第36話 蒟蒻ゼリーはサイダー味


「文化祭を支えるとは大変だのう。まとめるとこんなに沢山トラブルがあるのか。」


看板の破損、景品の紛失、外装の黒ビニールの脱落、ステージの音響のミス、展示品被害など。アンケートには様々な問題反省が連ねてあり、もちろん、科学部は佐田が片付けの際ボブ(骨格模型)を倒し、骨盤の破損が悪化した。備品の扱い、管理の徹底に気をつけると書いてあった。


「こんなに普通はトラブりませんよ。ボケですか?逃げですか?」


間中が睨んできた。怖い。


「例年を知らないのでな。」


と本当の事を言ったのに、


「昨年、ボブとかキャサリンとか被害ありましたか?」


「無いな」


「クラス企画で文化祭始まる前に看板壊れたなんて話聞きました?」


「昨年は無かったな。今年、うちのクラスは朝、黒板アートが消されてて騒ぎになったなー。」


またジロリと間中に睨まれた。そして腕を組んで黙られるとなんとも居心地が悪く。


「わかった。間中。おかしい。」


と同意してやると、


「気になりますね?」


と聞いてくる。


「うむ」


思わずうなづくと


「調べますよね?生徒会に協力しますよね?幸太朗危機ですもんね?」


とたたみかけられた。


「それだ!なんで幸太朗疑われたんだ?」


「ここ見て下さい。科学部に名前が出てしまったのと文化祭の門の一部を壊したのが幸太朗らしく、こちらにも名前が出ている。余罪が無いか調べられてます。」


 そこで、理科室2のドアがいきなり開いて驚いて目を向けると、幸太朗が立っていた。通学リュックを背に左手で引き戸を開け右手には木刀を持っていた。


「木刀?」


思わず声をあげると、表情もなく私の方を向き、


「竹刀じゃ痛くないから。武道館の木刀借りてきた。」


「痛くない。??」


首を傾げて間中を見やるとガタガタと震えている。幸太朗は木刀を間中の首に向けていた。


「間中、お前がコケて俺が支えきれなくてボブは倒れたんだ。門は頭がぶつかって壊れただけだ!俺の名前だけ報告書に書くから他にもやってないか調べられた!犯人扱いだ!」


幸太朗が怒っている。

これは危ない。

理科室2が。


 木刀は間中の首狙ってるけど、振り回したら、ホルマリン漬けが危ない。何故、あそこにホルマリン漬けが!割れたら片付けが面倒くさいではないか!慌てて自分のリュックを漁る。


「幸太朗、どうどう。落ちついて。蒟蒻ゼリー西瓜味、あげるから。」


「西瓜味嫌い。俺、蒟蒻ゼリーはサイダー味しか食べない。」


間中を睨んだままだ。間中は口をぱくぱくさせて言葉を発せていない。


「間中、謝らんか、こら」


「謝ってすんだら警察いらない。」


幸太朗が返してくる。えっとぉ、


「幸太朗、間中が明日お詫びに超特大チョコチップメロンパン買ってくれるって、なっ」


間中がうんうんうなづきはじめた。


「とりあえず木刀はおさめて、ほら、お座り」


幸太朗めがけて幸太朗がいつも座るキャスター付き椅子を飛ばす。それを足でキャッチして止めるとようやく木刀を下ろしてリュックを下ろして幸太朗は座った。ただ木刀で床をドンと刺すから間中はビクッと身体を縮めたようだった。







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