第64話 それは下駄箱に 7/12(火)

 自分が持ってきた事件でないせいか、話しを聞きながら間中は終始不機嫌顔だ。


「あのですね、1つ伺いますが、約束したのは花壇を荒らした犯人を探す事だけですよね?他には?まず探せなかったらどうするんです?」


「花壇を戻すお手伝いを。探せなかったらというのは考えもしなかった。」


「あん?まさか、それ人手だけで済むと思ってませんか?球根とか種とか肥料とかの代金を負担するとか金銭問題入ってませんよね?」


「わっわからん!」


「キィエエーーーッ!!!」


変な悲鳴をあげると間中は走り去って行ってしまった。


 仕方ない。今回の間中の協力は諦めて、当てにならないかもしれない花の証言とあの靴跡、あとは防犯カメラでも校長先生に頼んで解析してみるかと1人で出来る事を考えた。幸太朗は今日は剣道部だ。


 トントン


と、控えめなノック音が響いた。科学部の連中ではないな。来客であろうか。


「どうぞ、如月がおります。」


声をかけると、そっとドアが開き、華道部部長の森田さんがスルッと入ってきて背後に誰もいないのか確認してドアを閉めた。随分用心深い入り方だ。


「どうぞおかけ下さい。今日はどうかしましたか?」


 2回目だからだろうか、彼女は応接スペースの方へ自ら行き、私がすすめる前からもう座っていた。


「今日、佐田さんはいない?」


そう聞かれたので、


「はい」


と答えると、彼女は背負っていた通学リュックからクリアファイルを取り出し中身を実験机の上に広げて見せてきた。


「こんなものが今日は下駄箱に入っていたのよ。花壇荒らしと関係があるんじゃないかと思って。それと佐田さんは荒らしてないかもしれない。」


それは印刷されたもので至って普通のA4紙であったが、


「君が他の男と話すだけで、どれだけ俺が辛い思いをするのか分かっているのか?お願いだから、清いままそのままでいてくれ。花壇のように君をめちゃくちゃにしたくない。」



「キモっ」



読み上げただけで思わず口からそんな言葉が出てしまった。


「いや、失礼。思わず、本音が。これ書いた人、自分が花壇めちゃくちゃにしたって自白してますよね?」


そう聞くと、森田さんは


「だと思います。凄く気持ち悪いです。」


重々しく頷いた。


「佐田はこんな文書く人間じゃないと、小学生の頃から一緒なんで保証しますよ。」



一応幸太朗のために弁護をしてあげた。


「私もこればかりはそう思いました。」













 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る