第16話  5/28(金)放課後〜5/29(土)

 吹奏楽部の引退は8月から始まる大会が終わるまで、いわば、上に行けなくなるまでのため、A1高校は九月末になる事が多々ある。そのため、受験を理由に三年生になった途端にやめてしまう部員も多く、現在5月の時点で残っている三年生は第一発見者の部長、副部長の他に金管のリーダーの3名のみであった。朝、昼休み、放課後に行われた大体1人5分から10分総勢31人の面談は18時半に終わりを迎えた。


 最後の1人を送ると表情筋が壊れて屍と化した細田はぐったりと机に突っ伏してた。


「細田ご苦労だった。これは、部費から労いねぎらいだ。」


 先程、自販機で購入してきた炭酸飲料を細田の側に置いてやった。


「如月部長、怪しいとか目星つけました?」


 間中が聞いてきた。


「うーん。パーカスの子がな。まあ、ノートにもメモったし。」


「あの部長がおかしい。」


 幸太朗は部長が気に入らないらしい。しかし、私には三年になっても残る覚悟を決めた彼女に騒ぎを起こすメリットがあるとは思えなかった。何より第一発見者を疑えなんて初歩の初歩すぎる。

 

 次の日、細田はバスケ部に行き、間中と私と幸太朗は理科室2(数学班、科学部部室、実態は理科室倉庫)に集まった。普通、科学部は土曜日には活動しないのだが。やることが沢山ある。仕方がない。


「間中、音楽室の鍵について確認してくれたかの?」


「鍵は音楽室と準備室と準備室と音楽室の間の3箇所。理科室と仕組みは一緒ですね。音楽室の鍵はディスクシリンダーで準備室の鍵はインテグラル錠のピンシリンダーですね。」


 鍵の名前に?の顔でいると、


「要はピッキングが簡単な鍵って事ですよ。でも、それは見てきましたが、特に素人がいじったような跡はありませんでしたがね。」


 と説明してくれた。


「3箇所の鍵が全部揃ってるのが職員室に。顧問が準備室のみの鍵を自分で持ち、音楽室のみの鍵を土日やコンクールなど必要に応じて部長に渡しているとの事でした。テスト前の部活最終日は職員室の鍵で早く来た一年生が開けて最後に閉めたのが証言通り二年生で、ちゃんと職員室に戻してますね。ただ今回、土日部活がないのに部長は鍵をそのまま持っていて事件当日朝、第一発見者になったと言ってましたよね。ぶっちゃけ部長はいつでも犯行が可能ですよね。」


「あの像の紙粘土があまり乾いてなかったんだ。実験してみても良いけど、多分前の晩あたりに作ったとしか思えん。」


 と私が呟くと、


「犯行自体が吹奏楽部をよく知ってる奴じゃないと不可能です。損害賠償とか請求されにくく、暴力的でなく地味に嫌な所をついていますから。内部か内部が手伝ったか…元部員か?大体あの部長が他校の恨みをかっているかもなんて言ってましたけど、侵入者の形跡はないって学校側の証言があります。よって、うちの生徒もしくは先生の犯行って限定されますよね?」


 と間中が昨日作った部員の調書を眺めながら言う。


「防犯カメラの画像から事件当日校内に居た人間は割り出せるのではないか?まあ、その前に行なわれたとすると難しいが。一応確認させてもらいたい。」


と間中と防犯カメラについて話していると、パソコンをいじってた幸太朗が印刷機が吐き出した紙をこっちによこした。


「数学班に吹奏楽部は予算管理依頼してるんだよね。部費集金名簿を照らし合わせたら途中退部者が分かったよ。」


 幸太朗、そんな風に頭を使う事もできたのかと見やると褒めてって感じのつぶらな瞳と目があってしまった。尻尾でもあればふってそうだ。犬か?犬だ。


「でかしたな。幸太朗。」


 犬は褒めて育てねば。







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