第48話:口舌の徒・マリア視点

「立てよ公民、今こそ公民の勇気を示す時ぞ。

 マリア公太女殿下を色情狂からお助けするのだ。

 身分卑しい孤児だった詐欺師の魔の手からお救いするのだ」


 公城の遠くから、とても聞くに堪えない、お義兄様に対する悪口雑言が聞こえてきますが、もうこのような汚らしい言葉を耳に入れたくありません。


「あのような事を口にして、わたくしが嫌うとは思っていないのでしょうか」


 わたくしが腹立たしさを抑えきれずに思わず口にすると、ソフィアも同じように腹立たしく感じていたのでしょう、不機嫌を隠しきれない表情で答えてくれました。


「マリア公太女殿下を力尽くで自分のモノにすれば、どうとでもなると考えている、本当の女の愛情を知らない愚かで身勝手な屑でございます」


「ソフィアがいて、あのようなモノを野放しにしていたのですか」


 今も続くお義兄様に対する悪口雑言に、ソフィアを非難するような事を口にしてしまいましたが、八つ当たりだと分かっているので、直ぐに詫びました。


「ごめんなさい、ソフィア。

 あまりに汚い言葉をずっと聞かされているので、つい八つ当たりしてしまいましたが、これもお義兄様の指示なのですよね」


「はい、これを機会に、公国に残る悪しき者達を一掃する予定でございます。

 ついでに、艦隊で攻め込んで来るであろうローマ海軍を拿捕して、公国海軍を充実させるのだとエドアルド公子殿下は申されておられました」


「お義兄様の悪口を言っている連中を八つ裂きにしたいのですが、人質にして身代金を取るので、駄目なのですよね」


「よくエドアルド公子殿下のお考えを理解されておられますね」


「少しでもお義兄様の御手伝いができるように、足手纏いにならないように、お義兄様ならどうされるか常に考えていましたから、当然です。

 ですが、今回に限ってはうれしくありません。

 少々の身代金をいただくよりも、お義兄様の悪口を言ったらどうなるか、思い知らせてあげたいですわ」


「ご心配には及びません、マリア公太女殿下。

 エドアルド公子殿下のご指示通り、ローマの腐れ外道達は、身代金を取ればローマに返しますが、帰った途端に事故死いたします。

 エドアルド公子殿下に命を救っていただき、今の地位にまで引き上げていただいた者達全員が、この耳にするのも汚らわしい悪口雑言に腹を立てております。

 あの者がマリア公太女殿下の配偶者に相応しいか調べるために、数多くの偵察要員が送り込まれていますから、簡単に事故死させる事ができます」


「お義兄様に知られたら、ソフィア達が叱られるのではありませんか。

 それでは申し訳ないので、わたくしが命令しましょう。

 ソフィア、わたくしを襲おうとした者を許すわけにはいきません。

 公王陛下やお義兄様が許されても、わたくしが許しません。

 どのような手段を使っても構いませんから、ローマの屑を殺しなさい」

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