雨天喜蛙之介の超速ショートショート
@utenyakaerunosuke
現金は給付金で五万円、クーポン券は五万円です。
とある国の議会にて、与党代表と野党代表が対立しておりました。
与党代表
「・・・・というわけで、今回の給付金は現金で五万円、クーポン券で五万円ということに決まりました。」
これを聞いた野党代表が激しい口調で反論します。
「なぜ、現金とクーポン券で分けるんだ!
そうか、手間を増やすだけ中抜きしやすいという魂胆が見え見えだ!
どうせ自分たちの関連企業で作業を法外な値段で請け負うんだろう。
いったいいくら中抜きする気だ!この腐敗政府め!」
「今回の給付費用自体は10兆円を予定していますが・・・その他もろもろ経費を合わせて、予算全体は310兆円です。」
「さ・・310兆円???300兆円も中抜きするってのか??」
これには野党側もさすがに目を丸くして、呆気に取られています。
「はい。その通りです。国民全員に10万円ずつ給付しますが、加えて三百万ずつ中抜きさせます。」
「え・・・??国民全員に??」
どこかまだ狐につままれたような表情の野党代表
与党代表はさらに続けました。
「みなさん、中抜き中抜き、とずいぶん悪いことのように非難されますけどね。
そもそも、経済活動は多かれ少なかれそれ自体中抜きの要素がありますよ。
問題は、中抜きそれ自体ではなく満遍なく金が回らないことなのです。
つまり中抜きが悪いというよりは、中抜きが一部の者に偏るから悪いのです。
そこで赤ちゃんから老人まで国民全員に平等に中抜きさせることにしました。
もちろん皆さんクーポン券印刷の仕事に関わるフリをしていただいて。」
さっきまでずいぶん激しく怒りの表情を浮かべていた野党側もこの主張にはざわざわし始め、口々に意見を始めます。
「な、なるほど・・・そうすれば、皆に平等に金が回ることになる・・・」
「そうか、国民全員での中抜きは結果的に金の流動性を高め・・・」
「そ、そうか反緊縮財政とも言えるのかもしれない。そしたら、最終的に国民生活が豊かに・・・・」
「なるっていうのか・・・まさか・・・」
与党代表はそこで声を一つ張り上げて、
「そうです。これは新しい経済政策なのです!
この中抜きは、いわば平等な公共事業的出資、それによって経済を下支えしようという、カルヴァンもマルクスをも超える資本主義でも共産主義でもない我が国独自の経済政策なのです!我が国古来の伝統を生かした名付けて『中抜き主義』です!!!」
ついに野党側も納得したように、
「おお!そうかそれなら!!この国未来は明るくなる!!」
。。。。
経済というのは人智を超えた不思議なものです。
どんな偶然から新しい社会経済が生まれるかわかりません。
この政策は見事与野党全体の賛同を得て、翌週から実行に移されました。
そしてこの国は生産者がいなくなって破綻したのはいうまでもありません。
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