第53話:新公王

 国王陛下と王妃殿下、王太女殿下の厳しい抵抗を受けて、俺も公王に戴冠しなければいけなくなってしまった。

 こうなる可能性が一番高い事は分かっていたが、本当になってしまった。

 王家の方々の性格と今後の事を考えれば、当然だともいえる。


 新たに王家を名乗るのだから、権威付けはとても大切だ。

 本当なら俺よりも大帝国の皇子か古い歴史を誇る王家の王子の方がいい。

 それをどこの馬の骨とも分からない、元孤児を王太女の配偶者に迎えるのだ。

 公王家の養子ではなく、公王家の当主、現役の公王の方がまだマシなのだ。


 流石に王家の方々が言うように、自分が軍功誇って王を名乗り、公太女のマリアお嬢様を王妃に迎える訳にはいかない。

 そんな事をしてしまったら、側室として迎え入れた連中とその家族が、新王家の次期国王の座を巡って血で血を洗う暗闘を繰り返すに決まっている。


 もう一つ提案された、アウレリウス・ジェノバ家の方々を新たな王位につけるだけでなく、俺自身も切り取った領地を治める新たな王家を興す案だった。

 マリアお嬢様と俺が結婚して、生まれてきた子を連合王国の大王とする。

 一見公平のように見えるが、これも将来争いになるのが目に見えている。


 俺の切り取った領地はアウレリウス・ジェノバ家の二十倍はある。

 俺と側室の間に生まれた子供を、その国の王にしようとする者が必ず現われる。

 そして激しい内乱を引き起こす事になる。

 マリアお嬢様と俺の間に生まれた子を、俺の血が流れていない不義の子と罵って、連合王国の王位に就く事を否定したり、暗殺を謀ったりする者が数多く表れる。


 まあ、この程度の事は、国王陛下はもちろん、ソフィア達も理解している。

 ソフィアをマリアお嬢様の護りにつけなければ、もっと俺の思い通りにやれた。

 だが、主家の存亡にかかわるような重大な事でない限り、家臣の俺が主家を操るような真似をするわけにはいかない。

 それに、マリアお嬢様の安全を確保するには、ソフィアを軍師兼戦闘侍女としてお側近くに仕えさせるしかなかった。


「マッティーア、俺はアヴァール可汗国に攻め込む。

 屋敷の事はもちろん、領地や孤児院のことは任せる」


「承りました、ご武運を祖霊に願ってお待ちしております」


 流石マッティーアだ、余計な事は何も言わない。

 マリアお嬢様やフェデリコ国王陛下の威信を少しでも高めるためには、婿に入る俺が武名をもっと高める必要がある事を、マッティーアはよく知っている。

 それに、敗勢になった者は、体勢を立て直す前に徹底的に叩かなければいけない。

 他の国に美味しい所をかすめ取られないようにするためにも、一日も早くアヴァール可汗国から領地を切り取らなければいけないのだ。

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