透ける願い

@aina_1405

第1話

どうしたら、あなたは私のために生きてくれるのでしょうか。




 黒曜石のように冷たく鋭い光を放つ、心臓がキュッとと縮み上がってしまうような瞳が印象的だった。誰にも見せてこなかった笑い顔を、私にだけは向けてくれた。なぜだったかしら、初めて笑ってくれたことがうれしくて、その理由は思い出せないわ。


 「感情を顔に出すってことが、よくわからないんだ。」


 その言葉通り、あなたはいつも同じ顔。楽しいからと口角が上がることも無く、悲しいからと眉を下げることも無い。そんなだからか、私にだけ見せてくれる表情は、いつだってどこか不器用でぎこちないけれど、そんなところも愛おしかったわ。




 お願いだから、一緒にいたいなんて言わないで。


 たなびく線香の煙の向こうで、あなたはやっぱり不器用に笑うのね。でも私に背を向けたとたん、ぐしゃぐしゃに泣いているのを知っているわ。大事な宝物を取り上げられた子供みたいな泣き方を、いつどこで覚えたのかしら。ボロボロとこぼれ出る涙を止めることもできずに、部屋中に響くほどの嗚咽を漏らす姿を、今更見ることができるなんて。


 君の前では笑っていたい、その言葉を守ろうとするあなたを、透ける私の体ではもう触れることすらできないの。




 「君と共に、君のために生きていきたい。」


 そう言ってくれたことを覚えている? 私あんなに嬉しくて涙が出たの、人生であの時が最初で最後だったわ。ねえ、どうか胸が張り裂けるほどの悲しみを誰かに打ち明けて。私と過ごした日々を過去にして、これからの今を生活して。不器用な笑顔を今度は別の誰かに見せて。ううん、もっと上手に笑えるようになったていいわ。


 まだ私のために生きていきたいと思ってくれているなら、どうかあなたは大切な人と共に、これから幸せに生きてほしい。




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