一ノ瀬いち佳の恋奇譚
カラスノエンドウ
第1章
第1話 出会い
「「はぁ~~~~~~!!??」」
人気のない山道に私とそいつの声が響いた。他に誰か人がいたら迷惑になる、なんて考えが一瞬脳裏をよぎったけど、今の私にそんなことを考えている余裕はない。
目の前のそいつは掌くらいの大きさで、私と同じ黒い髪で、烏みたいな嘴で、蜂蜜のような金色の目で、着物みたいな恰好で、背中から生えた茶色の羽で空を飛んで――
――ん? 背中から生えた羽で空を飛ぶ?
思わず二度見した私の目とそいつの目が合うと、そいつは観念したように溜息をついてから口を開いた。
「で? 人間、お前どうやってこの俺と契約を結んだんだ?」
私はポカンとしてそいつを見つめた。契約? 何のことだかさっぱりわからない。それよりも――
「しゃべった……」
「お前、ふざけるなよ! 人間のくせに偉そうな口ききやがって! 喋れるに決まってるだろ!」
そいつは私の発言に大層ご立腹のようだ。そもそも私、なんでこんな目にあってるんだっけ――
そいつと出会う少し前、私は毎朝の日課である走り込みのために山道を走っていた。折り返し地点について、あともう半分、そう思った時、道に何か落ちているのが見えた。
――落とし物?
落ちていたのは紐上のミサンガのようなものだった。何気なく近づいて手に取る。それは紫色をベースにしていて、新品のように綺麗だった。
――あれ?
自分自身、どうしてそうしたのかわからない。けれど、私はそのミサンガに魅入られたようだった。ミサンガを持っていた手は勝手に動き出し、私の右手首にそれを巻き付けた。
――え? なにこれ? なんで勝手につけてるの? 外さないと!
我に返った私は慌ててミサンガを外そうとする。
「とっ、とれない! なんで!?」
引っ張っても結び目をほどこうとしても、それは一向に私の手から離れない。いっそのこと切ってしまおうか、でもそれでは持ち主に申し訳ないし、なんて私が考えているとそのミサンガがぼんやりと光りだした。
「は? え、えぇ?」
私が動揺していると突然、ミサンガがカッとまばゆい光を放った。
「うわっ! まぶしい……」
あまりのまぶしさに、私はとっさにミサンガのついていない左手で目を覆っていた。目を覆ってもまぶしいと感じるような強烈な光はしばらく続いたように感じた。しかし、その光も徐々に収まり、私はゆっくりと周囲を窺いみるように手をどかす。右手についていたはずのミサンガはない。代わりに――
「「はぁ~~~~~~!!??」」
見たこともないような生き物が私の目の前にいた。
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