第57話 聖王女

モヒカンと話して2週間ほどが経つ。

その間、俺は冒険者としてクエストに勤しんでいた。

そんなある日、宿屋にモヒカンがやって来て、明日の正午に王都東の森の湖畔にまで来て欲しいと言われる。

どうやら偉い人が俺達と会いたがっているらしい。


俺は言われた通り、翌日素直に指定された場所へと向かう。


「よお」


森の中を進んでいると、見慣れたモヒカンが現れ手を上げる。

湖畔まではまだ距離がある筈だが?


「何でここに?」


「迷子になられるとあれだからな、此処で来るのを待ってたのさ」


「そうか」


だったら森の入り口で待っとけよ。

ニアミスしたらどうするつもりだったんだ?


「案内する。ついて来てくれ」


此方にはポーチがいるので迷う事は無いのだが、気を利かして案内してくれるのなら断る理由も無い。

俺は黙ってその後に続いた。


前を歩く男。

モーヒ・カーン改め、アッシュ・グレイスは政府側の人間らしい。

彼の所属する機関では哭死鳥関連の調査が進められており、その過程で俺の情報を手に入れ、此方へと接触してきたとの事だ。


勿論その話を鵜呑みにする気はない。

彼が政府筋かどうかの明確な証拠は示されていないからな。


だがまあ、嘘か誠かは正直どっちでもいいというのが本音だった

どっちに転んでも損は無いだろう。


政府筋なら協力の見返りにある程度の情報を貰う事も出来るだろうし、哭死鳥だったならぶちのめして情報源にする事が出来るからだ。

寧ろ哭死鳥であってくれた方が話が早い。


「もうつく。高貴な方だから失礼の無い様にたのむ」


森の木々の隙間から開けた場所が見えた。

この先に貴人がいる様だが、それが誰だかは事前に聞かされてはいない。

まあ聞いても分からないから別にいいけどな。


「よく来た」


開けた場所――湖畔には女性が立っていた。

勿論一人ではない。

姿は見えないが、湖畔の周囲からは10人近い人間の気配が漂っている。

恐らく彼女の護衛だろう。


女性は美人さんだった。


日の光に、ウェーブのかかった髪がキラキラと煌めき。

その強い意志の籠った眼差しは、髪と同じく黄金色をしている。

肌は褐色で金の髪と瞳が映える色合いをしており、整った顔立ちにぷっくりと膨らんだ桜色の唇と合わせて、その姿はとても扇情的な美貌に見えた。


物凄い美人だ。

只、欠点を一つ上げるとするなら――


それはごつい事だった。


身長は明かに俺より高く。

ひょっとしたら2メートルぐらいあるかもしれない。


女性は黄金色の鎧を身に付けているのだが、かなりパーツが少なく、ビキニアーマーとまではいかないが肌の露出が多い。

そしてその鎧の隙間から見える腕も足も腹部も、その全てが分厚い筋肉で覆われていた。


控えめに言っても、ゴリマッチョと言って差しさわりないレベルの体つきだ。


だがそのくせ、胸だけはその存在感をハッキリと主張してやまない。

恐らくEはあるだろう。


その体格でどうやったらそんなたわわな果実が実るのか?


正に奇跡としか言いようがないアンバランスである。


「おつれしました。聖王女様」


そう言うと、アッシュはその場で片膝を付いて首をこうべ垂れた。

その視線は此方へと向いている。

どうやら俺にも同じ事を求めている様だ。


だが残念ながら、俺は権力には屈しない。

俺が屈するのは巨乳のみ!


よって俺はその場で片膝を付いて、頭を下げた。

巨乳イズゴッドだ。


ポーチも俺の真似をして膝を折る。

お前もいつかあれぐらいに成長するんだよ。

期待しているからな。


「堅苦しいのはいらん。おもてを上げよ」


そう言われ立ち上がる。

勿論視線はその豊満な胸元に常時ロックオンだ。


「初めまして、ザ・ガッツ様。俺はカオスと言います」


「ザ・ガッツ?」


ザ・ガッツ――じゃなく、聖王女様が訝し気に聞き返してくる。

失態だ。

ついつい心の中で考えた渾名が口を吐いてしまった。


「あ、お気になさらずに」


しかし聖王女か……

聖王国トップの娘な訳だから、本物なら相当大物という事になるな。


「お前達の事は、アッシュとバニラから報告を聞い受けている。何でも哭死鳥に命を狙われ、その報復の為にこの聖王国へと不正入国して来たとか」


「まあそうなりますね。入国に関しては国政に関わる方から許可を貰っているので、正当な物ですけど」


許可を出せる人間から許可を貰っているのだ。

許可基準が違法だったとしても、それは相手側の問題であって俺の問題じゃあない。


だからその事で責められる謂れ等ない!


といいな!


「まあ命のかかっている事だ。その事は不問にしよう。そもそも我が国の管理の甘さから、哭死鳥なる賊の蠢動しゅんどうを許してしまっているだからな。迷惑をかけた」


そういって聖王女は此方へと頭を下げた。

偉い人間ってのは偏屈で傲慢ってイメージだが、この姫様はどうやら話の分かる人間の様だ。


「では、始めようか」


頭を上げたかと思うと、姫さんが腰に掛けていた黄金の剣を何故か引き抜く。


ん?

始める?

どうゆう事だ?


「協力者として相応しいか、貴様らの実力を試させて貰う」


「君達は哭死鳥に狙われてるからな。弱いようなら保護で、腕が立つようなら協力して貰うって話さ」


アッシュが補足を入れて来る。

お陰で理由は分かった。

だが意味が分からん。


何でそれを聖女王様がやるんだ?

やっぱ偽物なのか?


「聖王女様は自分で試した者の事しか信用されんのだ。あの方は、この国屈指の実力の持ち主だ。遠慮せず胸を借りてこい」


胸を借りてこい!?

おいおい、いいのかよ!?

あのたわわな胸を借りても!?

触り放題とか最高じゃねーか!!


鎧の隙間に手を突っ込んで――そう妄想しようとして、ポーチと目が合う。


うん、一気にボルテージが下がった。


流石に彼女の前でそんな破廉恥な真似は出来ない

どうやらポーチを連れて来たのは大失敗だった様だ。

俺は小さく溜息を吐く。


「行きますよ」


取り敢えず構えた。

まあ適当に相手をしてやるとしよう。

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