を抱き上げ、肩車してくれた。


「うわっ」


俺は、こんなことをしてもらった記憶がないし、高くて緊張した。


「どうだ、アル、ほら、遠くまで見えるだろう?」


俺は恐々「‥‥‥うん、お父さん、すごいね」と答える。


「今日は天気だし、空も青いぞ」


「うん、父さん、青い空が、ほんとうに綺麗だね」とちょっと高くて怖いが、父親が、こんなことをしてくれたのが初めてだったので嬉しくなってきた。


俺を肩車して遠くまで見せてくれた景色よりも親の暖かさを久しぶりに感じた。


こんなことが続けばいいな。


父さん、母さん…


俺を肩車して歩いていたら丘に到着してしまったので、俺を下におろした。


「あー、気持ちいいな」と父親


母親は遅れて到着したが、すぐに地面にシートを引いている。


母親は、シートの上に、水とパンをバックから出していく。


母親は俺が並べるのを見ながら、水の用意をしている。


「あなた、アルが手伝ってくれたから早くできたわよ」


「うん、アル、えらいぞ、じゃ、たべようか?」


「外でたまには、食事をするのもいいな」


「そうね」と母親は声が震えている。


俺の前に、両親が座る。


「アルは、大きくなったら、お父さんの後を継いでくれよ」


「そうね、私も大好きなアルが、家の仕事を手伝って優しい大人になってくれたら嬉しいわ」母親が精いっぱいの笑顔を見せてくれる。


俺は母親が家から持ってきたパンが普段よりも美味しく感じて多く食べていた。


俺が焦ってパンを食べていたので、喉に詰まってしまった。


「ウグッ」


「ほら、アルったら慌てて食べるから。この水を飲んで、」


俺は母親から水が入ったコップを受け取り、どんどんと胸を叩きながら苦しそうに飲もうと前を向いた。


そうすると以前からいたような毛むくじゃらで大きな姿をした者?が、そこに立っていた。


しかも、見たこともない大きな木の棒のようなものを持って。


俺は、長く引きこもりのような生活だったから、それが何かわからない。


リサと遊んでいる時も、出会ったことがない大きな者が、手に持っている大きな木の棒を上へ動かす。


両親は、無言で木の棒を振りかざそうとする何かに気が付かない。


俺はむせたことで、コップを口につけたまま、止まって、必死に、何かが、次にどう動くのか見ているしかできない。


俺はなんだ?


心臓が自分でも動いているのがわかるくらい、バクバク音がしている。


音もさせずに、近づいてきている。


しかも、音もたてずに大きな棒を振り上げたまま近づいてくる。


俺がコップを口に当てたまま、両親の背後を見ていることに母親が気が付いた。


「アル、どうしたの?」と聞いてきた。


「‥‥‥」でも俺は何が起きているのか、起きようとしているのかパニくって喋ることもできない。


黒い毛むくじゃらが俺と目を合わせた途端、大きな声で「フゴ~ッ、フゴ」と鳴き声を上げた。


その時、両親は、体をビクッとさせ、あまりの驚きに動けない。


毛むくじゃらの木の棒が、振り下ろされようとしている。


しかし、木の棒が振り下ろされようとしている下には、父親がいる。


父親は、あまりの驚きに腰が抜けたようになり、動けない。


「うわっー」と手を犠牲にするためか、防御しようとするが、そんなもので防げる訳がない。


しかし、魔物の持っている棒は、長くはなく、地面にめり込む。


「逃げろ」と父親


母親も、あまりにも近くに毛むくじゃらがいるため、腰が抜けて動けない。


「あ、あ、あ、あなた~」とか震える、か細い声


毛むくじゃらは「フゴ~ッ、フゴ~、フゴ」と鼻息を荒くする。


もう一度、地面にめり込んだ木の棒を持ちあげようとしているが、地面にめり込みすぎている。


それでも毛むくじゃらは、両手で力いっぱい木の棒をやっと地面から持ち上げることに成功した。


両手から片手に持ち直した木の棒は、またもや毛むくじゃらの頭よりも上に持ち上げられる。


両親は、手で這って移動しようと焦る。


俺は、両親を助けようと、移動させようとするが、非力な子供の力じゃ、たいして助けにならない。


その時に、俺に向けて、毛むくじゃらは木の棒を振り下ろしてくる。


ふわっと風が流れる。


父親が俺を突き飛ばしてくれた。


俺が今までいたところは、木の棒が地面に、めり込んでいる。


しかし、あまりにも父親に近かったために、父親の手に木の棒が地面に当たってはじかれた石が当たってしまった。


「うっ」と腕を痛そうにする父親。


この瞬間に、俺の意識は、何処かに吹っ飛んだ。


俺は立ち上がり魔物に立ち向かう。


「アル、逃げろ、逃げるんだ」と父親


俺は毛むくじゃらに向かって手を伸ばして向ける。


「アル」と父親


俺の意識は、どこかに行ってしまったように、返す言葉もない。


「逃げてアル~」と母親


腕を毛むくじゃらに向けて、人差し指を向ける。


どこから持ってきた言葉か、知らない言葉が出てきた。


「ファイヤー」とだけ………


指先で火の魔法が起きる訳でもなく、飛んでいく魔法でもなく、突然、毛むくじゃらは燃え上がった。


ボァ~~~~~~~ッ


俺が毛むくじゃらに腕を向けて、毛むくじゃらが燃え上がったのを見た二人………


ゴーッとすごい勢いで魔物が燃え上がっていく。


俺は、それを感情を示さずに見ているだけ。


「ガウアッ〜」と言いながら、毛むくじゃらは地面の上に倒れて、転げるようにしているが消そうとしているのか?


二人は、それを、ただただ動かずに口を開けて、ポカンと見ているだけ。


しかし、転げまわる毛むくじゃらが、こちらに接近して転げまわるので、熱さで、ようやく、動けるようになり、両親は、無意識のうちに俺の後ろに移動する。


あたり一面を嫌な匂いが漂う。


草が焼ける臭いよりも、毛が燃える臭いがする。


毛むくじゃらは、まだ、うめき声をあげながら、転げまわるが、一向に火が消える気配がない。


「グワッ グワ〜、グワッ グワ」


炎に悶えながら、魔物がのたうち回る。


魔物はのたうち回りながら、地面を転がる。


「グワッ グア〜」


苦しそうな鳴き声をあげながら、まだ地面を転げている。


魔物が転げまわった草にも火が広がりだす。


いつの間にか転げまわっていた魔物が動きを止めて動かなくなってしまった。


肉が焦げるような嫌な匂いがあたり一面に広がる。


俺は両親の方を見たが、二人とも怪我もない様子で大丈夫みたいだ。


俺はほっと胸を撫で下ろした。


しかし、俺のことを見る目が違う、二人の様子が違うことに気がついた。


「とうさん、母さん、大丈夫?」


2人は、俺の声を聞いて、やっと動き出したが、俺を見る目が変な者を見る目に変わった。


さっきまでの良い雰囲気は、しなくなった。


顔は驚愕の表情になっている。


驚き、恐れ、逃げ出したいと言う顔だ。


母親は、逃げるように足早に村に帰っていく。


そのあとを父親も追っていく。


俺は、このときになってやっと、意識を正常に取り戻した。


目の前には、さきほど、母親が引いたシートがあるが、パンや飲み物は、散らばっている。


土までシートの上に乗っている。


俺は、引いていたシートをそのままにして、歩き出して数歩先にいた父親の手を握ろうとした。


しかし、父親は俺の手を、バチッと音がするほど、振り払った。


「いたっ」と俺は父親から払われた手を、痛そうに摩った。


痛そうにすれば、父親が振り向いてくれそうな気がしたからだ。


「お父さん、どうしたの?」


「………」何も言わない父親。


スタスタと速足で歩きだす父親。


母親は、父親よりも、前方に歩いていく。


「お母さん‥‥‥」 母親の方が速く歩き始めていたため母親には、もう手が届かない。


両親ともすごい勢いで村に帰ってしまった。


俺は、その場で足を止めて立ち尽くす。


俺の心が次第に暗闇に覆われていく。


寂しい、寂しい、寂しい………つらいよ………おとうさん、お母さん………どうして?


涙がしたたり落ちてきた。


「どうしてなの、お父さん、お母さん」


俺も村に帰った二人を追うために歩き出す。


しかし、やっと騒ぎを知った村人が、俺がいる方に近づいてくる。


村人に隠れて、二人の姿は見えなくなった。


村人が走って、俺の元に近づいてくる。


*******


一人の村人が、この魔物、どうしたんじゃ?といったので、毛むくじゃらが魔物だと言うことがわかった。


俺は、その答えに「やっつけた」とだけ答えた。


「なんと、やっぱり、アルベルトは村に初めて現れた魔法使いだったのか」とか、言っている。


俺は去っていく村の中に入った両親のもとに行きたくて「おとうさん、おかあさん‥」と両親のあとを歩き出そうとする。


村人が集まり騒ぐ声が大きくなっていく。


次から次へと人が集まってくる。


その中にリサとリサの両親もいた。


リサが俺の方を見ながら「ほらね、やっぱり………」と言った。


「えっ?」


「こうなることはわかっていたわ」とリサ


母親は、魔物の方に見に行こうとしているので、手をつながれたリサは、魔物のところに行った。


どこかの村人が「おい、魔物がでたってよ」


「なんだって、非常事態じゃないか。村の守りを固める必要があるな」


今までは村の近くに魔物が出るなんて一度もなかったから大騒ぎになっている。


俺は両親のあとをついてトボトボ、門番のいなくなった村への入り口を通って、やっと自分の家へ帰ってきた。


お父さんとお母さんに置いて行かれて、俺は、あふれるくらい涙が出てきた。


出てきた涙を袖で、何回も拭きながら、家の扉を開けた。


泣きながら家の中に入ると家は薄暗く蝋燭の火も灯っていなかった。


ダイニングの椅子に二人は頭を垂れて座っていた。


家に入って二人の様子に俺は、すごくショックを受けた。


また以前の怖い記憶………


俺が入ってきても、俺の方を向くこともなく、顔を上げることもない二人。


母親の手を握りたくて、そばに言って、母親の手を握ろうとした瞬間、振り払って自分の部屋に行ってしまった。


父親の方を見て近寄りたかったけど、また手を払われるような気がして足が動かなかった。


父親から漏れた言葉は「お前は、いったい何なんだ…?」と頭を俯いたまま言ってきた。


母親の空いている扉の中から「私は…化け物を生んでしまった…」


俺は、体が急に寒くなって、震えながら立ち尽くして涙が溢れてきた。


俺も訳が分からなくなり自分の部屋に行ってベットの中に潜って、頭から毛布を被ったけど、寝ようとしても涙があふれてくる。


急に手足が冷えて寒くなってきた。


「さ、さむい」


「さむいよ~」とガタガタ震えだす。


母親を呼びたい衝動を我慢しながら、いつのまにか眠っていた。


母親を呼んで、手を握ってもらいたい………


頭を撫ででもらいたい………


「おかあさん………」


*****


俺の顔に、隙間から明かりがさしてきて、俺は目が覚めた。


ガバッと起き上がり、ベットから立ち上がる。


俺の部屋の扉のドアノブをもって回そうとする手に力が入らない。


ドアノブを開けると昨日、あったことが嘘であって欲しい、夢であって欲しいと思い、ドアノブを持つ手が震える。


体重をかけてやっと、ドアノブを回す事が出来て扉を押す。


そこには、微笑む、お母さん、お父さんが………いない……


お父さんがいないことはなかったので、両親の部屋の扉の方をみると、開けたまま………


俺は、その扉の方に歩いていき、ゆっくりと中を覗き込む。


部屋の中は真っ暗………


窓も雨戸がしまっているから、灯がない。


それでも、暗さに慣れてきて、ようやくベットの上に人影がないのがわかった。


あれっ、お母さんも、お父さんもいない………


お父さんは畑かも知れないが、お母さんも、一緒にいったのかな?


「お父さん………お母さん」と呼んでみたが返事はない。


大急ぎで、父親がいる畑にいく事にした。


いつも父親がいる畑についたので、呼んでみる。


「おとう〜さん」 「おか〜ぁさん」


何回、呼んでも、呼んでも………返事もないし、いる気配もない。


俺は涙が流れるのを、袖で拭きながら、両親を探す。


入れ違いになったのかもと思い、もう一度、家に帰ってみる。


家に帰ってもいない………


俺の部屋も、両親の部屋も探してもいない………大きな声で呼んでも、返事もない………


「おか〜ぁさん、どこ?」


「おとう〜さん、返事してよ」


俺は親がいないことにショックを受けて、家の外まで出てきた。


さも、外で泣くことで、どこかに隠れた親が出て来てくれることを期待して。


「うわ~~~~」と泣いても、出てくることはない。


しかし、その声を聞きつけて、俺のもとを訪れた人がいた。


それはリサのお母さんだった。


「アルくん、どうしたの?」


「お父さん、お母さんがいない」


「えっ? まさか?」と言ってリサの母親は、俺の家に入る。


しばらくして出てきたリサの母親は、「いないわね、ちょっと待ってて、畑を見てくるわ」と言って走って行ってしまった。


一度、自分の家に戻って、リサの父親に訳を話して、畑に走っていくリサのお母さん。


俺はリサのお母さんなら、連れて来てくれると期待した。


しかし、しばらくたって戻ってきたリサの母親は、一人だった。


キョロキョロしながら、戻ってきたリサの母親………


「アル君、ごめん、いなかった」


忽然と消えた両親を、朝から村中で捜索が始まったが、村の門番も通っていないと言うことを言っていた。


門を通らなければ、外には出れない。


なので、居眠りでもしていたんじゃないかと疑われたが、それ以上、問い詰めることはできなかった。


言い合いになるだけ………


門番がウソを言う必要はないからだ。


門番は、外からの侵入者を見張る役目を持つ。


だから中から外へ行くのは、自由だから。


****


俺をリサの家族が引き取ろうした。


しかし、それに断固として反対したのが村長だった。


どうしてかわからないが村長が俺を引き取ると言い出した。


打算的な顔つきで、強く言う村長に、だれも逆らえなかった。


そう、両親がいなくなったことを幸いとして、俺に魔法師としての資質に期待した村長。


魔法を使って、魔物を倒した俺を、利用したいんだろう。


そんな村長に誰も、逆らえず、俺は村長の家に居候いそうろうすることになる。


それでも、時々は、リサと遊ぶことができたが、村長は俺に魔法の勉強を強要した。


まずは、字を覚える事、文字をかけること、そして魔法の勉強をさせてみたが、一向に上達することはなかった。



勉強をするよりも、俺は、両親が突然、いなくなったことにショックを受けて文字や魔法の勉強どころじゃなかった。


俺の心は沈んだまま。


そんな俺にイライラしたのが村長の奥さん、「いい加減におし」と言う言葉が増えていく。


村長も、俺をうとましくなってきた。


村長と奥さんでケンカが増えてきた。


俺は子供がいない村長の家で自室を与えられていたが、ブツブツ言うのは同じ事ばかり。


「お母さんが、化け物って言った……」


「お父さんがいなくなった…」


「お母さんがいなくなった…」


「僕が悪いの??」


「どうして?」


そんな俺を村長は、見限った。


村長が俺を手放した先は、軍だった。


たまたま、村を訪れた軍人に俺を引き取って欲しいと願い出た。


軍人は村長と話をしたあと、はした金をもらい俺を、その日に、俺を馬に乗せて数人の軍人と共に歩き出した。


俺の意思とは別に、なにかわからないうちに、どんどん、村から遠くなる。


***


俺は、はした金で、村長に軍に売られた。


****


村に軍人が訪れたのも、村長の思惑だった。


たまたま王都に帰る軍人が俺の村によったらしい。


俺が軍に引き取られたのは八歳の後半になる時だ。


もちろん8歳で軍人になれるわけはなく、 下働きを雇うために孤児になった俺を引き取ったみたいだ。



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お読みくださりありがとうございます。


ブックマークなどの応援、ほんとうにありがとうございます。


この小説はアルベルト編です。


本当に多くの方の支援には心より感謝しております。

そして、何よりも小説を書くための励みになっています。


誤字脱字がありましたらお知らせください、すぐに訂正をしています。


また意味不明な文章があることもありますが、なにぶん素人が書いている文章です。お知らせくだされば、訂正しています。

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