第16話 殴り合ったらそれはもうダチ公

それはもう怪獣大戦争だった。

二匹の獣が周りの木々を豪快にへし折りながら、くんずほぐれつ暴れ周っている。

正直、余りにも豪快なバトル過ぎて俺の出る幕はない。


魔法を撃とうにも動きが速すぎて狙いが付けづらく、誤ってポチにも当たってしまいそうだし。

何より俺が使う程度の魔法では、焼け石に水程度で大勢には影響しないからだ。

そう考えると、ポチに当てるリスクを背負って迄やる価値は無いだろう。


しょうがないので、俺は寝そべって2匹の戦いを観戦する事にした。

偶にこっちに突っ込んできて粉砕されるが、気にするほどの事でもない。

何となく「ワタシノタメニアラソワナイデ」とか言ってみようかとも思ったが、止めておく。

だらけているとはいえ、それぐらいの自制はあるつもりだ。


戦いは既に数時間にも及んでいるが、未だに決着がつく様子はなかった。


二匹とも化け物みたいなスタミナしてやがる。

流石上級クラス。

俺も早く上がりたいものだ。


戦況的にはポチが若干押している感じかな。

だがそれは、スピードにおいてポチがワイルドベアに勝っているからそう見えるだけだ。

パワーでは熊の方が上である事を考えると、ほぼ互角と考えて間違いないだろう。


「頑張れポチ!」


兎に角、戦いが凄すぎて肉壁すらこなせない身としては、応援するしかやるが事がなかった。

ポチにはガールフレンド第一号になって貰わなければならないので、ここで負けて貰っては非常に困る。

死ぬ気で頑張って貰いたい所だ。


なので俺は声援を送り続ける。


「頑張れポチ!」


長い長い戦い。

二匹の獣による戦いの決着は、意外な形で終わる。

クロスカウンターによるダブルK,O。


なんで熊と犬が立ち上がってパンチしてるんだという疑問はさておき。


2人の拳(肉球?)が交差し、お互いの顔面を綺麗に捉えた。

その衝撃で二匹とも盛大に吹っ飛んで、先程からピクリとも動かない。

ポチが息をしているのを確認した俺はほっと胸を撫で下ろし、次は恐る恐るワイルドベアーへと近づいた。


――死んだかな?


うん、死んでない。


近づくとワイルドベアーの瞼が開き、ぎょろりと此方を睨みつけた。

当然次の瞬間ワイルドスイングが飛んで来て、俺は即死する。

死んだふりとか卑怯な奴だ。


そのままのそりと、ワイルドベアーが起き上がってくる。

このままではポチがやられてしまう。

そう一瞬思ったが、ポチの方もごろりと転がってから起き上がってきた。

どうやらポチもまだ戦える様だ。


しかし本当にタフな二匹である。

勝負の行方がまるで読めない。

獣なのに、お互い後ろ足の2足だけでのしのしと間合いを詰めていく。

俺はその様子を、固唾を飲んで見守る。


最早この二体の戦いは、俺にどうこうできるものではない。

ただポチの勝利を祈るのみだ。


第二ラウンドの開始と言わんばかりに、徐にポチが左手を前に出した。

相手との間合いをその手で測っているのだろうか?

これに対してワイルドベアも左手を伸ばし、そして二匹の左手が激突する。


なんて事にはならず――何故かお互いの肉球を押し付け合う形で止まっていた。


その様はまるで……そう、まるで握手の様だ。

……いや冗談抜きで握手だ、これ。


ポチとワイルドベアーはその場から動かず、お互い口の端を歪めて笑う。


なにこれ?

どうなってんの?


「オメェさやるだなぁ。うち、こんな強い奴初めてだっぺ」


俺が混乱していると、ワイルドベアが口を開いた。

その言葉は随分と訛っている。


……って!こいつ喋れるのかよ!?


いや、熊が喋れるわけがない。

ひょっとして殺され続けたショックで、俺が動物の言葉を理解出来るスキルに目覚めでもしたのかと思い、ステータスを確認する。

が、言語に関するスキルなど当然一覧にはない。


「ワウワウ!」


ベアの言葉に答える様、ポチが吠えた。

うん、わからん。

どうやら動物の言葉を理解できる様になった訳ではない様だ。


となると考えられるのは……ユニークスキルか。

どうやらこの熊は、言語系のユニークスキルを所持している様だ。


「いやいや、そっちこそすごかったぺぇ」


しかし凄い訛りだ。

後、声からして雌っぽい。

でもちょっとだみ声だし、訛ってるだしで、擬人化しても全然可愛くはなさそうだ。


「わおおーーん」


「え!?一緒にだべか?」


「わわお」


「んん?通訳?こんな腐れと何を話すっつーんべか」


ワイルドベアが汚いものを見るような眼で、此方を見てくる。

いやまあゾンビだから確かに汚いんだけども……


「別に一緒でもいいがやが、あれと一緒っつーのはなぁ」


「わうわう」


「へぇ。こんな見た目してくさってるのに、美味いんだべか。ゾンビは見た目に寄らねぇな。まあ、非常食って考えれば、我慢できなくもないかぁ」


誰が非常食だ。

誰が。

てかポチにとって、俺は美味しいのか。

そいつはゾンビ冥利に尽きるってもんだ。


いやいや喜んでいる場合じゃない。

何で一緒に行動するっぽい交渉なんか、勝手にやってるんだ?

ポチは。


俺は嫌だぞ。

こんな乱暴なブス熊は。


「よし分かったべ!おらも付いて行くべ!これから宜しくな!」


「良くねぇよ!どっかいぶべらっぷ」


苦情を言おうとしたら、言い終わる前に鉄拳制裁が飛んできた。

美人ならともかく、ブスにされる暴力程不快な物はない。


「餌がなま言ってんでね!おめぇは黙って付いてくればいいだよ」


「わう!」


くっそー、覚えてろよ。

レベルを上げて、絶対ギャヒンギャヒン泣かせてやるからな!


こうして俺に新たな仲間てきと新たな目標が出来る。


ハーレムの道は1日にしてならず。

俺はこの試練を乗り越え、必ずやハーレムキングになって見せるぜ。

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