第52話 入国

――聖王国。


大陸東部に位置する巨大宗教国家。

それが聖王国だ。


国民のほぼ全てが女神アイルーを信仰しており。

神の名の元、聖王国では全てが等しく平等に生きる事を掲げていた。


まあ、平等というのは所詮建前ではあるが。


国という体裁を取る以上、権力を握る者というのは確実に存在している。

神に選ばれた――という前提の――聖王を頂点に、それを補佐する神職という名の貴族まがいが幅を利かせているのが良い証拠だ。


神託だの戒律だのと大層な物を前面に押し出してはいても、それらを作ったのは所詮人間であり、結局貴族社会を宗教のヒエラルキーに置き換えただけでしかない。


上の人間が権力を利用し、私欲を満たす。

それは聖王国でも変わりはしないのだ。


まあ何が言いたいのかというと。


門兵に金を握らせ。

上の人間とコンタクトし。

そこで更に金を握らせ。

更に上の人間に――以下略。


「入国成功!」


関所で数日足止め――偉い奴が来るまでの待機――を喰らったが、何とか正式?な方法で聖王国に入る事が出来た。


所詮世の中金だ。

お宝をがっぽりくれたドラゴンの奴には、今度お礼を言いに行こう。

そのついでに寂しくなった倉庫のお宝を補充するのも悪くはない。


俺の配下になった訳だしな。

つまりアイツの物は全て俺の物という訳だ。


俺は足を止め、懐に収めていた白い笛を取り出す。

これはドラゴンの牙から削り出し、作られたマジックアイテムだ。

俺への忠誠の証として、あのドラゴンが寄越してきた。

まだ試してはいないが、一吹きすればドラゴンはすっ飛んでくるらしい。


かなり離れているが、聖王国ここで吹いても聞こえるのだろうか?


「父上、どうかされましたか?」


「いや、何でもない」


足を止めて笛を繁々と眺めていたたため、ポーチが不思議そうに俺を見てくる。

軽く手を振り、俺は懐にそれを収めて再び歩きだす。


ちょっと試しに呼び出してみようかとも思ったが、止めておこう。

あれだけの巨体だ。

もう関所からは大分離れてるとはいえ、あんなのが空を飛んで来たら騒ぎになりかねないからな。


取り敢えず、目指すは聖都。

聖王国の首都だ。

正確な場所までは掴めていないが、そこに哭死鳥の本拠地があるらしい。


首都に暗殺集団の本拠地があるとか、治安どうなってんだって気がしなくもないが。まあ魔法はあっても、中世ぐらいの文明レベル世界だしな。

その辺りが緩いのはある程度は仕方がないのだろう。


「ポーチ。周囲に人間の気配はあるか?」


「いえ」


「んじゃ、走るか」


ちんたら歩いて向かったのでは、首都までは何週間もかかってしまう。

人目が無いのなら、駆け抜けるのが一番だ。

まあ一日二日もあれば付くだろう。


姿さえ消せれば本来の姿で半日で飛んでいけるのだが……残念ながらその手の隠密系のスキルは持ち合わせていない。


まあスキルポイントで取る事も出来なくはないのだが、現状、余剰になる分は全てレベルアップの補助関係に回している。

出来たらラッキー程度に考えているとは言え、魔王対策も可能な限りしておきたいからな。


「透明になれれば、風呂だって除き放題なんだがなぁ」


勿論紳士な俺はそんな風に悪用するつもりはない。

あくまでも可能性を語っただけだ。

本当だよ?


「父上?」


「ああ、気にするな」


再度問いかけられるが適当に流す。

高度に政治的な問題なので、俺が何を考えていたのかなどポーチが知る必要は無いのだ。


そのまま大地を強く蹴り、俺は前傾姿勢気味に走り出す。

その背後には黙ってポーチが続く。

誰もいない道を真っすぐに駆けていると、心の奥底からある衝動が突きあがる。


俺は自ら本能に従い、軽くジャンプして拳を突き上げ叫んだ。


「俺達の冒険はこれからだ!」


FIN!


「父上?」


背後から怪訝そうなポーチの声が聞こえたが、俺はそれに答えず真っすぐに走り続けた。


そう、俺の冒険ハーレムはこれからだ!

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